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第六話 真・学校の怪談(上)

今回の話は、笑いの要素は無しです。

人によっては、不快に感じる内容かもしれませんので、ご注意ください。

 これは、後で知ったあの子の最後の話。

 私、瑠美子は知らなかった。親しくも無い同学年のあの子の、最後の願いと、最後の記憶の話。そして、最後の絶望の話。

 時は、私が小学六年生まで遡る。



***



 またやってる。

 私はそれぐらいにしか思ってなかった。クラスメイトの三人が、隣のクラスの女の子とよく遊んでいたのだ。いや、女の子で、と言うべきか。

 普段からよく四人でいることが多かった。クラスメイトの三人と私も接点があまり無かったので、詳しいことは分からない。その三人は髪を染めて、派手目の服を着ていて、偶然見えた財布はブランドものだったりと、正直、ホントに同じ小学生かと、友達と笑い合っていたものだ。住む世界が違う。まあ、ただそれだけの話なんだけどさ。

 隣のクラスの女の子は、地味だった。それまで奇跡的に同じクラスになった事が無かったのもあるのだろうけど、イマイチ顔を覚えていなかった。名札を見て、ああ。となる程度だった。その三人と居る以外は独りでいることも多かったし、運動も苦手そうで、こっちも私との接点は殆ど無かった。

 私も別に友達が多いタイプじゃ無いし、特に気にする必要は無いんだ。本来は。

 

 またやってる。

 それが何を指すのか、考えるのも気持ち悪い。

 パッと見はそうは見えないけど、多分いじめか、パシリとかそんな感じの関係だったんだろう、あの三人と一人は。

 私は正義感が強いわけでもないし、先生が何か言ってたとかも無かったし、具体的なところを見たわけでも、もちろんない。友達に話しても簡単な同意を得られるぐらいにはそれっぽく見えたとしても、やっぱり私には関係の無い話なのには変わりは無かった。

 でも、一度だけ見たあの光景が忘れられなかった。笑う三人に対して、頭を下げる一人。下げるって言っても、私が親友の加奈にゴメンってする感じじゃなくて、先生に嫌々頭を下げる感じでもなくて、一度、兄がケンカで相手に怪我させちゃって、相手も兄に怪我させて、その相手の親が家に謝りに来たことがあった。お母さんとお父さんと、向こうの親がみんなで頭を下げてた。

 隣のクラスの女の子のごめんなさいは、そんな感じだった。大人みたいですごく嫌だった。何だアレ。


 ある日、四人とも学校を休んだ日があった。

 一日だけ。

 何も連絡が無かったらしく、朝の会で先生がこの場に居ない三人に怒っていたのが印象に残っている。ただ、その日はそれだけだった。それだけだったのだ。もし時を戻せるのならば、私はその日に戻り、卒業まで家から出ないよう自分に言い聞かせたいと思う。



***



 「おっはよー」


 そう言って、私は自分の教室に入った。返事はパラパラとあるだけで、朝もまだ早い。

 趣味の自転車で朝かるく走った後、ごはんをたべて学校に来る。

 早朝の気持ちの良い時間帯を選んで自転車で走るから、そのままの流れで登校すると自然と早く学校につく。朝一の人の少ない校舎内は、なんとも言えないワクワクを感じられるから割と好きだ。ただ、加奈に話したら男子みたいだって言われたのがちょっと悔しい。ていうか、それ以外でも男子みたいだって言われることが多い。なんか納得いかないわ。

 自分の机にたどり着き、ランドセルから机へと教科書と筆記用具を移す。空のランドセルは教室後ろのロッカーへポイだ。六年使っているから、結構くたびれてきている。周りの男子も似たようなものだが、そう言えば加奈のランドセルは綺麗だ。

 その後は席に座ることなく、すでに来ていたクラスメイトとゲームやマンガの話で盛り上がっていた。

 朝の会まで後十分ってところで、親友の加奈が教室に入ってきた。身長が私より高く、髪が私より長く、あと胸が私より大きい加奈は、町を歩くと中学生に間違われることも多い。大人っぽくてズルくて、大切な親友だ。


「おはよ、るみっち」

「おはー、加奈」


 加奈とは席は隣同士だ。今年の担任の先生は、席替えの勝敗には興味が無いらしくて、割と適当に決めるのだ。おかげで加奈とずっと隣になれたので嬉しいんだけど、席替えのクジを引くドキドキは嫌いじゃなかったな。


「今日も三人は来てないんだね」


 加奈が空席を見る。もう朝の会まで時間も無いし、ほとんどのクラスメイトが登校していた。だから、あの三人がまとまって座っている窓際の席が空なのが、ものすごく違和感があって怖い。


「あー、三人そろって二日連続なら、インフルエンザとかじゃないの?」

「うえー、嫌だなあインフル。学校休めるより寝たきりで死にそうだよ」


 加奈がげんなりとぼやく。加奈は一昨年にインフルエンザに罹ったので、その苦労と面倒くささが身に染みているのだろう。私も気をつけなくちゃ、趣味の自転車に乗れなくなる。

 インフルエンザの話題が出ると、クラスの何人かが学級閉鎖を期待しだす。いや、気持ちは分かるけど、みんなまとめて寝込みたいのかって話だ。


 その後、担任の先生が来て朝の会が始まる。今日はちゃんと三人から連絡があったみたいで、普通に病欠として終わった。その後、簡単な連絡事項が終了して先生が退室していった。


「ねえねえ、瑠美子。あの三人さ、本当に病欠かなあ」

「さあね、知らんし興味もないよ」


 三人が揃って休んでいることに、少しだけ好奇心が刺激されるけど、それだけだ。そんな事に頭を悩ますくらいなら、放課後に何処へ遊びに行くか考えたほうがましだわ。

 ふと、隣のクラスの例の女の子も、今日も休んだのかが気になった。


 そのまま、午前中の授業を終えて給食の時間を経て、昼休みになった。

 ここまでの時間は早いと思う。給食を食べるまでが前座で、昼休みが本番だからだ。こんな事を考えているから男子なんだそうだが、女子も一緒だと思うけどなぁ。

 とりあえず運動場に先行した男子に合流するために、加奈に手を振り教室から廊下に出る。加奈は教室で他の女子と何か可愛いノートで遊んでいた。

 あ。

 駄目だ。

 ヤバい。

 廊下に出たとたんに。

 感じてしまった。

 ソコにいる。

 ソレの存在を。

 見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見ら「ダイジョウブ?」れてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られ「ダイジョウブ?」てる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られて「ネエ、ダイジョウブ?」


 突然声を掛けられて、はっと我に返る。


 汗がすごい。背中がすごい濡れてる。


 心臓がドクンドクンと脈打つ。


 視線を周りに向けると、みんなが教室から出ていくところだ。目的地は運動場や図書室とかで、つまり、昼休みになったばかりで、ほとんど時間は経ってないってことだ。

 一旦、心を落ち着けよう。何が起きたのかは分からないけど、頭が真っ白で頭が真っ赤で、とてもじゃないけど考えがまとまら「気が付いた?」


「ひ…………っ!」


 至近距離から声を掛けられ、ビックリして声が出そうになったが、喉から出てこなかった。思わず後ずさろうとしたのに足も動かない。かろうじて、首と目線が動くだけで、その二つは自然と、声を掛けてきた対象を確認しようとした。

 見てはいけないのに。




 そこに立っていたのは、隣のクラスの女の子だ。名前はと名札をみると「篠田茉莉しのだまつり」と書かれていた。肩までのボブカットに、緩い長そでのシャツ。スカートは今時ひざ下だ。地味な子だと思った。

 そして、その顔には笑みが張り付いていた。目も口も笑っている。満面の笑みだ。なのにそこには恐怖しかない。まるで、お面をつけて、無理やりそのお面が笑っている様な、そんな感じだ。

 偽物に見える。篠田さんの笑顔なんてちゃんと見たこと無いのに、違うと分かる。これは人の顔じゃない。


「へえ、お姉、じゃないや。瑠美子ちゃんは分かるんだ(・・・・・)?」


 今まで、幽霊に取り憑かれた人とか、物とかを見たことが何度かあった。私はどうも人より霊感が強いみたいで、不本意ながらもそう言った心霊現象には慣れていた。

 だからこそ解る。目の前の篠田さんは幽霊に取り憑かれているとかじゃなく、変な何かそのものだと。正体は分からない。わかるのは違うと言う事だけ。でも、それだけで十分だし、むしろその程度なら知らない方がよかったぐらいだ。

 知ったところで何か出来るわけじゃないのに。


「お話ししようよ。あ、今は喋れないよね? じゃあ首だけ動けるようにしてあげる。私とお話ししよう。ハイなら縦、いいえなら横に首を動かしてね」


 私は縦に首を動かした。関わってしまった以上、相手から話しかけてきた以上、知らないままで居るよりからは、渦中に放り込まれても知っていた方が安全な事は多い。


「そう、よかった」


 目の前の篠田さんみたいな奴は笑顔で答える。


「じゃあ、放課後に、三階の女子トイレの、一番奥の個室に来て。ね?」


 それだけ言うと、その篠田さんは踵を返し、隣の教室へ帰っていった。彼女が隣の教室に入り、視界からいなくなった途端に体の自由が戻ってくる。

 私は膝に手を置き、肩で大きく息をする。相変わらず汗でびっしょりだ。その私の様子がよほど変だったのか、別の友達と居たはずの加奈が目の前にいて、私の事を心配していて、ただ、曖昧に大丈夫だよと言うぐらいが、精一杯だった。


 三階の女子トイレの一番奥。

 この学校にも七不思議がある。人体模型とか独りでに鳴るピアノとか。男子が悪ふざけで追加した校長の飛ぶズラとか。

 そして、三階の女子トイレの一番奥には、トイレの花子さん。

 



 今はもう放課後だ。加奈は昼休みの私の様子が変だったため、早く帰るよう言ってくれたが、もちろん断った。具体的な話は出来なかったので、明日また質問攻めに合うのだろうと思うとうんざりする。加奈の気遣いがじゃない、説明できないこの状況がだ。

 私は、言われた通りに三階の女子トイレにやってきた。目の前のトイレは、未使用時には電気を消すという学校の方針で、外から窺った中の様子は薄暗い。

 このまま帰ろうかとも思ったが、明日も学校があるのだから、逃げることに意味なんてないし、逃げ切れるとも思っていない。

 意を決して一歩を踏み出し、女子トレイへと入っていく。電気のスイッチは入り口のすぐ近くにあるのだが、スイッチを押しても付かなかった。元から切れているのか、今だから付かないのかは分からない。暗いと言っても、窓が無いわけじゃないので中の様子は辛うじてわかる。

 トイレの中は左手に個室が六つ並んでいるだけのシンプルなものだ。入り口のすぐ横には洗面台と大きめの鏡。なんとなく鏡が視界に入らないようにし、薄暗いトレイの奥を窺う。至って普通のトイレだ。変な気配なんかもしない。

 そこで一息つこうと深呼吸をしかけて、そう言えばここはトイレの中だったと思いなおす。臭っている訳ではないけれど、気分的に嫌だった。しょうがないから顔を両掌でバシンと一回叩き、やや涙目になりつつ歩を進める。

 一番奥の個室の前まで来ても、周囲の変化は何もない。


 さて、ここまで来てどうすんだ?

 もしかしたら花子さんを呼ぶ儀式をするのかもしれないが、そう言えば知らないな、私。

 トレイの個室の前で私が逡巡していると、入り口の方から人の気配がする。誰かが用を足しに来たのだろう。なんとなく貸し切りの気分だったが、普通に人がいる時間帯だった。

 さてどうしようかと、入り口の方に視線を向けると、そこにいたのは篠田茉莉だった。


「あ、やっぱり。ここまで来て、どうすればいいか分からなかったんだよね? そう言えば教えてなかったなあと思って。」

「あなた、篠田さん?」

「ん? あえて聞くってことは、もう知ってるんでしょ・・・・・・・・・・?」

「………」


 私は口を噤む。

 気になることは山ほどあるが、何をどう聞けば正解なのかが分からない。


「とりあえずね、瑠美子さん」

「………」

「これから、だいたい一週間ぐらい。わたしと遊んでほしいんだ」

「……花子さんと、遊ぶの?」

「え? ちがう、ちがうよ。言い方が悪かったかな。私が遊ぶ様子を、一緒に見ていて欲しいんだ。ていうか、花子さんじゃないから、茉莉って呼んでよ」

「茉莉さんは、何をしたいの?」

「私には友達がいるのよ? 三人。知ってるでしょ、その三人とは同じクラスだし」


 私は黙って頷く。ここまで来てしらばっくれても意味がない。

 ただ、彼女たちを友達と呼ぶのか。あの光景は、とてもそうとは思えなかった。


「私は、その三人と遊ばなくちゃいけないの。……何でって顔してるね。むしろ何で? 私たちは何時も四人で居たでしょ?」


 確かに四人で居たけど、その様子から受けた印象を素直に話せる訳がない。


「まあ、いいや。あの三人は今はまだ休んでるけど、後何日かしたら登校してくるから。そしたら、付き合ってね」


 茉莉さんがこちらに笑いかけてくる。人懐っこそうな可愛い笑顔だ。でも、目の奥が真っ黒だ。そう表現しても良いのか分からないけど、真っ黒だった。

 もちろん、私に断れるわけがなかった。

 私が混ざることへの三人の疑問は、茉莉さんがフォローしてくれると言う事らしいが、むしろ今の私こそ、フォローが必要だろうと思ってしまった。




 あれから3日ほど経って、クラスメイトの三人が登校してきた。何人かが興味本位で休んでいた事情を訊きに行ったけど、三人の余りの変貌の様子に、適当に会話を切り上げて引き上げた様だった。

 三人は明らかにおかしかった。

 髪はボサボサ、服装も紺か黒の地味な色に統一し、キラキラしていたアクセサリも付けてない。さらには挙動不審というか、常に何かに怯えているかの様で、視線をあちこちに向けていた。

 茉莉さんの様子と関連する何かが有ったのは間違いないのだろうが、これから自分も関わっていくのかと思うと、三人の姿が自分にも重なってしまい恐怖しかない。

 私も三人に事情を訊こうかと一瞬考えたが、どうせ後で巻き込まれるんだし、今はまだ平穏で居たいと、三人から目線を外した。

 その日は放課後まで何事も無く過ぎていった。加奈も、茉莉さんと会っていた時の事情を訊いてくることもなく、彼女と会った次の日に体調を心配してくれた以外は、普通に会話していた。

 帰りの会が終わり、さあ帰ろうかとロッカーから出したランドセルを背負おうとしたその時、教室の入り口から三人を呼ぶ声が聞こえた。

 ああ、この声は茉莉さんだ。

 私は茉莉さんではなく、三人の方に視線を向けた。

 ある意味予想通りで、でも、想像以上の反応をそこに見て取れた。

 三人は茉莉さんを凝視していた。その顔は真っ青だ。その唇は細かく震え、腰でも抜けたのか、一人は崩れるようにイスに腰掛けた。その異様な様子に他のクラスメイトも何事かと騒ぎ始める。

 そしてその中を平然と茉莉さんが歩いてくる。クラスの中には当然、過去に茉莉さんと同じクラスの子もいて、「篠田さん?」「なんか様子が…」「あんなに明るかったっけ?」「三人と茉莉ちゃんは確か……」などと、ひそひそと声が聞こえる。

 茉莉さんは窓際の三人の席へ向かう途中で私の席の前を通り、視線を一瞬だけ合わせてきた。今のはおそらく合図だろう。嫌だなんて言える様子じゃない。

 ざわつく教室の中を歩く茉莉さんは、明らかに場の空気を支配している。クラスのみんなが視線を向けているのに、歯牙にもかけない。その視線は、ただただ三人にのみ向けられている。


「や! 三人とも風邪は治ったのかな?」

「あ、あんた、なんで?」


 三人の内の一人が茉莉さんと会話をする。口を開くのもやっとという感じだが、もともと気の強い性格でもあるし、しっかりと受け答えをしていた。まあ、顔は相変わらず真っ青ではあるが。


「なんでって? こんなところで確認するの? 別にいいけど、私がここにいる事が全てじゃないかな」

「ほんとに茉莉なの?」

「双子の姉妹とかに見えるの? 残念一人っ子でした」


 ペロっと舌を出した茉莉さんは可愛かったが、以前の彼女はあんな笑い方をしたのだろうか。それほど親しくなかったけど、違和感を覚える。どうやら私だけでは無いらしく、周囲のざわめきも大きくなる。


「ねえ、なんだか周りもうるさいし、何時もみたいに四人で行こうよ。ね?」

「いつもみたいって、だってあんた……」


 今、空気が変わった。戸惑いが恐怖に、驚きが驚愕に、ざわめきが脅威に。

 茉莉さんが今の空気を作っている。だれかがイライラしてると、周りの人もピリピリしだすでしょ?あんな感じのを何倍も濃くしたような空気だ。


「それを、あんた達が言うの? 私と遊びたがっていたのはそっちでしょ?」


 窓際の三人に話しかけているので、教室の中からでは茉莉さんの表情は窺えない。声色もそれほど大きな変化もなく、ちょっと硬くなったぐらいだけど。だけど怖い。


「さ、行こうよ? 今日は私の友達も呼んであるんだ。校門で合流する予定なの。いいよね?」


 そう言って振り向いた茉莉さんは、一瞬だけ私に視線を向けた後、三人を顧みずに廊下へと歩き出した。そして教室を出るその時に、また教室内へ振り向き、三人に「早く行こー」と大きく手を振り、そのまま視界から消えた。

 三人は顔を見合わせた後、ランドセルを持って廊下に消えていった。

 教室の空気が弛緩していく中、私は加奈に用があると告げて、校門へ急いだ。




「あれ? 瑠美子じゃん。なに?」


 校門へ着くと、先に来ていた三人に睨まれる。まあ、当然だよね。

 私は曖昧に笑うだけで、具体的な返答をせずに校門から続く壁にもたれる。三人からはちょっと距離を置いたが、明らかに不審がられているよ。早く茉莉さんが来て欲しい。

 待つこと数分。校門に茉莉さんが歩いてきた。


「ごめんね。遅くなって。ちょっとトイレに行ってたから」


 私と三人は適当に返事をしたが、茉莉さんがトイレに行くとか嫌な予感しかしない。

 その後、茉莉さんが私を友達だと三人に紹介する。クラスメイトだから簡単にだけど。

 もちろん三人は疑っていたが、おそらく三人は茉莉さんの交友関係に詳しくないのだろう。最後には「あっそ」と、私の件を流した。

 その顔色は、少し落ち着いてきたようだった。


 その後は五人で遊びに出かけた。駅周辺の商店街を冷やかしたり、駅の向こうのゲームセンターで簡単に遊んだりと、いたって普通の小学生だ。

 三人と茉莉さんの関係はぎこちないままだ。茉莉さんが積極的に三人に話しかける。笑いかける。遊びを進める。それを三人が受け止めきれていない。

 おかしい。

 茉莉さんはこの三人とは微妙な関係だったハズだ。もしかして私が知らないだけで、外ではいつもこんな風に遊んでいたのかと思ったが、三人の様子もおかしく、茉莉さんの変化に戸惑っているのが分かる。

 とあるタイミングで、三人の内の一人が話しかけてきた。


「瑠美子って、茉莉のなんなの?」

「……さあ? 多分、友達?」

「はあ、なにそれ! ふざけてんの?」

「いやいやいや、私だってわかんないよ。ただ一緒にいてくれって言われただけだし」

「……一緒にって、それだけ? その、ボディーガード的なやつとか?」

「ガードが必要な心当たりでもあるの? 本当にそれだけだよ。そもそも、頼まれたくらいでガードするほど良い人じゃないし、私」

「なんか、事情を知ってんの?」

「なんの事情なのさ?」

「……何でもない」

「あそ」


  私に色々聞きたそうだったが、私からは何も言わなかった。そもそも何も知らないからね。

 そして、私からは何も訊かなかった。正直知りたくない。なんか面倒くさそうな事情は、親か先生にでも言ってくれ。

 そしてその日は私と三人と一人は、多少ぎくしゃくしながらも目の前の遊びをそれなりに堪能し、暗くなる前には解散した。その時の、三人の明らかに何か言いたそうな視線は無視した。茉莉さんとは帰り際に携帯番号とメアドを交換する。放課後の彼女の様子は普通に明るい子だった。本当にただそれだけ。いじめられていそうな地味な女の子ってイメージは間違っていたのだろうかと、そう思った。


 それからは、放課後は毎日五人で遊んだ。いつも商店街とかに行ってたわけじゃない。さすがにお小遣いが足りない。

 ある日は、誰かの家で宿題をみんなでしたり、ある日は、公園でずっと喋っていたり、ある日は、みんなサイクリングに行こうと提案して断られたりした。

 五人の距離感は特には変わらなかった。私は茉莉さんの事も三人の事情も把握できず、三人も部外者の私をだんだんと無視しだし、それ以外は、なるべく茉莉さんを刺激しないように、問題を起こさないようにしていた。一体何を恐れているのか、明らかに具体的な何かに恐怖しているように見えるんだけど、分からないし詮索も余りしたくない。

 そして、茉莉さんは、まるで大好きな親友だとでも言わんばかりに三人を構い続けた。それはもちろん、私が参加した日からずっとだ。三人の態度が軟化することが無くてもずっとだ。

 三日も過ぎたころから、私は最初に感じた茉莉さんへの恐怖は薄れ、今ではただ純粋に彼女の真意を考えるようになった。

 誤解を覚悟で言えば、彼女は確かにいじめられていた筈だ。少なくとも、対等な関係が有るようには見えなかった。でも、今の彼女は本当に楽しそうに三人と遊んでいる。

 ただ、それが茉莉さんなのか、別のナニかなのかはまだ分からないけど。正体が分からない以上、気になったからといって詮索をしてみたいとは思えない。そんな無鉄砲な事が出来るなら、私は以前の四人の関係性に口を挟んだだろう。

 そしてそのまま日が経ち、五人で遊ぶようになってから一週間経った。


続きます。

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