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満州戦車戦〜後編〜

あの、えっと……はい、投稿です


大学生やってても、社会人やってても時間が作れなくて気がついたら一年以上ほったらかしになってました。申し訳ないの一言です


こんな調子じゃ次の話は来年になるかもしれませんが、暇な人はそれを待っていてください




ゴビ砂漠


日ソ両軍の航空隊がぶつかり合い、ゴビ砂漠には両軍の航空機の残骸が点在し、脱出したパイロットの救助の為、両軍の陸軍が衝突した


歩兵と装甲車の衝突が起こり、ソ連軍はBT戦車を雛形に歩兵輸送に特化させたBTR1を投入、それに対し、日本軍は仁川に建てられた仁川砲兵工廠にて生産された四式対戦車自動砲と言った対戦車兵器を用いて双方死力を尽くした地上戦を繰り広げた


その最前線たる銀川基地は徐々に増築され、兵舎と飛行場だけだった基地は今では市街地を守るように作られた対空砲陣地や対戦車陣地、四本の巨大な滑走路に分散された複数の掩蔽壕と防空壕、地上部隊向けの訓練場に更には小規模ながら航空機の部品をつくる工廠まで建てられていた


そんな銀川基地に、数百台ものトラックが入って来た


「はぁ、強化部品、でありますか……」

くろがね四機3台を要する第八四自動車偵察小隊の整備を受け持つ種島二等兵は上官の帆立伍長と積み上げられた木箱を見ながらそう言った


「そうだ、来たる反攻作戦にそなえ、この基地の車両全般に追加装甲と一部新武装と新型の塗装材が支給された。明日訓練があるので今日中に、受け持ちのくろがねにこの装備を搭載する」


「今日中……」

種島二等兵は腕時計を見た。今は午後一時。搭載装備に塗装はされているものの、追加装甲からエンジン、武器と様々で、くろがね一台にそれらを載せて組み立てるまでに慣れを織り込んでおそらく五時間ほどかかる


「時間はないぞ、すぐにかかれ!」


「敬礼!」

種島二等兵がそういうと帆立伍長に対し全員が敬礼した


「よし、かかれ!」

帆立伍長が号令をかけると種島二等兵と帆立伍長が新武装の入った箱に駆け寄った


「伍長殿、前におっしゃってた追加要員の件は……」


「……輸送機体のトラブルで明日になった」


「……はい」

現地の水に当たり、赤痢で入院した同隊の隊員の顔を思い出し、殺意を覚えた種島二等兵だった








******






ゴビ砂漠某所

ソ連陸軍 仮設駐屯地 168高地


タバントルコイから30kmほど進んだ所にある高地、ソ連軍はここに仮設の基地を作っていた


複数の高射砲陣地と防空壕、そしてタバントルコイ基地からのエアカバーと補給によりこの基地は成り立っていた


この基地は日本軍の航空隊がタバントルコイに向かうのを防ぎ、戦力を少しでもこの基地に誘引する、日本海軍で言う所の漸減を目的とした基地である


それだけでなく、航空戦の補助や救助部隊の出発点などにも使われ、輸送機の発着用の滑走路が一つあり、撃退されたソ連軍から見たらまさに砂漠のオアシス。唯一の安全地帯でもあった


日本軍にはない圧倒的物量でこの基地を建設したのだった


この基地の特徴は日本軍を見習った対戦車陣地に、膨大な地雷原、溜め込まれた補給物資と圧倒的人員による損害のカバーである


というのも、日本海軍はアメリカ軍にかかりっきりでアメリカからソ連へ流れる膨大な補給物資の全てを封じることができず、そのまま極東戦線に流れるのである


この史実では独ソ戦が起きておらず、日本陸軍は部隊をソロモンやフィリピンに展開し、常にアメリカ軍の後方を脅かし、どうにか戦況を拮抗させていたのだが、ソ連へアメリカの本格的な補給支援が行われ始め、事実、ソ連がゴビ砂漠での陣取りに勝ったのである


このまま力を蓄え、やがて銀川基地への一大攻勢に打って出る事を考えていたソ連軍だが、それは日本軍も考える所であり先制を切ったのは日本軍だった







数ヶ月前

漢城 日本軍満州方面軍総司令部


「非戦闘車両の重装甲重武装化による敵陣突破戦術、並びに新型携帯型対戦車兵器……」

満州方面軍、俗称は関東軍。その本丸たる漢城の司令部の会議室には日本軍満州方面軍の頭脳に当たる将軍や参謀が座り、満州軍の将校達も緊張で顔がこわばっていた


「初瀬少将、説明を」


「はい、では僭越ながら」

司会役の満州方面軍総司令官の乗松大将が参謀飾緒をぶら下げた初瀬少将に促した


「現在、日本軍と満州軍が抑えている地域はモンゴルとソ連に接する横の地域と、吉林、朝鮮、黒竜江の近辺です、山西以南は国民党と中国共産党の戦闘地域になっており、銀川基地を始め、この日満線の将兵は事実、敵に挟まれている状況です」


日満線とは、日本軍満州軍の支配領域の事であり、青海から黒竜江までを横に長く、中国大陸を真横に横断するように日満連合軍を総称してこう呼び出したのだ


このラインはソ連が中国になだれ込むのを防ぐ目的もあり、中国共産党への補給を阻止する意味合いもある

ちなみに、この史実には援蒋ルートは存在しない。中国共産党と対立する以上、ソ連、アメリカからの支援は受けられず、ここで日本に倒れられては困るイギリスは関東軍の背後を脅かしかねない国民党を支援せず、蒋介石は一部の不良軍人や武器商人から武器や物資を仕入れ、細々と中国共産党と戦っていた

皮肉なことにより、日満線により中国共産党にもソ連やアメリカへの支援も出来ず、結果、大規模な戦闘は起きていなかった


「現状をかんばみるに、日満線の部隊には安定した火力ともしもの為の逃げ足、つまり機動力が必要になります。現状、我が軍の新型重戦車の開発が行き詰まっている以上、装甲車両の開発強化、もしくは適切な対戦車火器装備を行う必要があるというのが参謀本部の下した結論になりました」


「理にかなってはいるが、あまり現実的ではないな。それにかかる物資はどうなる?対戦車兵器の開発はうまく行ってるものの、余裕はないぞ?」


「その点は問題ありません。先日イギリスから帰還した伊号潜が持ち帰ったドイツ軍の戦車改良装備一覧を元に、試作型を開発した。量産体制にも入っている」


「そんな話は聞いてないぞ!」


「追加装甲と新型対戦車火器は機密事項でした。開発と試験は技研の開発部員のみで行われ、今日まで秘匿されてきました」

そう言ったのは満州陸軍の陸戦兵器開発部門の陳大佐である


「追加装甲は重機関銃弾、47mm野砲を弾き返し、速度も完全武装の兵士を満載しても時速50kmを保持、これほどな機動力があれば、撤退や進軍も迅速に行えます。新型の対戦車火器の携帯型墳進砲、並びにガ号砲弾は鹵獲したT-34を見事大破させました、お手元の封された資料をご覧ください」

その一言で参加者達は手元の茶封筒を開いた。中には新型の対戦車墳進砲を応用した成型生爆薬や対戦車地雷、新型戦車砲弾の効果が淡々と書かれていた


「理論はわかった。新兵器の威力も納得だ。しかしなぜ、それが今になって、銀川基地のみで行われるのだ、訳を知りたい」

そう行ったのは満州軍の染中将だ。拙い日本語ながらも実践で着いた額の古傷と覇気のある眼光を光らせながら初瀬少将に聞いた


「本来であれば、最前線で、平等に少しづつ行われる予定でした。しかし、伊号潜が持ち帰ったのは装備だけではなかったのです」


「もったいぶるな、早く言え」

乗松大将がせかした


「伊号潜が持ち帰ったのは情報。ナチスドイツによるソビエト連邦への奇襲攻撃の日にちです。ちょうどこの作戦の一週間後にあたります」


その言葉に会議室が静まり返った。将校達は近くの人どうしで小さな声で話し合い出した


「確かなのか?」


「イギリス経由の情報ですが、その信憑性は高いです。不可侵条約を結んではいたものの、最初からこうするつもりだったようです。イギリス攻略を海軍に任せ、陸軍と空軍をソ連に向けるようです」


「ヒトラーは何を考えている?二正面作戦など、正気の沙汰ではない」


「イギリスが思った以上に手強く、ドイツ国内の民間、軍問わず燃料事情が乏しくなったようです。ドイツ軍の狙いはバクー油田、そしてモスクワ一帯の工業地帯、そして政治的理由も少々あるそうです」


「二正面作戦をするほどドイツは追い込まれてるのか?」


「どうもイギリス攻略の決定打がうてず、国民に厭戦感情が出たらしく、ドイツは隠しているようですが、共産主義者による列車のハイジャックが起こり、ドイツ軍部では腹を括ったようです」


「テコ入れにしてはリスクが大きくないか?」


「これは未確認情報なのですが、ドイツ軍は新兵器を開発したらしく、それがよほど自信があるのだそうです」


「そういうカラクリか……」

関東軍南方方面軍の御厨少将が頷いた


「ですが、そうであるならば、なおさら我々が前にでる理由がわかりません。ドイツの攻勢に浮き足立ったソ連を横目に、両軍が疲弊するのを待つだけではダメなのですか?」

そう発言したのは海軍航空隊満州派遣軍の参謀の足柄大佐である


「わたしもそこが気になっていた。しかも攻勢点を銀川基地に集中した理由も含めて納得のいくご説明をお願いしたい」

同じく声をあげたのは銀川基地の司令官の金子少将である


「理由はいくつかあります。まず装備の輸送路は天津から列車とトラックで運びます。平壌で作られた装備はトラックで天津の列車基地に運ばれ、そこから西安市に運ばれます。ソ連軍と大規模に接している戦線はチチハル、銀川、北京近郊の三箇所。チチハル方面は山岳地帯であり、装甲車両の攻勢は困難、そして北京方面は航空機が重点配備されているものの、先月末、ソ連軍の爆撃機により、戦車一個中隊が輸送中に破壊されたのが響いているらしく、攻勢は見送られました。そして残る銀川基地は最後はトラック輸送に頼るものの、幾度も攻撃をはねのけ、練度も十分、目と鼻の先が敵陣なので、攻撃が迅速に行えます。以上の理由から、銀川基地が攻勢点に選ばれました、銀川基地の規模なら大規模な補給も珍しくなく、目立たないという点もあります」


「考えなしではないか」

金子少将がそう呟いた


「また、モンゴルのスパイからの報告では、攻勢開始の日にはソ連軍が先日168高地に完成させた基地で前線視察と兵の慰労を兼ねた、ソ連軍極東方面軍総司令官の来訪との報告が入りました。これはまたとないタイミングです。強化した機甲戦力の集中運用で敵陣を突破、総司令官の暗殺、もしくは捕縛をするのが、今作線の最大目標です」

初瀬少将の説明に圧倒された各司令官達は言葉を失った


失敗は許されない。乾坤一擲の一大作戦だ


「ソ連軍の司令官が討たれたとあれば、その影響と混乱は間違いないです。そこに運良くドイツ軍がつけいれば、ソ連は瓦解するでしょう」


「理屈はわかりました。これが歴史の一ページに乗る重要な戦いというのも理解できました。ですが最後に一点、機甲部隊の移動に際しての偽装、及び工夫の一覧における、これは、一体……」

染中将が言葉を詰まらせながらもそう言った。その作戦は良く言えばあまりにも大胆不敵、悪く言えば作戦と呼べないようなおざなりなものだからなのだ


「大規模な装甲部隊を移動させるにはこれしかない。気象条件、現地の状況、事前の演習結果を加味した結果、参謀本部でも満場一致でこの゛騙し絵作戦゛が採用されました。その準備も順調に進んでいる」

乗松大将の自信に満ちた言葉と、その作戦が成功に至る根拠を纏めた資料を前に、参加した将官達は圧倒された


「この作戦がうまくいけば、共産主義者の親玉が倒れれば、今大戦の要に繋がる……」

今まで決定打に欠ける戦いのみだったこの戦争に、自分達が、楔を打ち込むのかもしれないのだ


かくして、銀川基地主体で日満連合軍は一大反攻作戦”剣号作戦”を開始したのだった











*****










ゴビ砂漠上空

ソ連空軍 第406偵察飛行小隊

ブルローボフ軍曹


《空には慣れたか、新米》

ソ連空軍の偵察隊に所属するブルローボフ軍曹が先日配属されたラルコフ伍長に話しかけた


《はい、このYakにもかなり慣れてきました》


《そうか、ならよし。しっかり生き残って、しっかり稼いで、故郷に仕送りでもしてやれ》


《はい!軍曹殿!》

空の上には督戦隊の目もないので、ブルローボフは頻繁に偵察任務に出ていた。こうして部下との些細なコミュニケーションを忘れない、そんな人だった


《よし、砂嵐で見えずらいが、地上を観察して引き上げるぞ》


《了解!》

偵察仕様に複座機に改良されたYak1が高度を落とし、僅かに砂嵐が吹き始めた地上をカメラで撮影し始める


(なんだ……残骸がやけに多いな……)


嫌な胸騒ぎがした











「……行ったか?」


「行きましたね、バレてない事を祈りましょう」

追加装甲を施した新型戦車の中で、砲手の荒川伍長と車長の井筒大尉が双眼鏡を持ちながらそう呟いた


「よし、微速前進」

井筒大尉の静かな号令と共に操縦手の森川少尉が戦車を前に進ませる


その前進に続くように配下の戦車が同じように微速で前進を開始する


「しかし、こんな落書きでも騙せるんですね」


「間近でみたらわかるけどな」

井筒大尉が車長ハッチから身を乗り出し、戦車の側面に絵ががれた大きな黒丸の柄を見た


関東軍参謀本部が提案した゛騙し絵作戦゛その計画は非常にシンプルである


すなわち、戦車の側面や上部に爆撃や砲撃で破壊された痕をペイントする。これだけである


常に上空警戒をする斥候部隊の無線合図と共に機甲部隊は進軍を停止、辺りに散らばる日ソ両軍の車両の残骸に紛れ、やり過ごす

航空偵察をやり過ごすことに特化したこの作戦はソ連軍の巡回部隊に出くわしたら先手必勝しない限り意味をなさなくなってしまう


作戦当日に巻き起こる砂嵐による視界不良、戦場に転がる残骸によるカモフラージュ、なにより無線での連携と航空機を伴わない大規模な車両部隊移動という冗談に冗談を重ねたような心理効果。ソ連軍の心の隙についた作戦である


「こんな大雑把な作戦に命を預けるとか……上層部はどうしちまったんだ」

ゴーグルを下ろし、憂鬱そうに呟いた


機甲部隊の砂煙と砂嵐が入り混じり、戦車や装甲車を覆い隠す


「……大きな砂嵐になりそうだな」

井筒大尉は気だるそうに呟き双眼鏡を握りしめた













168高地 ソ連軍陣地


レーダーが使い物にならなくなるほどの強烈な砂嵐も去り、後からやってきたソ連極東方面軍の高官が来たとかで、今日の夕飯は豪勢だった


「パンとスープだけじゃなく、肉にタバコまで出るとはな」


「同志ドラグチェンコフ中将殿に感謝だな」

今夜の哨戒に立つ兵士はタバコをふかしながらそう呟いた


「後は、ウォッカかウイスキーでもあればいいんだがな」

短くなったタバコを踏み潰し、次のポイントへ移動する


「おい、まだ早くないか?」


「俺の時計じゃ、もう時間だ。いこうぜ」


「……そうだな、行こうか」

有刺鉄線の向こう側に見える日ソ両軍のくず鉄の山を眺め、彼らは歩き出した














「爆破」


「爆破ァ!」

日本軍工兵隊が仕掛けた地雷源突破用の爆弾が複数箇所で同時に爆発した


「戦車隊、前進ーッ!」

指揮官の号令と共に抑えめだった戦車や装甲車のエンジンが一気に出力を上げた


第一陣の装甲車を中心とした突破部隊、その後ろから戦車を中核とした主力突入部隊、そこから距離を置いて歩兵を満載したトラックが続くのである

展開した迫撃砲の集中砲火がソ連軍のバリケードやトーチカに唐突な猛射を仕掛ける


装甲車の集団が塹壕線を次々と乗り越え、後方へと進軍して行く


「止まるな!そのまま突っ込め!」

いすゞトラックに装甲を貼りつけ、機銃をのせた即席の装甲車の助手席で加藤軍曹が叫んだ


「このままでは孤立しかねません!」


「横転しないように突っ走れ!道は任せる!」

不幸なソ連兵を跳ねとばし、拳銃に新しい弾倉を叩き込み加藤軍曹は叫んだ


その時、後ろの銃座から伝声管越しに報告が来た


「軍曹!露助の戦車です!」


「前進!あのテントに突っ込め!」

アクセルを踏み込み、兵舎として機能していたテントのど真ん中を突っ走る


「撃てるもんなら撃ってみやがれ露助ぇ!」

敵味方入り乱れての乱戦。ソ連側は奇襲に等しく、火力で日本軍装甲車を破壊しようにも至近距離で味方すらも巻き込みかねないので、多くの兵が躊躇ったのだ


その躊躇の隙をつき、戦車隊の第二陣が突入。何両かは不幸にも破壊されるが、その優秀な傾斜装甲と優秀な足回りでソ連戦車の照準から逃げ切り、陣地の更に奥に突っ走って行った


「マヌケな猿どもめ!ケツを掘り抜いて腰を砕いてやれ!」

戦車の弱点は装甲が薄く、弾薬庫やエンジンが集中してる後部。日本軍がわざわざ見せたその弱点を見逃すソ連軍ではなかった


「携帯砲用意!」

だがソ連戦車隊の隙を見逃す日本軍兵ではなかった

第一陣の装甲車から降車した日本兵が戦車の残骸や塹壕から顔を覗かせた


ドイツからもたらされた対戦車ミサイル、パンツァーファウストを日本人に合わせて小型にした独式対戦車携帯墳進砲、大きさ自体は人間が肩に背負えるくらいの大きさ、だが内蔵されたHEAT弾頭は分厚い戦車の装甲を貫き、中の人間を確実に葬る凶悪な兵器だ


「耳を塞げ!射手から離れろ!」

分隊長が叫ぶと同時に各々の兵士が地面にしゃがみこむ


発射された砲弾が旋回しているT-34の後部に突き刺さり、燃料タンクやエンジンを激しく爆破、炎上させた


焼け出されたソ連戦車兵をなぎ倒し、砲撃跡の迷彩を施した日本軍が突入する


「第一陣の勇気を無駄にするな!前進ーッ!」

















「こちらです!早く!」

護衛の兵に促され、ドラグチェンコフ中将は自動車に乗り込む


乗り込むと同時に車は発進し、前後を護衛のBTR1に挟まれ、基地から撤退する


《後ろから日本軍の戦車!》


《見たこともない新型だぞ!》

追撃に現れたのは日本軍の九八式中戦車チセである

元々歩兵用の戦車としての役割だったチハを対戦車を目的としてチェーンアップしたものである


イギリスが開発した巡航戦車クルセイダー、その戦車の機動力や設計コンセプトを参考にエンジンはイギリス人技術者の協力のもと、完全一新、砲は九五式野砲を流用した九五式長砲身砲塔を採用し、装甲が60mmの傾斜装甲を採用、時速43kmで走る、まさに日本版巡航戦車である


チセの主砲の爆風により、護衛の装甲車がひっくり返された亀のように地面を転がる


「くそッ!かかれ!かかれ!」

運転手がスターターを空気入れのように何回も踏みつけながら怒鳴る


アメリカ産のジープは唸りを上げ、装甲車の残骸を追い抜いていった


「ふざけやがって!日本人め!奴らはどうかしてるのか!?」


「横だ!」

その瞬間、日本軍のトラックが真横から猛スピードで突っ込んだ













「おのれぇ……頭が……」


「軍曹どの、ご無事で?」

ドラグチェンコフの乗ったジープに突っ込んだ日本軍トラックの運転手、風祭二等兵が加藤軍曹に聞きつつ、歪んだドアを蹴破った


「いい運転だった。だが次は俺が乗ってない車でやるんだな」

同じくドアを蹴破り、拳銃とライフルを確認する


「露助め」

風祭二等兵が頭を抑えながら逃げ出しているソ連兵を撃ち抜く


「将校は生かして捉えなければな」

加藤軍曹が拳銃片手にジープを覗き込み、中にいた人間を引っ張り出す


「こいつがドラグチェンコフですか?」


「立派な肩賞と勲章に、勲章が着く予定の引っ掛けるスペース、なにより他の奴とは肉付きが違う。おそらくこいつだ」

加藤軍曹はドラグチェンコフと思われる将校に蹴りを入れる


「負傷者は土方少尉に見てもらえ!動けるものはトラックを使えるようにしろ!」

荷台で団子状態になっていた日本兵達が身体を押さえながらトラックを降り、周囲を警戒し、トラックを点検する


「修理に時間がかかります!」


「早く治せ!向こうは待ってくれないぞ!」

加藤軍曹が怒鳴る中、追いついた日本軍戦車がやってきた


「43戦車小隊の井筒大尉です!周辺警戒に協力します!」


「軍曹!敵のトラックが向かってきます!大軍です!」

周辺警戒に出ていた一人が叫んだ


「井筒大尉!トラック修理が終わるまで敵を引きつけて貰えないですか!?」


「無茶をいいますな!なるべく早くしてください!」

井筒大尉が戦車の排気音に負けない怒鳴り声で叫ぶと同時に戦車が丘を乗り越えた


「修理を急げ!」













「やれやれ……無茶を押し付けられちまったなぁ」

井筒大尉が見る限り、敵に戦車は二両、トラック装甲車が二十両ほどが向かってきていた


「トラックだけって聞いてたのに、しゃあねえ!露助に地獄を見してやれ!」


「了解しました!」

荒川伍長が砲弾を装填し、叫んだ


「戦車を通すわけにはいかん!ぶちかませ!」

チセの主砲が爆音とともに砲弾を発射。ソ連軍のはるか手前に着弾した


「二十メートル奥!左に三度!速度そのまま!」


「了解!」

森川操縦手がアクセルをふかし、荒川伍長が次の砲弾を込める


次は日ソ両軍の戦車が発砲した


ソ連軍の砲弾は井筒大尉の戦車から三メートルほど離れた箇所に着弾。もう一発は見当違いな場所に着弾。一方の日本軍戦車の砲弾はソ連戦車の目の前に着弾した


「いいぞ!必中距離に入った!照準はそのまま!森川!指示を見逃すな!」


「了解!」

戦車どうしの距離が百メートルをきった。井筒大尉は車載の重機関銃を牽制と索敵に放つ


一方の荒川伍長は照準器越しにソ連軍の戦車を見つめていた


「くらいやがれ!」

渾身の思いを込めた砲弾が発射された。飛んでいった砲弾は敵戦車の砲塔右側に命中。徹甲弾を見事に弾いた


「いい狙いだ、荒川!その調子で当て続けろ!森川、右!」

森川少尉が戦車を右に曲がらせる

その直後、ソ連軍の発射した徹甲弾が日本軍戦車の左脇を掠めるようにして後方へ飛んでいった

そんな恐怖体験もなんのその、井筒大尉は無線機にさらに怒鳴る


「荒川!正面に戦車!履帯を狙え!」


「わかりました!」

荒川伍長が徹甲弾を装填し、照準器を覗く


「森川、合図したら止めろ!荒川!止まったら相手をブチ抜け!」


「「了解!」」

井筒大尉が怒鳴り声を上げながらソ連軍戦車を睨みつける

相手は二両、砲の口径は相手の方がはるかに格上。しかし徹甲弾の貫通力や練度はこちらが上だと信じたい


(妙に連携が取れてないな……無線機の不調か?)

ならば好機。罠の可能性もあるが井筒大尉はあえてそれを無視した

右は大きく旋回し、ソ連軍戦車にわざと後部を見せるような形になるものの、それでも敵の攻撃は散発的だった


「虎穴に入らば虎子を得ずん、だな」

井筒大尉は戦車を小刻みに動かさせ、敵の狙いを逸らさせる


(六十メートルも無いのに射撃を躊躇う……相手はいや片方は素人だな。しかも二両が真横になって正直についてくるだけか)

おそらく補充されたばかりの新米か後方で訓練していた訓練生とその教官役を引っ張ってきたかのどちらかだろう


(あまり時間をかけて増援が来られるのも厄介だ……少々強引にやるか)


「その授業料、高くつくぞ」

















「クソ!なんでこんなに当たらないんだ!」

ソ連軍の新米戦車兵砲手のモゴロヴィッチが歯噛みした


「ボヤくな!よく狙え!」


「……了解!」

モゴロヴィッチは不安に押しつぶされそうになりながらも照準器を覗く


モゴロヴィッチの指揮官であるセイゲルは無表情で規律正しく、一緒にいると息が詰まって苦手な人間だった


(クソ!クソ!どうしたらいいんだ!)


「ユアン!もっとゆれないようにしろ!」


「やってる!俺じゃなくて地面に言えよ!このクソッタレな中国と日本軍によぉ!」

操縦手のユアンは最悪な悪路に悩まされながらも必死に戦車を操縦していた


「ッ!くるぞ!」

セイゲルが叫ぶと同時に照準器ごしに見ていた日本軍戦車が急に目の前に現れた
















急停止した瞬間、身体中で感じられる衝撃と鉄兜越しに頭に響く鈍痛と衝撃が井筒大尉を襲った


「荒川ァ!」


「ハァイ!」

急停止したことにより、後ろに追突したソ連戦車と、追い抜いた一台の戦車が目の前に現れた


無防備なT-34の後部、これを見逃す井筒と荒川ではなかった


チセの主砲が火を噴き、T-34の後部を貫く

露出した燃料タンクを粉砕し、気化した燃料が即座に発火。炎上した


幸いに弾薬庫に着火はしてないようだが、当たりどころが悪かったようで、黒煙とオレンジの炎がチロチロと見えている


「残りは新入りのみ」

井筒大尉は機銃の照準器から後ろを覗き、敵の戦車に動きがないことを確認すると、百式短小銃と手榴弾を掴んだ














「うぅ……いったい、なにが……」

モゴロヴィッチが目を覚ますとまず頭に鈍痛が走った

手で押さえると水、いや血が付いていた。日本軍戦車にぶつかったときどこかぶつけたのだろう


「モゴロヴィッチ、生きてるか」

セイゲルが同じく眉間から血を流しながら聞いてきた


「は、はい。なんとか」


「ユアンは死んだ。いい奴だったが、仕方ない。我々だけでも脱出する」

セイゲルが拳銃片手に戦車の上部ハッチを開け、上半身を出した


その直後、連発した銃声が響き、顔に穴を開けたセイゲルが転がり落ちてきた


「うわぁ!!?」

血濡れたセイゲルをおしのけようともがいていて、ハッチから投げ込まれた何かに気づかなかった













投げ込んだ手榴弾が爆発し、T-34からくぐもった爆発音が響いた


「やれやれ、一仕事終わったな」

伏せていた地面から起き上がり、百式短小銃にかかった砂を払う


だが井筒大尉は忘れていた。ソ連軍は戦車と歩兵で来ていたということに

撃ち抜いたT-34が爆発すると同時にソ連軍のモシンナガンの一斉射撃が井筒大尉を襲った


「うおぉ!ちくしょうどもめ!」

幸いなことに狙いは荒い。おそらく戦車どうよう歩兵も配備されて間もない新兵なのだろう


銃撃から身を隠し、張り付くようにチセのハッチを開き、中に逃げ込む


「大尉!ご無事で!?」


「無事だ!それよりも戦車は!?」

拳銃を引き抜いた荒川伍長が聞いてくるが、それを押しのけ、森川少尉に聞いた


「エンジン不調!やはり無理がたたったようです!電気系統は無事ですが、うんともすんともいいません!」


「くそったれ!旋回しろ!機銃でなぎ払ってやる!森川は修理!俺と荒川で敵を押さえるぞ!」


「ちくしょう!くそ!くそ!」

荒川が戦車後部に取り付けられた一式重機関銃に取り付き、砲塔が九十度左に旋回した


連続して機銃が放たれ、肉薄しようとしていたソ連兵がまとめてなぎ倒された


「荒川!その調子で撃ち続けろ!」

井筒大尉がハッチから身を乗り出し、反対側、主砲が向いてる方面から回り込もうとしているソ連兵を百式短小銃で牽制する


数を頼みで突撃してくるソ連兵に対し、こちらは二人でどうにかせねばならない状況


「ふざけやがって!」

井筒大尉は百式短小銃を一旦しまい、車内に保管されている手榴弾と拳銃を取り出した


「しねぇ!」

近くまで来ていたソ連兵に拳銃で牽制射撃を加え、手榴弾を投擲


逃げ遅れた者が二人ほど吹き飛ぶが、これも長くは続かなそうだ


「荒川!拳銃を!」


「これが最後です!」

荒川から護身用の南部拳銃を分捕り、戦車に登ろうとしているソ連兵の眉間に銃弾を叩き込む


「このままではマズイ!」

もはやこれまでか。流石に井筒大尉も腹を決めた


その直後、見覚えのあるトラックがソ連兵をなぎ倒した














「いい運転だ風祭!総員降車ぁ!露助を皆殺しにしろ!」

加藤軍曹が叫ぶと同時にトラックから次々と日本兵が降り立ち、近くに来ていたソ連兵と殴り合いの銃撃戦を始める


お互いに交戦距離が近すぎるため、三八式歩兵銃とモシンナガンでは撃つよりも早くに殴った方が強いという結果の為である


ソ連兵にしてみれば奇襲に近く、指揮官たる督戦官がトラックに跳ね飛ばされたので士気は半分崩壊しており、既に逃げ出す兵士もいた


日本兵は二対一の構図をうまく利用し、ソ連兵に的確に銃剣をつきこんでゆく

さらにソ連兵側の不幸は日本軍の増援がトラックに分乗した歩兵だけでなく、重機関銃を搭載した装甲車も伴っての来援であり、その制圧力たるや、まさに圧倒そのものである


「井筒大尉!ご無事ですか!?」


「おおッ!加藤軍曹!来てくださりましたか!」


「お迎えに上がりました!狭い装甲車ですが、乗ってください!」


「助かる!森川!荒川!撤収だ!」


「了解です!」


「わかりました!」

煤まみれの三人が装甲車に乗り込み、展開していた日本兵達もソ連兵に銃撃を加えつつ、トラックに乗り込み始めた

機密保持のため、火炎瓶を投げ入れられた自分の愛車を目にして井筒大尉は小さく敬礼した


「出発だ!」













168高地は日本軍の手により奪取された


ソ連軍極東方面軍指揮官の不在と同時にドイツ第三帝国が不可侵条約を破棄。ドイツ陸軍が長年温めて来た戦車や装甲車といった機甲部隊中心の突破戦術、電撃戦を敢行。二方面から挟まれたソ連軍は窮地に立たされることになる


さらにドイツ軍は電撃戦だけでなく、新兵器のV1ミサイルを投入。ソ連軍の前哨陣地をV1で粉々に粉砕し、その後を機甲師団が踏み潰すという゛トールハンマー作戦゛により、四か月の死闘の末、バクー油田とスターリングラードまでの鉄道網を確保するとこに成功したのだった





読んでくださりありがとうございます


さて、こうしてあとがきを書くにあたり、一つ言っておきたい事がございます


現状私、リアルが忙しく小説に割く時間があまりない状況にあり、投稿は絶望的な状況になるでしょう


そんな中、この作品を気に入ってくださった方も少なからずおり、大変嬉しく思います


中にはこの作品の二次創作や設定を使いたいとおっしゃってくれる方もおり、筆者としてもめちゃめちゃ嬉しいです


そういった二次創作や私的利用は大歓迎です。感想欄にでも一言言っていただければ二次創作や設定改変しての新規投稿は大丈夫ですので、気が向いた方は是非一声掛けてください

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