嵐を超えて
ガダルカナル
アメリカ陸軍 第七師団
リーランド大尉
ガダルカナル島はアメリカ軍の電撃的な速度で占領されてしまい、この島に残っていたのは鳥類学者として上陸した蓮部隊八名のみで、その八名も偵察と報告を任務とし積極戦闘は禁じられていた
ガダルカナル島の沖合にはフィリピンを追い出された極東艦隊の残存戦力や太平洋艦隊から抽出された戦艦群が輪形陣を敷き、三隻の航空母艦、エンタープライズ、ホーネット、サラトガを護衛していた
今日はガダルカナル島の臨時浮きドッグ兼船着場に一隻の戦艦が入港した
「デカイ船だなぁ、あれがウエストバージニアか」
リーランド大尉はM1ガーランドを背負い、巡回しながらそう呟いた
太平洋艦隊の切り込み隊長を務めるウエストバージニアは蒸気タービンを六機に先月改装し、砲も43cm二連装砲を4基八門に一新、更に高角砲や対空機銃を密集配備させることにより対空戦闘力の向上を図っている
パナマ運河に入りきらない320mのこの巨体に関わらず、改装した蒸気タービンは30ノットを叩き出し、姉妹艦のコロラド、メリーランドも同様の改装を受け、日本の戦艦群と砲撃戦をする日を今か今かと待ち望んでいた
リーランド大尉は加えていたタバコを放り捨て、視線を海の方へ向ける
アメリカ海軍の艦艇や物資を乗せた輸送船が続々と集結し、その数は数えるのも面倒なほどだった
「こんなところ襲われたら、ひとたまりも無いな」
*****
ジャングル内
大日本帝国海軍 第一陸戦隊 ガダルカナル分遣隊
渡来少尉
渡来少尉は小銃や装備品を外し、草木を貼り付けた偽造網のみを身体に巻き付け木の上からアメリカ軍の艦隊を双眼鏡で眺めていた
「うーむ、なんで数だ。あれは太平洋艦隊の戦艦か……戦艦もさることながら輸送船の数も段違いだな」
そう呟き、渡来少尉は胸元のポケットから手帳と万年筆を取り出し、艦隊の陣容をメモする
「戦艦が六隻、サウスダコタ級二隻含む。空母三隻、巡洋艦、駆逐艦は……おおよそ四十隻……輸送船は海を埋め尽くすばかり」
ひとしきりメモをして渡来少尉は不思議に思った
「そういえば兵員輸送船を見かけないな」
双眼鏡で見える範囲にはコンテナを満載した貨物輸送船と燃料を搭載した油槽船のみで、兵員輸送船はガダルカナルに上陸した海兵隊を乗せた三隻しか見当たらない
兵員輸送船は近くに大発や小発がウロウロしていたり、甲板が兵士で埋め尽くされていたり、そうでなくとも形が独特なのですぐわかるのだがそれがなかった
「上陸兵力を持たない大艦隊か……んっ?」
再び、双眼鏡で艦隊を観察していると、空母エンタープライズの甲板に並んだ機体が目に入った
「ふむ、双発機か……やけにデカイな」
羽が空母からはみ出す程の巨大な機体を積んだ空母エンタープライズとホーネット
「新鋭機か?にしちゃバランスが……えっ?あれは、陸軍の所属なのか」
尾翼や両翼に描かれた紋章は明らかに海軍機とは違っていた
「嫌な予感がするなぁ」
*****
1942年 8月
ガダルカナル分遣隊の報告虚しくドーリットル中佐率いるアメリカ陸軍の爆撃機が日本の工業地帯を爆撃。海軍は来る作戦に備え、日本海に戦力を集中させていたため本土は無防備だった
当時、開発した疾風の後継機の雷電が迎撃に上がったが、高高度を飛行する重武装のB-25を前に日本軍の武装と高高度機動の低さでは歯が立たず、ドーリットル隊を逃してしまった
*****
陸軍省
「既にご存知でしょうが、先の奇襲により東京の工業地帯、更には東京砲兵工廠、横浜、大阪、兵庫と数多くの工業地帯に被害が出た。幸いにも従業員の被害は少なく、また海外の貴重な工作機械は事前通告の甲斐あって避難は完了していた」
「だが、問題はそこでは無い。その爆撃で、恐れ多くも、天皇陛下の御所であられる皇城に、爆弾が落ちた」
参謀総長の一言に部屋の空気が一気に冷え込む
「幸運にも不発弾ではあった。だが、爆弾には日本が友好として贈った勲章が貼り付けてあった。これは天皇陛下だけでなく、大日本を貶した、アメ公の挑戦である!」
陸軍総長が机を殴りつけるとあちこちから賛同の声が上がる
「海軍はソ連につきっきりだが、今回の報復を望む気持ちは一緒だ!無辜の民を虐殺し、あまつさえ、陛下の庭である大日本を踏み荒らした罰は、我々が下すべきである!」
「その通りだ!」
「海軍の情報によると敵の艦隊はフィリピンから撤退する陸軍を乗せた船団と合流し、ガダルカナル方面に退避中とのことだ。我々の使命としては、海軍と連携し、これを叩く!」
その一言で会議室の空気は更に盛り上がった
「陸海の連携作戦ですな!」
「奴らに思い知らせてやりましょうぞ!」
「各島の陸軍部隊に索敵を命じ、アメリカ軍の飛行場に奇襲をかけさせましょう!そうすれば海軍もやりやすくなるはずです!」
「では、まずは各部隊への通達から……」
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ミッドウェー諸島近海
第27任務群
空母エンタープライズ
ダブリン中将
「中将殿!輸送船アントニオ号から緊急無線!エンジン故障につき機関停止!修理の為艦隊行動を止めて欲しいと!」
「またか!ふざけるな!もう予定を一週間も遅れてるんだぞ!これ以上のんびりしてたらジャップが来るぞ!」
「まあまあ、ダブリン中将そう気を立てないで、彼らは地獄のフィリピン戦線を戦い抜いた勇者達です。そんな彼らをみすみす敵地に置いていったとあれば、軍法会議では済みませんよ」
そういったのは海軍督戦官のフィリップ督戦大佐である
督戦官とは、アメリカの議会が共産主義に支配されてからしばらくして空母レンジャーと戦艦ミネソタで水兵による共産主義反対の抵抗運動が起き、その後、軍人の反乱を防ぐため、陸海軍に督戦部門という部署が設立され、海軍なら一艦に小隊規模で督戦官が乗り込み、不審な行動や亡命、共産主義に不利益な事をしようとした人々を拘束、もしくは射殺する権限を持った人々のことである
ちなみにこれらは陸海軍とは命令系統などは独立しており、決まりとして現場に出る督戦部門の最低階級は尉官クラス、将官クラスは名誉階級として存在することになる
そして一番の特徴は督戦部門は黒人にしかなれないというのがある
というのも、空母レンジャーと戦艦ミネソタで反乱を起こしたのは両方とも白人の艦長であり、その反乱で黒人は一人も参加してなく、市民の反共活動家の多くも白人なので、その影響から督戦部門の実行部隊は黒人専門という決まりが出来、それもまた現場との軋轢を生んでいた
「わかっている。ルイビルに打電!アントニオ号を修理完了まで曳航しろ!曳航の護衛にはインディペンデンスとルイビル指揮下の駆逐艦をつけるように伝えろ!」
「ハッ!ただちに!」
「くそが、これじゃジャップに追いつかれちまう」
ダブリン中将は考えていた。エンタープライズとホーネットには陸軍機が居座っていた為、艦載機は搭載されていない。その分、空いた格納庫には撤退したフィリピンの陸軍と食料が詰め込まれており、航空機はインディペンデンス級二隻とサラトガの航空隊のみそれに対し、艦隊は駆逐艦二十三隻、巡洋艦八隻、空母五隻
戦艦六隻に輸送船が十二隻と膨大な数だ
ミッドウェーとガダルカナルの航空隊はジャングルに潜んでいた日本陸軍の破壊工作と太平洋のあちこちに現れる日本軍機動部隊にやられ壊滅。ソロモンからは遠すぎて届かないし、最近ソロモンの日本潜水艦による通商破壊の被害が大きく、こんな輸送船団を連れて行っては良い的だと感じた
つまり、この艦隊は一刻も早くハワイの防空圏に逃げ込まなければならないのだ
日本海軍はソロモン海とソ連赤色海軍に惹きつけられているので太平洋近海にはいないはず。ダブリン中将はそう睨んでいた
実際この海域には潜水艦隊が二個と軽空母を基幹とした通商破壊専門の機動部隊が派遣されており、うち一個は北極海に、機動部隊は現在ガダルカナルとミッドウェーを奇襲し、退避中である
しかし、この艦隊に潜水艦隊以外の、潜水艦が接近していた
アメリカ海兵隊からはクラーケン、アメリカ海軍からはポセイドンと恐れられた潜水艦が……
*****
水中戦艦。という艦があった
史実では日本軍の大型潜水艦伊四百型潜水艦がそう呼称されたことがあるがこの世界では似ても似つかない艦のことである
全長170m、乗員150から200名、そして水中から水上部隊を指揮する為格納式の最新の通信アンテナ、水上電探を備えている
そして一番変わっているのは武装であり、一番艦の伊400は魚雷発射管を艦尾に二門と格納式14cm単装砲四門と対空機銃四門を備えていた
なぜ、ここまでの水上火力があるのか、といえばこの艦は最初は艦砲射撃の為に開発されたのである
というのも、敵地に密かに接近し、艦砲射撃をくらわせれば敵は大打撃を受けるのはどこの国でも同じである
しかし、この世界の日本海軍の水上艦は若干衰退している節目があり、そのかわり、潜水艦による陸戦隊の秘密上陸に力を入れていた
その為の支援火力として、この伊四百型は潜水艦には不要とも言える重火力を搭載しているのである
また単装砲もイギリスの鉄鋼業界の協力の元、改良され、軽量、かつ連続発射が可能な自動装填装置を試験的に搭載したのである
砲弾も徹甲弾内部に爆薬を詰め込んだ徹甲炸裂弾を使用し、火力を上げており、また兵員四十名を収容可能なドライデッキのようなものも完備していた
この世界の伊四百型潜水艦は既に試作として二隻製造され、一隻は大西洋方面で潜水艦隊旗艦として奮戦しており、もう一隻は太平洋の孤島で戦う蓮部隊の兵士の貴重な兵站線を担っていた
そして今回はアメリカ本土への追加のスパイの輸送をした帰りである
「艦長、言われた通り、砲弾を準備しましたが本当にやるんですか?」
潜水艦伊401の副長の阿蘇辺少佐が小さな声で聞いた
「ああ、やる。奴らに砲撃戦を挑む」
ダラダラと汗をかく副長を尻目に艦長の沖田大佐は自信満々に答えた
「いくら地上砲撃に特化したこの伊号とはいえ、対艦戦闘は想定されていません。いまからでもいいですから、魚雷戦に切り替えることを進言します」
「敵もそう考えるだろう。しかしこの伊401は砲弾を積んでいるため、魚雷の数はかなり少ない、出来て一太刀しか浴びせられない。上層部の命令は本土を爆撃したアメ公の殲滅だ。駆逐ではなくな、つまり魚雷戦ではダメなのだよ」
「ですが、それではこの艦を失う恐れもあります。この艦を無くせば、太平洋での陸戦隊の補給が……」
「安心したまえ、阿蘇辺くん。私だって考えなしに突っ込むわけでは無い」
「どのような策がおありで?」
「先ほど、浮上し、定時連絡をした際、台風が近づいているとの報告が入った」
「まさか、それに乗じて?」
「進路はミッドウェー島を直撃する。図体のでかい陸軍機を乗せてきたアメリカ軍の航空戦力はそれほど多くは無いはずだ、それは偵察隊の報告からもわかった」
「だったらなおさら台風なんぞ避けていくのでは?」
そういう阿蘇辺少佐をみた沖田大佐は首を横に振った
「逆だよ。台風でこちらの航空偵察と追撃を巻くんだよ。モタモタしていたらこの辺をうろついている日本軍の空母機動部隊にやられる。しかし台風の中なら航空機が使えないのはお互い様。ならば残る頼みの綱は水上火力。そして敵の陣容は」
「最新の高速戦艦が六隻……」
「その通りだ。こちらは奇襲を受けてその立て直しもまだまだ。到底連合艦隊が追付けるわけ無い、となるとかち合う可能性が高いのはソロモン海に展開する田中少将率いる二水戦か、道中の潜水艦、もしくは小笠原とフィリピンを拠点にした第三、第四空母機動部隊。太平洋に展開している部隊はこれくらいだ。しかし我が軍は大西洋で無期限の潜水艦作戦を展開しており、太平洋には我が艦と伊77と伊58、伊103の四隻のみ、これでは見つかるわけ無い、仮に空母機動部隊に見つかっても台風のなかなら逆に火力に勝る向こうが有利だ」
「なるほど……ですが、それでは姿を現し、砲戦を挑む理由にはなりませんよ」
「魚雷戦はもう三隻に任せている。我々はその混乱に乗じて敵の懐に入り込み、派手に暴れるだけだ」
「……うまくいく事を祈ります」
*****
第四潜水艦隊
旗艦 伊58
有田艦長
「上は大嵐だ、副長」
「わかってます、獲物は?」
「ウジャウジャいやがる、だいぶ艦隊運動も乱れているし、何隻かは曳航されているな」
「航空機が使えない今、デカブツを喰う絶好の機会ですな!」
「おうよ!水雷長!潜望鏡戻せ!一番から四番に注水!」
「一番から四番、了解!」
「魚雷をぶち込んでやれ!」
「注水完了!いけます!」
「発射!」
「伊77と伊103からも魚雷発射の連絡が入りました」
「よぉおし!急速潜行!諸君、新鮮な空気はもう少し我慢してくれ!」
「慣れてます!」
「さて、伊401はうまくやるといいがなぁ」
有田艦長は無精髭を撫でながら呟いた
*****
日本軍の執拗な航空偵察を巻くため嵐の中を進んでいると突如、輸送船アリゾナ号、サン・アンドレ号と軽空母インディペンデンス、駆逐艦ギャレット、マクナイトに巨大な水柱があがった
「雷撃です!ジャップのロングランスです!」
「ファック!対潜警戒を厳重に!駆逐艦に通達!敵の潜水艦を探し出して、ぶっつぶせ!必ずだ!」
「魚雷が命中した艦から救難信号が出ています」
「こんな嵐の中を救助なんてしていたらこっちが危ない。水兵には三人一組で、必ず腰紐を手すりに結ぶように言え」
「わかりました!」
「やはり失敗でしたな、ダブリン中将」
救命胴衣を着ずに堂々としているフィリップ督戦大佐がやってきて言った
「そういうのはこの窮地を脱出してからにするぞ」
そういい返すもダブリン中将の顔は苦虫を噛み潰したような顰めっ面だった
事実、ダブリン中将の判断は間違いではなかった。空母一隻と軽空母二隻のエアカバーで日本軍機動部隊がウロウロする海域を進むのは得策ではないし、足手まといの輸送船がいる以上、少しでも航空機による発見の確立を減らすのは指揮官として当然である
最後の最後でツキがなかった。ただ単にそれだけかもしれない
「それについては賛成です。操艦と救助は頼みますよ」
「言われなくとも」
魚雷は左右を挟むようにやってきたので、駆逐艦はそちらの方を警戒しつつ、撃沈された艦の生存者を救助しにかかる
輸送船が二隻に空母と駆逐艦、神の試練のような荒天のこの海で何人の兵士が助かることか
その時、救助に当たっていた巡洋艦が爆発した
*****
「一発命中しました!」
伊401の砲術長の雨水少尉が叫んだ
「よーし!進路そのまま!まっすぐ突っ込め!」
艦橋で双眼鏡片手にした沖田大佐は嬉しそうに怒鳴った
甲板にせり出した三門の14cm単装砲が五秒ごとの感覚で火を噴く
自動装填装置とベルトリンク砲弾は問題なく稼動し、敵艦の周りに次々と命中弾を出していた
「対地貫通炸裂弾は効果てきめんですな」
「うむ、命中すれば駆逐艦なら一撃だ」
伊401が撃ってるのは対地貫通炸裂弾といって小口径でもコンクリートで出来た敵陣を破壊する破壊力を秘めたHEAT弾である
軽装甲の駆逐艦にそれが命中しようものなら致命傷で、巡洋艦も三発当たると轟沈こそしないものの、まともな艦隊行動は取れなくなる、それほどの高威力弾頭である
「艦長!弾薬室から報告!対地炸裂弾、もう僅かです!」
「よろしい!撃ち切りしだい、急速潜行だ!水雷長に魚雷戦用意と伝えろ!それと潜水艦隊に攻撃を命令!可能なら磁気信管を使うように言え!」
「はい!」
伝令要員が艦内に戻ると、砲弾を撃ち切った主砲が仰角を真上に向け、艦内に下がっていく
「三隻か……十分だな」
艦橋要員と甲板要員が艦内に滑り込むと伊401はすぐさま海に潜った
*****
ジャップの謎の砲撃が止み、謎の艦は海に沈んでいった
「潜水艦なのか……」
「中将、被害の合計が纏まりました」
「言え」
「駆逐艦三隻中破、巡洋艦二隻中破、内一隻は舵を損傷、輸送船が4隻大破、一隻が駆逐艦と衝突、艦首に巨大な破口あり、インディペンデンスはまだやれますが、この荒天では中破した艦艇は危険なので、退艦を進言します」
「それについては同意見だが、ここでは不可能だな」
ダブリン中将は拳を握りしめた。荒れた海でなければ出来た作業だ。しかし現状は台風の真っ只中だ
「救助作業を急がせろ、それと」
ダブリン中将の言葉はそこで止まった
エンタープライズに巨大な水柱が立ち上ったからだ
*****
「いいぞ、いいぞ。もっと沈め、船が一隻沈むだけで我々が有利になる」
溺者救助と操艦、対潜警戒とあわさり、アメリカ軍は混乱の極みにあった
「我が艦の魚雷は敵の空母に当たったようです」
「そうか、艦尾発射口と聞いて不安だったが、案外やれるもんだな」
伊四百シリーズは艦首に砲を積んでいるため、魚雷発射管は艦尾のスクリューに干渉しない位置に取り付けられており、乗員からは「逃げるときに撃つから最後のイタチっぺ」とも呼ばれていた
記録上、伊四百型が放った魚雷の中で唯一命中が確認された魚雷だった
「本艦の魚雷は尽きた。距離をとる!面舵いっぱい!敵の哨戒線から離脱しろ!」
「よーそろー!」
*****
「なんということだ……」
戦艦ミネソタに乗り込んだダブリン中将は炎上する輸送船を見て絶句した
大粒の雨が艦や兵士へと叩きつける中、敵の潜水艦から放たれた砲弾が命中したのは輸送船の艦橋部で、崩壊した残骸が甲板に崩れ落ち、乗り込んでいたアメリカ陸軍の兵士は救命艇にしがみつきながら嵐の海へと降りて行った
潜水艦の雷撃と常識はずれの火力を持った潜水艦からの砲撃により随伴していた輸送船は全滅。第27任務群への損害は駆逐艦と巡洋艦、そして空母エンタープライズの大破だけだが、この嵐が状況を更に悪い方向へ持って行っていた
嵐の中、輸送船から艦隊は投げ出された将兵の救出と魚雷、更には水中からの砲撃による損害は被弾した艦と脱出した乗組員に甚大な被害を及ぼしていた
「中将殿、ここは決断するべきです」
艦長のプライズ大佐がダブリン中将に詰め寄った
新たに旗艦を戦艦ミネソタに移した第27任務群は救助作業と並行しつつ、今後の動向を話し合っていた
「だが、海面には陸海軍の将兵二万近くが漂っているんだ、彼らを見捨てるのは今後の士気にも響く」
「このまま艦隊を停止させていて全滅してはそれこそ士気に響きます!残った輸送船を守りつつ、撤退しましょう!」
ダブリン中将は尋常ではない岐路に立たされていた。この荒天の中、日本軍の魚雷は恐ろしい精度で命中する。先程駆逐艦から敵潜撃沈の報がもたらされたが、この嵐の中ではその真偽は不明だ
しかもエンタープライズを大破に追いやられ、司令部の移動の最中に司令部要員の何名かが波にのまれて海の藻屑になってしまったのも痛い。配下の駆逐隊や任務群への指示も合わせて出さねばならなかった
「……やむをえん、撤退だ。サラトガとミネソタの護衛の駆逐艦を全て輸送船の護衛につけろ。残る戦艦、巡洋艦、駆逐艦は殿としてこの場に残り、溺者救助と敵潜撃沈にあたる、プライズ大佐、輸送船の護衛の編成は貴官に一任する」
「了解です!」
「……神よ」
フィリップ督戦大佐の小さな呟きは誰にも聞こえなかった
*****
アメリカ軍はその後、嵐の中で六時間も姿の見えない潜水艦相手に戦い続けた
この戦いで、日本軍は伊77を喪失。対するアメリカ軍は輸送船5隻、空母2隻、巡洋艦1隻、駆逐艦3隻を喪失。乗員は一万人以上が戦死、行方不明となった
嵐の中での救助作業にもかかわらず生存者は二万人以上であり、途中で隊を二つに分けて最後まで救助活動を続けたのが大きかった
なお、隊を二つに分けた後は日本軍は雷撃を行わなかった
というのも、アメリカ軍は日本軍の雷撃の命中率が高いと恐れていたが、日本軍は命中するまで魚雷を放った訳で、この時点で潜水艦の魚雷は全て撃ち尽くされた後だった訳で、伊401も砲弾がなくなったこともあり、追撃を止めていた
アメリカのマスメディアは日本の本土空襲を成し遂げた陸軍を大きく取り上げ、逆にその道中、多大な被害を出した海軍を酷く責めた
特に、英雄として持ち上げられているフィリピン戦線の帰還兵が死んだのが重ねてまずかった
その責任は第27任務群を率いたダブリン中将に向かい、ダブリン中将以下数十名の将校が投獄ののち処刑された
アメリカ陸海軍の溝は徹底的に深まり、その後の作戦に大いに響いた
散々待たせておきながらこの程度の内容とか読者なめてんの?とかでもいいのでご意見ご感想待ってます
公務員試験の勉強で忙しかったんだよぉ