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満州航空撃滅戦

予約投稿ミスしてました。お兄さん許して

満州 ハルピン

満州陸軍 北方方面総司令部

薪大尉


ここは五つある満州軍のうちの北方方面軍の拠点である


常備兵力は二万人、元は西洋の建築家が建てた美術館だったのだが、日中戦争の際に国民党軍が接収。その後持ち主を日本軍に変え、その後、満州軍に引き渡された


白亜の神殿のような外見の司令部は大勢の軍服姿の男の出入りをジッと眺めている

殆どは満州軍の軍服だが、そこへ新たに日本軍の制服を着た男が部下を引き連れて入っていった

その姿を見た満州軍の薪大尉はその男に敬礼した


「西条大佐でありますか?」


「そうだ」


「自分は薪好蘭大尉であります。司令部へご案内するよう康中将から命令を受けています」


「そうか、頼む」


「ハッ!こちらであります!」

薪大尉を先頭に司令部の中を歩く


「この司令部は、通路に絵が飾ってあるのか」


「はい、この司令部は元々は美術館でして、青島の美術館に移送する話が上がりましたが、戦争のおかげでそれも頓挫してしまい、倉庫の隙間を開けるため、こうして展示しているのです」


「そうか」


「大佐殿は、絵がお好きなんですか?」


「いや、さっぱりだ」


「そうですか、つきました、この部屋です」

薪大尉が扉をノックすると部屋から返事が返ってきた


「入れ」


「失礼します!康上将、西条大佐をお連れしました!」









大日本帝国陸軍 兵器開発技術本部

西条大佐


「大日本帝国陸軍技術開発本部から来ました、西条です」


「いや、どうも西条大佐。満州軍北方方面軍総司令官の康震丹です。よろしくお願いします」

康上将は肥満体質の男だった

大きく出っ張った腹に葉巻のような太い指に肉付きの良い顔、明らかに悪い太り方をしている人だ

対する西条大佐は痩せている。痩せこけた頬に落ちくぼんだ目、不健康そうないでたちだ


正反対の二人だが、二人の目はギラギラと怪しく光っていた


「で、成果の程は?」

康上将がニヤリと笑いながら西条大佐に聞いた


「成果は上々、戦車十二台を破壊、四十八台を鹵獲、乗員は全員死亡しましたが、問題ないでしょう」


「素晴らしい!」


「ええ、辰上尉が開発した爆裂徹甲弾頭と、二十粍機関砲の合わせ技です。この世に貫けない物は無いでしょう」


「ということは……」


「ええ、頭の固い技本の上層部の説得は完了しました。来月から本格的に本土で生産が開始されます。そうなると材料調達のため、満州や中国の鉄がどうしても必要です、いずれは生産ラインも朝鮮に移すでしょう」


「その言葉が聞けて安心しました。中国や満州は未だに近代化が遅れていますから、戦時中とはいえ、国力の向上にも力を入れねば間に合いません。今回の一件、本当に助かりました」


「で、本命の方々は?」


「鉄の大量発注がよほど待ち遠しいようです。今の話を聞いたらすぐにでも労働者をけしかけて採掘に移るでしょう」


「そうですか、それを聞いて安心しました」


「あぁ、それと。興亜鉄鋼の孫社長から大佐へ、先日の鉄道事業のお礼を受け取っております。お納めを」

康上将が差し出した箱の中は黄色味がかかった高級味噌饅頭がぎっしり入っていた


「ふむ、山吹き色のお菓子とは、孫社長もユーモアのあるお方だ」

苦笑しながら西条大佐は箱を従官に渡した


「一つ食べても良いが、食べたことは口外するなよ」


「心得ております」

そういうと従官は箱を鞄にしまい、代わりに書類を取り出した


「本土の技本の賛同の念書と要望書、それと調達物資の見積もりです。確認を」


「ありがとうございます。人員や工務員の確保も順調です。先生にもよろしくお伝えください」

そういうと康上将は分厚い茶封筒を渡した


「先生のお身体が優れないようで、各方面からの見舞いの手紙が中に入っております」


「……確かに」

茶封筒を受け取った西条大佐は立ち上がり康上将と握手した


「これも大東亜共栄圏のなせる技ですな」


「えぇ、全くですなぁ」






西条武雄大佐


戦後、軍を引退し、数名の元部下と共に満州で鉄鋼メーカーを立ち上げる


その資金源や協力者の出現はあらかじめ決まっていたように胡散臭く、大東亜戦争を利用して懐を温めた汚職軍人だという声も上がったが、それ以上の追求はなされていない


だが、彼の工作の甲斐もあって満州全土への対戦車火器の配備、生産ラインの確立、日本軍への現地民の協力がすんなりいったというのも事実であった


満州朝鮮全土の利権を狙うソ連に対し、日本軍や満州軍は国民党軍を見習い、軍服を脱ぎ、民間人に紛れての便衣、対戦車歩兵による待ち伏せ、奇襲で確実に戦力を削っていった


四万以上の火砲と三万近くの航空機、戦車、そして十六万の歩兵を頼みにしたソ連の進軍はモンゴルを突破するも、補給線への攻撃、更にはソ連兵を装った日本軍独兵旅団(ドイツ人のハーフのみで構成されたゲリラコマンド、ソ連工兵や補給部隊に紛れ込み、破壊工作を仕掛ける専門部隊)の活躍によりソ連軍の進軍はゆっくりしたものになり、補給が滞ってる所を満州陸空軍と日本軍対戦車部隊が奇襲というのが定石になっていった


この泥沼の消耗戦を繰り広げる為、満州や朝鮮の軍需工場は連日フル稼働。満州朝鮮の上流階級や労働者は戦時特需で儲かり、その儲けを狙うソ連アメリカを更に敵視する結果になった






*****






ソビエト連邦 クレムリン


この日、クレムリンでは現状打破の為の作戦会議が行われていた


海軍は現在ウラジオストク奪還に全力を挙げている為、この会議には不参加。陸軍のみの会議となっている


「現状、我が陸軍はモンゴルへ進軍、制圧することに成功はした。しかしこれが薄氷の勝利であることはこの会議の誰もが知っているでしょう。モンゴルには日本軍のゲリラが大勢おり、また日本軍の対戦車火力により大勢の戦車兵が殺傷され、現在熟練の戦車兵が不足しています。問題はそれだけでなく、日本の傀儡国家の満州国、これがなかなか曲者です。同志共産党の妨害も物ともせず、現地補給部隊にダメージを与えています。これは明確な脅威です。現場の部隊と補給部隊の進軍速度は段違いで、護衛をつけても満州軍の便衣兵の数に圧倒されてしまい戦闘は困難を極めます」

ソビエト陸軍極東方面軍指揮官のドラグチェンコフ中将が報告を終えた


「報告ご苦労、それでは諸君、現状打破の為、忌憚の無い意見を頼む」

進行役のポリュデスキー元帥がそう言うとまずソ連空軍極東方面軍指揮官のヴィトレンコフ大佐が手を挙げた


「単純な疑問だが、補給部隊と攻撃部隊は共に進軍は出来ないのか?戦爆連合のように」


「補給部隊が持っている補給物資が無くなったら、誰が補給すると思ってるのだね?その補給物資を前線に運ぶ間を狙われるのだ。航空機と陸上は訳が違うのだ」


「なるほど、そういう疑問でありましたか。失礼いたしました」

ヴィトレンコフ大佐は素直にドラグチェンコフ中将に頭を下げた


「専門の護衛部隊か、もしくは航空隊が護衛に着くのはいかがでしょう?いかに便衣兵とはいえ、戦闘機や爆撃機には勝てないのでは?」

今度は極東方面軍第62自動車歩兵旅団の旅団長が答えた


「ふむ、前線飛行場とそれ相応の設備があれば出来なくは無いでしょう。航空隊の損害は現状軽微ですから理論上出来ますが、飛行場の設営隊とそれらの資材人員を運ばねばなりません」


「この案は辞めよう。補給部隊だけじゃなく、設営隊の護衛もしては意味が無い」


「賛成です」

ヴィトレンコフ大佐と旅団長が完結した


「では、補給部隊を重武装化するのはどうでしょう?」


「それこそ論外だ」

そう断言したのはドラグチェンコフ中将だ


「補給部隊は今までたいした戦闘をしたことない、素人に武器をもたせても良い結果にはならん」


「それもそうですな」


「補給物資の空中投下はどうでしょう?」

今度は戦車師団の旅団長が案を挙げた


「あまり、理想的とは言えませんな」


「なぜです、ヴィトレンコフ大佐」


「私は、航空畑一筋なので、戦車が一体どれだけの燃料を使うのかは存じませんが、DC-3にはどれだけ頑張ってもフル装備の兵隊30人を乗せるのが限度です。それらを護衛しつつ、前線の部隊を満足させるだけの継続的な補給は出来ません」


「ふぅむ、となると、いったん前線を下げて、部隊を再編成、万全の補給体制を整えた後再出撃が妥当かと」


「だが、部隊の中にはハルピンまで迫りつつある部隊もあると聞く。あともうひと押しで敵の中枢を砕けるのだ、せめてそこまで行ってから進軍停止を指示してはいかがか」


「旅団長の意見ももっとも。しかしそこを行き来する補給隊、更には最前線の部隊の現在の進軍速度を加味してもそろそろ限界かもしれない。モンゴル付近の制空権はどうなってる?」


「すでに航空隊が抑えてます。前線飛行場の整備も八割完了との報告も入っています」


「いったん味方の制空権内に部隊を後退させ、戦力の立て直しを図ろうと思う。我々はどうやら敵をみくびっていたようだ」

ドラグチェンコフ中将の意見に反対する者はいなかった


1943年。極東ソビエト軍は逐次撤退を開始。日満連合軍が追撃するも、落伍者をものともしない非人道的とも呼べる撤退速度を前に、日満連合軍は追跡を諦めた






*****








ソ連軍が作った中で、満州と一番距離が近いのはタバントルゴイに作られた飛行場である


急増の飛行場だが、そこをまっすぐ行った所にある銀川市には民間飛行場を増設し強化したた日満共同の銀川基地があるのだ


ここは最前線で跳梁跋扈する日本軍対戦車部隊や満州空軍の駆け込み寺的場所でもあり、日満連合軍のアキレス腱でもあった


そんな重要拠点を目の前に、地上部隊が再編成中とはいえ、無傷の航空部隊があるのなら攻撃しない訳がない

その光景は多方面で見られ、実際ソ連空軍は多数の戦闘機や爆撃機を前線飛行場に送り込んでいた


そして、ここに、航空機による熾烈な戦いが始まったのである






*****






「これが疾風かぁ」

根岸軍曹が唸りながら新しく本土から届いた戦闘機を眺めていた


ちょっとながめの胴体に緑の塗装。銀川基地周辺は荒地なのでこれは目立つかもしれない


機銃は二十粍機関砲が二門。武器が少ない分、弾の数が増えたそうだが、それもそれでどうかと思う

だが、ドイツ技術者との協力の元、開発された新型エンジン、その出力の良さは遠く離れた満州の田舎基地にも届いていた


「新鋭機ですか、乗ってみたいですね」

そう呟いたのは僚機の空中勤務者の能登伍長である


「新鋭機だからこそだ。前線でお目にかかれるだけましだ、我々が乗れるのはまだまだ先だろう」

根岸軍曹が諦めたように小さくため息を吐き、宿舎に戻ろうとした時、空襲警報が鳴り響いた


「むっ、敵か!?」


「最近多いですね」

根岸軍曹も早いところ自機に戻ろうとした時、整備員から「畠山軍曹!」と呼び止められた


「準備は出来ています!軍曹の好きな一番乗りですよ!」


「畠山ぁ?」

整備員をどなり返してやろうかと思ったが、自分が乗ったことのない新型の戦闘機というものに興味が湧いてきた


「軍曹、悪い目してますよ」


「……おう、今行く!よくやった!」

飛行帽とマフラーで顔を隠しながら疾風に乗り込んだ


「軍曹ぉ……」


「園部伍長!準備は出来ております!」


「えっ?」

根岸軍曹のさらに向こう、もう一機の新鋭機を整備していた整備士の声だ


「……」

周りには自分以外におらず、整備士もこっちをみている

彼らは本土で教育を受け、今日ここにきた新米。空中勤務者は愛機に乗って飛んでくるが、彼らは列車や輜重隊の相乗りが主で、彼はまだ顔合わせがされてないのだろうか


「……おう、今行く!」

能登伍長も新鋭機の好奇心には勝てなかったようだ


操縦方法は自分が乗っていた紫電と同じ。というのも、搭乗員育成の手間を省くため、戦闘機のコックピットは殆ど同じ作りになっているのが定石である


滑走路に出て、いざ離陸といった直後、飛行服を着た男が怒鳴りながらこちらに駆け寄ってきた


「おっと本人か。ここまで来たら引き返せん。壊さないように善処はする!」

物騒な事をつぶやきつつ、根岸と能登は空へ飛び立った





*****







《銀川基地より、村上隊へ。ソ連航空隊は北東方面から80と40の二つの集団に分かれて接近してくる。高度からすると40の集団は爆撃機だ。最初の制空部隊がすでに80の集団と戦闘を開始している。貴官らは彼らの増援として向かってくれ》

銀川基地には三本の滑走路があり、根岸以外にも複数の隼や飛燕が飛び立っていた

といっても、だいたい見慣れた連中で軽く手を振り合う

対する相手は見知った同僚が新鋭機に乗っていることをかなり驚いていた


「よぉし、いっちょやったるかぁ」

根岸はそうつぶやき、臨時の部隊長の村上大尉の鍾馗を見る


どうやら上空から敵に奇襲をかけるようだ


「ソ連め、今日こそ蹴りをつけてくれる」






*****





ゴビ砂漠上空

海軍満州派遣航空隊

吉良曹長


「ぬぅぅ、なんて数だ」

零戦32型に乗った吉良曹長は落としても落としても現れるソ連機を見て唸った


上空直庵8機でこの群勢をせき止めるのはやはり無理があったようだ

敵はYak-1、包囲の密度が高くて後方の爆撃機の元へ行くことすら叶わない


(味方がやられてないのが奇跡だな)

そう考えつつ、吉良曹長は操縦桿を切り、敵の攻撃をかわしていく


「ぬっ!あの野郎!」

味方機の後方に張り付いている敵機を確認し、自分も後方を鏡で警戒しつつ、張り付いていた敵機に二十粍機関砲を叩き込んだ


「くっそ!弾が無くなったか!」

しかも運の悪いことに敵が後ろに張り付いた


「ぬぅ、やりおる!」

海軍仕込みの機動でも問題なく追従してくる敵機に悪態つく

Yak-1にはアメリカ製12.7?機銃三門が搭載されており、機首が光るたびに吉良曹長の乗機のすぐそばを弾がかすり、何発が翼を貫き、燃料がこぼれ出した


「まずいまずい!」

吉良曹長は慌てて航空熱量食とパラシュートを掴んで飛び降りた


飛び降りて数秒後、燃料タンクに引火した愛機が爆発した


「くそがぁ!」

怒鳴るも、すぐに落ち着いた吉良曹長は自分の開いたパラシュートが無傷なのを見て安心すると共に、航空熱量食をポケットにしまう。下の砂漠に降りたら後は自分の足で味方の領地に戻らねばならないのだ


流石のソ連機も脱出したパイロットへ銃撃はしてこないようで、吉良曹長は安心して地上に降りたてた


地上から空を見上げると日本軍機が上空からソ連機に奇襲をかけていた






*****






「いいな、これ」

疾風の操縦席で根岸軍曹は呟いた


操縦桿を傾けると機はすぐにその方向に曲がる。桿は少し重いが、上昇力も下降力も違う


日独の技術者が作り上げたエンジンは快調だ


やがて隊内無線からト連奏が流れた


敵の頭へ逆落としで真っ逆さまに落ちていく日本軍制空部隊


根岸は照準器に入った敵に銃撃を見舞う

二十粍機関砲は敵の尾翼と左翼に命中。翼をもぎ取り墜落せしめた


喜ぶことなく、次の獲物に襲いかかる

視線の先には味方の零戦を追いかけるYakがいた


根岸は冷静に狙い、発射釦を押す

機関砲の強烈な反動が機内を揺らし、Yakの身体に巨大な穴を穿った


《根岸軍曹!左へ!》

その声に反射して操縦桿を左へ倒す根岸軍曹

その直後、後方に忍び寄っていたYakが機銃を放つが、外れてしまう


そこへ能登伍長が殴り込み、Yakの胴体を二十粍機関砲で両断した


「背中はお前に任せて正解だった」


《次は軍曹に頼みます》


「任せろ」

二機は位置を交代し、再びソ連機を追尾し始める


このツーマンセルは日本軍が早くから編み出した戦法で、特殊部隊が敵兵を倒すときは必ず二人一組で襲い掛かる事を参考にしている


この空戦はその後、日本軍の第三次航空隊が突入し、ソ連側の敗北に終わった


しかし、ソ連はその後も空襲を繰り返し、日本軍を苦しめ続けていった










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