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支那大陸戦車戦〜前哨戦〜

満州


「またこの道を進むことになるとは……」

大日本帝国陸軍機械化対戦車歩兵大隊を率いる指揮官の琴瀬ことせ中佐は黒金四起の中で呟いた


部隊は現在、漢城を出発し、ウランバートルから出撃したソ連機甲部隊を待ち伏せる地点に急行中だった


現在、彼らは漢城からモンゴル国境前まで伸びた高速道路に乗って進軍の真っ最中だった


「琴瀬中佐、以前もここにきたことがあるのですか?」

そう聞いてきたのは琴瀬中佐の従兵の判洲はんすである


「あぁ、この道路は、ドイツからやってきた技術者達が知恵と汗を振り絞り、完成させた。私はその時まだ駆け出しの少佐で、高速道路建築に駆り出された労働者の警護に当たっていた、中国国民党軍や馬賊が多かったからな。もしかしたら君のお父さんもいたかもしれないな」


「かもしれません」

うなづいた判洲。その容姿は明らかに日本人離れしていた


座っていても天井に頭をぶつけそうなほど身長は高く、鷲鼻に彫りの深い顔立ち、髪こそ黒いものの眼は新緑のような緑だった


実は彼はドイツ人と日本人のハーフである


第一次大戦後、多くのドイツ人技術者や労働者を日本に誘致した為、日本、とりわけ朝鮮や満州の各地にドイツ人街とも呼べる街が形成されるに至り、中には日本人と結婚し、家庭を持つ者もいた

そうして生まれた子供だが、彼らは日本人より体格が良く、頑丈な為、その多くは差別から逃れる為に軍人になった


彼らはその恵まれた身体から特殊部隊に選抜される事もあり、少なくとも軍の中で彼ら日系ドイツ人を差別する者は少なかった


そして彼ら日系ドイツ人は日本軍の根幹を成す存在になりえ、南方や中国とわず、その活躍は知れ渡る所となった


「今は漢城を出て一時間、この先の開拓村で待ち構えるぞ、判洲、念のため先頭車に打電しろ」


「はい」

判洲は積み込まれた無線機を使い、先頭車と連絡を取る


そのまま、何事も無く、部隊はドイツ人開拓村に到着した


日干しレンガを積み重ねた西洋建築の建物が多いこの村はドイツ人と支那人、満人、日本人、モンゴル人が共生する異国情緒溢れる街でもある


到着した部隊から点呼を行い、家主を説得して弾薬集積所と救護所、指揮所の設営を行う


「街の前に散兵壕を掘り、対戦車自動砲を設置しろ。十分後に狙撃隊の中隊長以上を招集し、指揮所にて軍議を開く、判洲、以上の伝達を各部隊長と輜重隊の部隊長を呼ぶのも頼む」


「はい、狙撃隊の中隊長以上の招集と輜重隊の部隊長の招集と、指揮所の確保ですね、わかりました」

手帳にメモを書きながらうなづいた


「頼んだぞ」






*****






五時間後……


「見張所より報告!ソ連軍機甲部隊接近!BT-7四十両、T-28三十両、歩兵を満載したトラック百以上!」


「ふむ、大軍だな」

琴瀬中佐が顎を撫でながら呟いた


「一週間前、黒龍江にてソ連軍の機甲部隊と日満の戦車部隊の戦闘がありましたので、それらの残党も入っていると思われます」

輜重隊の部隊長の森山中佐がそう答えた


「となると、自動狙撃砲の存在は露見してないということだな」


「これが初の実戦ですから」


「念のため、住人は輜重隊のトラックに分乗させておいてくれ」


「わかりました」


「では、作戦を発動する、狙撃隊に射撃を命令しろ!」






*****






ソ連軍


「ロモノフ!街が見えたぞ!そのまま突っ走れ!」

38号BT-7の車長のヴィシャレンコフが操縦士のロモノフに怒鳴りつけた


「了解!」

先日の戦車戦は双方痛み分けの結果に終わり、このBTもどうにか味方にたどり着けた幸運な一両だった


「日本軍の戦車は脚が早い、軽装甲で、火力も低いがチョロチョロ動かれてエンジンやタンクに火炎瓶を投げ入れられたら厄介だ」

実際戦ったヴィシャレンコフも同意見だった。あの砲で戦車の装甲は貫けないものの、歩兵の乗ったトラックを守りながら快速の日本軍戦車を捉えるのは至難の技だ


オマケに日本軍の恐ろしいところは戦車戦に歩兵が混じり、こちらが止まって狙いを定めるところに火炎瓶や手榴弾を使って車内の人間を狙ってくるのだ

この二つが一体となった攻撃はかなり厄介で、火力の低さをそこで補っているのだろう


(だが、それはどちらかが欠けていると作戦は機能しない。黒龍江で日本軍には大打撃を与えた。この攻撃を繰り返せば日本軍の戦車部隊は消耗し、我々の勝利だ)

戦車砲に砲弾が込められ、戦車の一群は突撃陣形に形を変える

近寄ってきた日本兵を殺す為の拳銃も手に入れている。準備は万端だった


「来るなら来い、日本ぐ」

次の瞬間、飛来した20mm徹甲弾が戦車の砲塔に命中、車内に飛び散った破片が操縦士と砲手の上半身を、ヴィシャレンコフの下半身をもぎ取った






*****







「初弾命中。次目標左隣の戦車」


「確認」


「調整そのまま、テッ」

20mm自動狙撃砲から発射された20mm徹甲弾がソ連軍の戦車の車長用の覗き窓を食い破り、車内に飛び込んだ破片がソ連兵を切り裂いた


「命中、回りだした、運転手死亡確認」


「よーぉし、次だ」


彼らが持っているのは20mm自動狙撃砲。海軍の戦闘機に搭載されている20mm弾を使用するこの狙撃砲は敵戦車の装甲を貫通し、中の乗員を殺傷する目的で作られた兵器である


戦車戦において大事なのは敵戦車の装甲を貫く火力である


だが、日本軍戦車の主戦場は大地が不安定な支那大陸が主で、超重量重装甲の巨大な戦車は運用しづらい。それに支那軍は戦車を保有していない。故に戦車戦のドクトリンや大口径砲の製造や搭載できる車体開発の経験が不足していた


その為、戦車戦は戦車単体ではなく、歩兵による戦車の死角をつける要員が必要にならざるをえないのである


そこで、戦車自体の破壊は諦め、戦車の乗員を殺傷する案が軍上層部から持ち上がった


歩兵が持ち運べる対戦車ライフルなら一から強力な戦車を作るより安く済むし、ドイツの技術を応用すれば簡単に作れる。歩兵装備なので悪路とかもあまり関係ない、一石三鳥だった


そこで、陸軍は海軍の九九式機銃に注目。生産ラインの都合上、海軍の20mm徹甲弾と同口径の対戦車ライフル、四式自動狙撃砲が完成した


威力は申し分なし。しかし巨大すぎる為、一丁につき、射手以外にも四名、警護と運搬員が必要になってしまった


だが、逆にそれが幸いした点もあった。手すきの要員が周囲を警戒すると同時に、観測手がいるので狙撃手の戦闘の負担が減ったのだ


この部隊には実験として20丁と訓練を受けた百名の人員が与えられており、散兵壕に潜ませた狙撃隊にソ連軍戦車を狙い撃たせたのだ


軽装甲のT-28やBT-7はひとたまりもなく、兵員輸送用のトラックは狙われたらまず助からない


追突しないように車間は開けてあるが、中には操縦士が死んでもアクセル踏みっぱなしの車両もあり、死体のバランスが崩れて追突なんて光景も多々あった


散兵壕に伏せた狙撃手を戦車で狙い撃つのは至難の技で、止まったら的になるだけなので走りながらの牽制射撃が当たるはずもなく、ソ連軍は徐々に戦力をすり減らしながら街へ近づいていった


逆ハの字に展開した狙撃手達は蛇行しながら進撃してくるソ連軍の戦車を慎重に狙い、撃つ


燃料タンクに当たったのか、その戦車は大爆発を起こした


「装填します!」

残弾を数えていた弾係が銃の上部から弾倉を外し、新しい弾倉を填め込み、弾を装填する


「次目標、先ほどの戦車後方のトラック、火砲を牽引している、やれ」

再装填された弾丸が再び発射され、トラックの運転席を破壊し、荷台に乗った砲兵諸共粉砕した


「命中」



この戦いでソ連軍は四十両近い戦車が行動不能に陥り、撤退した



だが、これはまだ前哨戦に過ぎなかった


ソ連軍は今後、日本軍の対戦車ライフルを用いたアンブッシュに苦しまされる事になるのである

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