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フィリピン上陸戦

1940年12月25日

東京 国家議事堂


この日、日本では対米ソ中の三国に対する戦時特別予算案が満場一致で可決された

陸軍の蓮部隊の呼応に合わせ、日本軍は目の上のたんこぶであるフィリピンのアメリカ陸軍を叩くべく、沖縄の第三機動空挺旅団を台湾に集結させ、台南にて訓練中だった軽空母”龍驤”を旗艦とした日英機動部隊と共に元旦にフィリピンに殴り込む、明号作戦(イギリス側呼称ニューイヤー作戦)は開始された






*****







フィリピン ルソン

アメリカ海軍根拠地 ”キャンプウルフ”


ここにはアメリカ陸海軍の共同の飛行場が三本と艦艇十四隻が同時に入港できる巨大な海軍基地が設置されていた

だが、いまこの軍港には巡洋艦ニ隻しかいない


その理由は日本軍やイギリス軍に24日の爆撃アメリカ側呼称”クリスマス作戦”を気取られない為ここの主要な艦隊はレイテ方面に演習という名目で向かっていた


ちなみに、アメリカはロンドン軍縮会議以降、海軍国家として力をつけており、逆に陸軍はその煽りを食って衰退してしまった節がある

なので、今回の陸軍機による爆撃はそんな不満の溜まるアメリカ陸軍の不満解消と海上艦艇に目が行きがちな日英に対する強烈な不意打ちになったのである


そんな訳で、今日本侵攻の最前線たるルソンはガラ空きなのだが、短期間なら陸軍だけでも持ちこたえられるし、なにより日英は未だに爆撃のショックから立ち直れてないというのがアメリカ陸海軍の総意だった


そんなわけで、このルソンではアメリカ陸軍がお祭り騒ぎ、それにつられた海軍も巻き込んだ宴が始まっていた


錨を下ろした巡洋艦”ヘンダーソン”に忍び寄る黒い影


降ろされた鎖に足を掛け、スルスルと音もなく登りきり、甲板に見張りがいないことを確認すると砲塔の影に走り寄る

黒と藍色の夜戦水中具を脱ぎ、現地の協力者から手に入れたアメリカ海軍の制服を着た日本陸軍の菅生すがき少尉は下に待機する部隊に合図を出し、自然な動作で歩き始めた

また、他の兵は艦の出っ張りや傷を足掛かりに構造物をよじ登り、他の入り口から艦内に浸透する


甲板の隅で酔い潰れたアメリカ兵から酒瓶を盗み、一口。酔っ払いを演じ、艦橋へ向かう

すれ違う兵隊とヨレヨレの敬礼を交わし、英語でしゃべり、艦橋の前にたどり着いた


しばらく待つと、数名の水兵が拳銃片手に表れた。潜入した日本軍である


「擲弾手、やれ」

催涙ガスが入った手榴弾を艦橋に投げ入れた






*****






「ゲホッ!ゲホッ!なんだ、ごれば!?」

艦橋に詰めていたマイクソン・ケント中尉は催涙ガスにむせながら艦内電話を手繰り寄せた


だが、彼は受話器を握った瞬間、突入した日本軍の部隊に射殺された


日本軍が使うのは九四式消音銃、ドイツ人技術者が開発した九ニ式拳銃(ワルサーPKK)に消音器を取り付けた拳銃である


防毒面もあるので、なんなく艦橋員を射殺した菅生少尉達は機密資料と思しき物を手当たり次第雑囊に押し込む

その時、無線手から報告が入った


「第一班、機関室、弾薬庫制圧。第二班ももう一隻の制圧を完了したそうです」


「よろしい、後藤大尉は?」

そう聞いた時艦橋に入る扉から「フジ」と声がかかった


「入れ」

中に入ってきたのは後藤大尉と直下の部隊だった


「さすが、早かったですね」


「艦長室は無事制圧した。なぁに、鹿島に比べたらこの程度、散歩みたいなもんだ」

帝国陸軍から「入ったら最後、生きて出られない」と恐れられた海上侵入訓練専用艦の名前を出しつつ小さく笑った


「貴様の方は?」


「めぼしいものはあらかた……ぼちぼち合流するところでした」


「よし、では行くぞ。遅れるな」


「はっ!菅生隊続け!」








*****






ルソン島上空

大日本帝国陸軍 第三機動空挺旅団

忍住おしずみ少佐


広大な中国大陸での空路を支える為に日本軍が開発した百式輸送機改、搭載人員は締めて六十人余り詰めこめるこの輸送機は完全武装の空挺旅団の隊員をめいいっぱい詰め込んでルソンめざして飛んでいた

もうじき日が明けようとするこの時間日の出を背にした龍驤航空隊の攻撃の後、彼らはフィリピンに舞い降りるのだ


「忍住少佐」


「なんだ」

機内の隣にいた二等兵、確か宮崎二等兵が話しかけてきた


「情けない話なのですが、緊張して、震えがとまりません!なので、気付けをお願いします」

上ずったような声の宮崎二等兵、機内に笑いがあふれる


「宮崎!わざわざ少佐殿の手を煩わすまでもないだろう!儂がやってやる!」

そういった下嶋軍曹が宮崎二等兵の背中を思いっきり叩いた


「あ、ありがとうございます!」


「なぁに!いいか!緊張なんて一瞬だ!落下傘で地上に降り立って、生き延びた後に震えろ!実戦で震えてる暇は無いぞ!」


応っ!と機内に気合の声が響く


すると誰かが空の神兵を歌い出した


あっという間に機内に広まり、大合唱が始まった


「降下まで後十分……」

忍住少佐は手の震えを悟られないように手を握りしめた







*****






龍驤航空隊

北斗大尉


日の出を背に突入した龍驤航空隊はルソン飛行場に襲いかかった


新年と少し早い戦勝祝いのお祭り騒ぎでフラフラのアメリカ兵達は最初は味方と思ったが、翼に描かれた日の丸を目にし、「ミートボール!」という叫びをあげた


「クソメリケンがぁ!台湾の仇じゃあ!」

積んだ二発の爆弾を爆撃機のバンカーと思しき巨大な建屋に叩き込んだ

あの爆弾には台湾とシンガポールに爆撃したアメリカ軍を罵る龍驤乗組員の心からの気持ちが書いてあり、あの爆弾には龍驤の艦長がアメリカで買ってきた絵葉書に台湾で戦死した友人の名前を血判で書いた物を貼り付けた特別恨みの籠った爆弾でもあった

九七式艦攻が通り過ぎた直後、火山の噴火を思わせる巨大な大爆発が巻き起こり、隣の詰め所や燃料タンク、更には駐機してあった戦闘機を薙ぎ倒した


「やりましたよ大尉!アメ公の頭にデカイのをかましましたよ!」


「まだだぁ!小原ぁ!機銃で敵を狙え!」


「合点承知!」

突然の奇襲にアメリカ軍は碌な対応が出来ず、迎撃機は少ない


ならば、叩けるだけ叩く。慈悲はない


更にそれだけで終わらなかった、アメリカ軍の受難はまだ続く




ルソン沖合

イギリス海軍東洋艦隊

旗艦”レパルス”


イギリス東洋艦隊は爆撃により空母はヴィクトリアスを残し全艦大破、戦艦は集中的に狙われ、レパルスを残し全艦撃沈。他にも重巡ロンドン、カンバーランドを残すところとなった

日本海軍との合同演習の帰りを狙われたのも不幸なところで、フィッシャー提督も左半身不随の重傷を追い、退艦に追いやられている

その為、今回指揮をとったのは戦艦リシュリューの艦長だったサー・セバスチャン・リットマン少将で、復讐に燃えるイギリス海軍の兵士をかき集め、空母ヴィクトリアスにあるだけの艦載機と残る艦艇全てを全力出撃させ今回の戦いに臨んだ


「卑怯で、無礼なヤンキーは白人ではない。ヒトラー以下のゴミだ!レパルスの主砲でヤンキーのハンバーグを作ってやれ!」

紳士にあるまじき暴言と呪詛を吐きながらイギリス海軍はルソン島に肉薄、安全圏から座標を支持する蓮部隊の支援を受け、艦砲射撃を敢行した


接近した戦艦の火力は航空機による爆撃なんて目じゃないほどの破壊力をもたらす。炎の巨人に蹴り飛ばされたように航空機が燃えながらひっくり返りコンクリートの司令部がたちまち瓦礫の山と化した


イギリス海軍は制止を求める日本軍の警告を無線機の不調を理由に砲撃を続け、アメリカ軍に三万発以上の砲撃を実施、アメリカ陸軍は戦力の七割を喪失した

反撃しようとアメリカ海軍が出港しようとしたが、突如艦の複数箇所で爆発が起こり、艦のほとんどが真っ二つにへし折れて沈没してしまい、反撃どころではなかった


そして、艦砲射撃が長引いたおかげで突入が遅れたものの、日本軍は無事空挺旅団をフィリピンに降下させることに成功した






*****






「なんだこれは」

マッカーサーはそう呟いた


まだ月が見える空にはアメリカ軍の航空機を追い回す日本軍が乱舞し、地上に機銃掃射を掛けるのはタイフーンだろうか


また天に巨大な火柱がそそり立った。戦艦の砲撃支援なのは明白だった


「こんな、ことが……ありえない!」

崩れ落ちそうな膝を根性で支え、側にいた副官に向き直った


「ルソンはもうダメだな。コレヒドールに撤退する。残った部隊に至急伝えろ」


「閣下!あれは!?」

マッカーサーが振り向いた方向には横一列に並んだ輸送機から白いパラシュートが降ってくる光景が広がっていた


「空挺部隊、だと……!?クソッ!」

コレヒドール要塞に降り注ぐパラシュートの群れを見たマッカーサーは日本軍を舐めていた事を後悔した







*****






「行け行け!グズグズするな!」

忍住少佐が部下を鼓舞するように声をはりあげる


彼らはコレヒドール要塞に直接降下し、要塞を制圧する役目を帯びていた


「友軍が対空砲台を破壊した!地上の敵のみ気をつけろ!」

部下が全員飛び降り、忍住少佐が機内を見渡した


「まったく、あの馬鹿どもは……」

誰かが忘れていったらしい分解された百式機関短小銃が入った包みを拾い上げた


「それでは、お世話になりました!」


「御武運を!」

機上整備員と敬礼を交わし、忍住少佐は飛び降りた


眼科のコレヒドール要塞は各所から火が上がり、蓮部隊による破壊工作が成功しているのがわかった









コレヒドール要塞への空挺部隊による強襲により要塞は陥落。アメリカ軍はその後ジャングルや防御陣地に立て篭もるも揚陸艦”神州丸”から投入された第二波第三波を前に壊滅。1月6日にフィリピン在留のアメリカ軍は降伏した

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