1話異世界転生
ちょっと前に書いた作品です。
俺は走っていた。
毎日毎日学校が終わるといつも決められたコースを走っていた。
目的なんてない。
大会とかにも出たこともない。
ただ走れればそれでよかった。
走っていると落ち着く……。
何故か?
それは俺にもわからない。
ただ走っていると落ち着くから走っているだけだ。
俺は今日もいつものコースを走っていたのだが、突然後ろから大きな音がする。
俺が振り返ると、大きなトラックがガードレールを突き破ってこちらに向かっていた。
「あ、死んだな…」
その直後、凄まじい衝撃を受けて、俺の身体は宙に飛ばされる。
(ああ、もっと走っていたかったな……)
俺は死ぬ間際の時でさえ、そんな事を考えながら意識をなくしたのだった。
目が覚めると、俺はふわふわした白い毛布のような物に包まれて、どこかの部屋にいるようだった。
(ここはどこだ?さっき俺はトラックに吹き飛ばされたはずだが。それに身体が思うように動かない)
俺は身体を動かそうとするが、まるで自分の身体じゃないみたいに動かしにくい。
(くそっ。まさかあの事故で助かったのはいいが、走れなくなったなんて、生きている意味なんてないじゃないか……)
走ることが生き甲斐だった俺にとって走れなくなるというのは生きている意味なんてない。
それくらい俺にとって走ることは大事なことだった。
それに、何故かしゃべることすらできないとは、俺の身体はどうなっているのだろうか?
そんな事を考えていると白い毛布だと思っていたものが不意に動いた。
俺は目の前の毛布だと思っていたものを見て驚く。
(犬…いやあの顔の形はオオカミか?それにかなりでかい)
俺は白い大きなオオカミ見て驚くが不思議と不安はなかった。むしろ安心する。
そんな事を考えていると、いきなりどこからか声がする。
「お母さん入っていい?」
そんな幼い声がする方を見ると、金髪の少女が扉の隙間からこちらを覗いていた。
「ええ、イリス。こっちに来なさい」
どうやらこの部屋には俺とオオカミ以外にも人がいたみたいだ。
そして、この幼女は『イリス』というらしい。
「ねぇ、お母さん。この子抱いていい?」
そんな事を少女は言ってくる。
誰を?とは言うまでもないだろう。俺だ。
大きいと思っていたオオカミが大きいんじゃない。
俺が小さくなっているのだと少女が近づいて来て気づく。
「レイ。いいかしら?」
そう言う女性は大きなオオカミをなでながら聞く。
どうやらこのオオカミは『レイ』と呼ばれているようだった。
レイは人の言葉が分かるのか頷くと、女性は、
「いいんだって」
と言ってイリスに笑顔を向ける。
イリスはそれを聞くと笑顔になり、俺の方に手を伸ばしてくる。
俺はそのままイリスに抱き抱えられる。
抱かれたことによりあらためて自身の身体を確認する。
オオカミのレイと同じ白い毛におおわれた身体。手足にある肉球。意識してみればお尻の方にまだ小さいながら尻尾のような物まではえている。
(これはそういう事だよな……)
どう考えても産まれて間もないオオカミの姿だった。
どうやら俺はオオカミに転生してしまったようだ。
それにしても、家でオオカミを飼うなんてどこの国なんだろう。
見た感じ日本ではないのだが、明らかに日本人じゃない少女のイリスやその母親と思われる人物の言葉は俺にははっきり聞き取れる。
抱かれながらそんな事を考えているとイリスが、
「ねえお母さん。この子が私のパートナーになるんだよね?」
と母親に聞く。
「えぇ、一応そのつもりだけど、それにはあなたも頑張ってこの子に認められるよう頑張らないとね。あとそうだ、名前は考えたの?」
「うん。だけど本当に私がつけていいの?」
「あなたがこの子のパートナーになるための最初の仕事よ。男の子だからかっこいい名前をつけてあげなさい」
「うん!私がこの子につける名前は『ハヤテ』にしようと思うの。風のように自由に動き回って、速く走れるようにって思って…どうかな?」
「いい名前ね。でもそれは私じゃなくその子に聞かないと」
イリスはそれを聞くと、俺の前足の脇に手を入れて持ち上げて俺と目が合うようにする。
「あなたの名前は『ハヤテ』。ど、どうかな?」
俺はそれに、
「わふっ(いいよ)」
とまだ鳴くのも慣れていないが何とか答えながら頷く。
「わぁー、お母さん。この子返事したよ!それに頷いてくれた!」
笑顔だったイリスがさらに笑顔になる。
思ったのだが、こうしてイリスの顔を正面から見ると、とても整っているのが分かる。日本人っぽい顔立ちなのだが肩まである金髪、身体の方はまだまだ小さいので10歳くらいだろうか?しかし、母親の方はかなりスタイルがいいし美人だ。まったく将来が楽しみである。
「あらこの子、産まれたばかりなのに言葉を理解できるなんて賢いわね。たまにいるらしいけど、この子の将来が楽しみね」
「そうなの?ハヤテ、私の言ってる事分かる?」
それに俺は頷く。
「お母さん。ハヤテ、また頷いた!この子賢いね!」
そう言ってイリスは俺を持ち上げたままくるくる回りだした。本当にうれしいようだ。
「お母さんとレイも手伝うけど基本はパートナーとなるあなたが面倒を見ることになるけど、大丈夫?」
「大丈夫だよ!私もお母さんみたいな立派なモンスターテイマーになるんだから、ちゃんと勉強してるもん。」
「そうだったわね。でもわからないことがあったらお母さんになんでも聞いてね」
「うん。そうだ、ハヤテ。あらためてこれからよろしくね!」
なんか先ほどの会話でなんか変な単語があったが、とりあえず今は返事をしておく。
「わふ、わふっ(こちらこそ、よろしくな)」
俺は生まれ変わってオオカミになったが、前と変わらず走りたい衝動はなくなっていない。この姿になって今はまだ走ることができないが、成長すればまた走れるようになるはずだ。それまでしばらくは我慢だな。
そんな事を考えていると、
(あなたはこれからイリス様のパートナーとして頑張りなさい。私はマリー様のパートナーとして日々修練を怠っていません。あなたも大会で活躍できるように日々鍛錬をするのですよ)
そんな声が聞こえてきた。
俺はその声がオオカミであるレイが言ったのであると理解した。
なるほど、オオカミに転生したのだからオオカミの言葉も分かるようになるのはあたりまえだ。あと、イリスの母親の名前はマリーというらしい。
それに俺は、
(わかりました。期待にそえるように頑張ります。)
そう無難に答える。レイの雰囲気が高貴な身分のしゃべり方だったのでついつい固く返事してしまったので変だと思われたのか、
(私は子を産むのは初めてでしたが、私の産まれて間もないときはここまで知能はなかったと思います。あなたは賢い。その力、イリス様のため大切に使うように)
やっぱり俺みたいに生前の記憶を引き継ぐなんて普通ではないのだろう。
しかしレイは、あまり疑問に思っていないみたいだったので大丈夫そうだ。
すると、マリーが、
「イリスがもうすぐ10歳になってスキルが発現したら、テイマー登録できるようになるからそれまできちんとしつけないといけませんよ。一応テストがあるからその時、ハヤテがいう事を聞かないと落ちてしまいますからね」
「大丈夫だよ!ねぇハヤテ」
そう言って俺に頬をすりすりしてくる。何この子可愛いすぎるだろ。
「わんっ(まかせろ!)」
ようやく上手く鳴けるようになって俺はそう答えるが、さっきから〖モンスターテイマー〗や〖スキル〗という10歳になって発現するものなんて前世では聞いたこともない。この国はいったいどこの国なのだろうか?
俺はその疑問を自身の母親であるレイに聞いてみる。
(母さん、この国ってなんて名前なんでしょう?)
それにレイが、
(国という概念までもう分かるのですね。この国はこの国の王、『アガード5世』が治める『アガード王国』です。そしてここは、マリー様の旦那様が領主をつとめる街、『ホプキス』ですよ)
聞いてはみたがやはり俺の知らない国だった。
さらになんとここはホプキスの領主の家らしい。という事は、イリスはお嬢様じゃないか。
俺はもう一つ気になっていること聞いてみた。
(あと、もう一ついいですか?私はなんていう生き物なのでしょう?)
(あなたは私から産まれたので一応〖ホワイトウルフ〗という魔物ですが、進化することができれば私よりも強い魔物になれるでしょうね)
レイはそう答える。
ちょっと待て。なんかスルーできない単語がいくつかあったのだが。
〖ホワイトウルフ〗、〖魔物〗、〖進化できる〗というものだ。
えっ?俺オオカミじゃなくてホワイトウルフっていう生き物で魔物って?
魔物ってあの漫画やアニメで出てくるやつだろ。
もしかしてここって地球じゃないの?
どうやら俺は地球じゃない別の世界にホワイトウルフという魔物として転生したようである。
いや、別に走れれば何でもいいけどね。
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