表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

十三月の物語

二月の僕達

作者: アルト

「よくぞ来て下さった、勇者殿!」


 ついさきほどまで僕たちは部屋で卒業試験に備えた勉強していたはずだ。それが軽い眩暈を覚えたかと思った瞬間、そんな声に迎えられた。

 声の主は初老の男性。見るからに王様だ。


「勇者殿にお越しいた」


 だからどうした。


「黙れ下郎」

「こちとら度重なる異世界への強制召喚でイライラしてんだよ」

「僕達もうすぐ試験なんだよ。こんなところで他人のために時間を使うほどの余裕はないの」


 相手がどんな立場だろうが関係ない。どうやら僕達、何度も召喚されたせいかいろんなところの召喚に引っ掛かりやすくなっているようで、毎日いろんなところに呼ばれる。

 まあ、呼ばれている間は何日経とうが実際の時間経過は数時間で済む。

 だからと言ってのんびり問題解決のために動く気はない。なにせ問題集を解いて頭に詰め込んだ数式とか理論とかは端から蒸発していくのだから。


「さっさと還してもらおうか、でなければこの国を破壊する。いますぐにだ」

「そ、それは」

「できないか。ならば殲滅だ。恨むのなら自らの過ちを恨め」



 とかそういうことがあった上で、よその世界を徹底的に破壊して無に還して僕たちは平和に勉強をしている。

 男三人。

 成績としてはみんなピーキーだ。

 できていることはできているが、できていないところはできてない。

 通知表をみてみんなバラバラだった。

 僕は理論などが高得点。

 隣でもーやめだとかいってほっぽりだしたのは実技とか体を動かすものが高得点。

 その隣でキーボードをカタカタやっているのは、電子工学系だけはすべてトップで、それ以外は単位がもらえるギリギリのライン。


「僕ら、無事卒業できるよね?」

「さあ? 試験前に限って呼び出し頻度が増すという謎現象のおかげで毎度赤点ギリギリなんだが」

「そんで滅ぼした異世界の数は何千だよ?」

「覚えてる訳ないよ。ああやって潰していけば異世界召喚だなんていう訳の分からないことに巻き込まれなくなりそうだけど、全然減ってないじゃん」

「全体で見れば増えてもないけどな」

「どーでもいーよ」


 異世界にいた頃は魔法学とかのような、座学と理論さえできていれば必然的に実技ができるようなものばかりだったが、魔力なんてものはないこのホームワールド。

 魔法の知識なんて重度の中二病患者と変わらない。

 というか奇跡だよ、一般常識とか人間とか数式とか物理法則がほとんど同じ世界にばかり飛ばされるのって……。いや、向こうがそういう条件で検索しているんだろう。宇宙は無限だ。だったら確率的にいくらでもありえる。


「3α^3+4α^2+α 微分せよ」

「なのその簡単な問題。9α^2+8α+1だろう」


 こっちからもちょっと出してやるか。


「2の8乗は?」

「256」

「2の16乗は?」

「65536」


 暗算早すぎないか……。


「2の32乗」


 さすがにこれは、


「4294967296」

「じゃあ64乗!」

「18446744073709551616」


 なんだこいつは!?


「電子・情報処理系なんだ。それは暗記しておく数字だ」

「…………、」

「ちなみに2の16乗は256の2乗で、計算するなら312×200+62×50+6×6だ」

「どゆ計算?」

「一番上の桁以外を足して、一番上の桁だけで掛ける。例えば16の2乗だとすると、

 16の6を足して22、で22に10をかけて220。次に上の桁を消して6に6をかけて36。足して256だ。

 覚えておいて損はない」


 日常生活で使わないな。


「そんなことより試験勉強!」

「どうせ国語表現は漢字の読み書きが中心だ。それだけやってれば赤点はない。数学もとくにやらんでええし、物理と科学もええとして、地理と歴史は捨てる。外国語も捨てる」

「捨てるってっ?! それでこのまえ後一点で単位落としかけたよね!?」

「別に今の状態なら三教科捨てたところで卒業に必要な単位はあるが」

「僕も君と同じだけど、こいつは? 毎回補習と追試に行ってた気がするんだけど」


 ぐてーんと寝転がってやる気なし。

 今となってはよき悪友だ、一緒に卒業しておきたい。


「おいこら、起きろ! もとを言えばお前の赤点解消のための集まりだろうが」

「うがーんなこといったって卒論は? 無理だよ俺そんなもの」

「条件付きで添削してやろうか?」

「嫌だね! お前にやられるとマイナス点食らうわ!」


 そう言われてみれば、確かレポート課題の時に一人だけマイナスが……。なにやったんだろう?


「とりあえず、問題集やろうか?」

「うわっ……」


 僕は参考書の山をテーブルの上に置いた。

 一週間徹夜すれば終わる程度の量だ。もちろん休憩なし、睡眠二時間、食事は五分以内、それ以外もなしという計算で。


「そんなものやるよりもこれ」


 パソコンの画面を向けてきながら言う。

 覗き込んでみれば、


「このまえの実習のときに学内ネットワークにウイルス入れてみた」


 試験問題が……犯罪だよ!


「おぉっ!? これで俺も満点取れる!?」

「バカ、いつも赤点のお前が全部満点取ったら疑われる。適度に間違えて平均60点くらいにするんだ。でだ、間違えるとすればここの問題の……」


 うわぁ……いつもの悪巧み。

 僕は知らない。見ていない。


 まあ、この先どうなるのかな。

 この国のやり方は酷く効率が悪い。

 よその国は学校で学んでこういうことができるから働かせてくださいですぐに仕事なのに、

 この国は働かせてくださいの後に研修だとかなんだとかで無駄なことを。

 だったら学校なんていらないでしょ、そこで必要なことを一から教え直すのなら。

 学歴もどうでもいいと思えてくる、そこで一から必要なことだけ教えるのなら。

 コミュニケーション能力が必要だから学校に行け?

 職場はいろんな年代がいるよ? ほとんど同年代と教員相手にどうやってコミュニケーション能力を伸ばせと?

 思うことは色々ある。

 でもまあ、逃げられない無駄なことはたくさんだ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ