地下1000メートル
バスは、車一台がやっとという、狭く真っ暗なトンネルの中をゆっくりと進んで行く。下り坂を走る気配もなく、数分でバスは停まり、乗客は降ろされる。
エレベーターがあるわけではなく、長く続く階段もない。長くどころか一段の段差すら降りていない。
それでも、私達は既に地下1000メートルの地に立っているのだった。
トリックではない。私達の頭上には1000メートルの山があり、山頂からみれば地下1000メートル。鉱山口からもおよそ1000メートルだそうだ。
1000メートルといえば、東京タワーの高さの3倍。スカイツリーの1.5倍。深い深い1000メートルのエレベーターを期待していた人はガッカリだが、長い長い1000メートルの階段を心配していた人は安心したことだろう。
外気温は13度。集合場所から既に真冬の身支度をと言われて、皆、重装備だったが、坑内のこの寒さに初めて納得する。
坑内は基本的に明かりは無く、全員が持参しているヘッドライトや懐中電灯がなければ、経験したことがないような真っ暗闇だ。文字通り、鼻をつままれても判らない。つまむ方だって、どこが鼻なのか判らない。目を開けているのか、まぶたを閉じているのか判らなくなる。真夜中にトイレに入って、ライトを消しても、こんなには真っ暗にはならない。さすがは地下1000メートルだ。
坑内を少し歩き、ビデオで神岡鉱山の歴史のお勉強をする。
昔の掘削法は、と、ここでスタッフ三人による実演が入る。
タガネとツチによる手作業を、赤フンドシひとつで、コント仕立てで笑わせる。
資料館や博物館では、マネキン人形による展示が多いところだろう。スタイルのいい八等身のイケメンにポーズをとらせてみても、浮いてしまって、なんとも場違いで、落ち着かない。
意気込みが違う、と言うより、お祭りなのだ。アドリブを入れながら、楽しんで演じているのが伝わってくる。こういうのは、良いね。こちらも楽しくなる。
実際の当時の作業は、暗く、狭く、たいまつかロウソクの煤と粉塵にまみれながらの重労働だったに違いない。
時代を下って、そして今は、というところで、トンネルの奥の方からライトを付けた怪物が轟音と共にやって来る。真っ暗な中でヘッドライトの逆光で姿形は確認出来ない。数メートルまで近づくと、重たい金属を叩きつけるような轟音を響かせる。
派手な演出の登場だ。この怪物が、ロードホイールダンプという特注の重機だった。