汗ばんだ首筋
3年前 12.29?
寝返りを打つ。
湿っぽく不快な首元に、少しだけひやりとした風を感じる。どこからか、メトロノームの様な規則的な音が聞こえてきた。
夢が途切れて、目が覚める。少し暑い。
汗ばんだ上半身を起こし、周りを見渡した。見覚えの無い白い壁、白い床、くり抜かれたかの様な簡素な窓、鉄の扉。
汗をかいた背中が冷えて、ぶるりと身震いした。
見覚えの無い部屋。嗅いだことのない匂い。そして規則的に響く機械音。
「訳わかんない」
暗示を掛ける様に、呟く。
「……あれ、起きた?」
聞き覚えの無い声と、ドアノブを捻る音が聞こえて、私は慌てて姿勢を正す。
「おはよう、夏視さん」
ドアの影から現れたそいつは、白衣を身に纏った長身の男。
「何で、名前……ていうか、誰」
「まぁ、そう慌てないで。名前は荷物から色々調べた」
ぶっきら棒に答える男。あぁ、そうだった。あの後、私は意識を失って。
「そんなに怯えないでよ、別に酷い事する訳じゃないから」
赤茶色の傷んだ髪を掻き毟って、そいつは私に近付く。
切れ長の、まるでメスの様な、薄紫色の目。
薄紫?
その瞬間、私の目は薄紫色の奥深くまでを一瞬で捉えた。ノイズで聞き取りにくいが、この波長は……
「君さ……今、読んだでしょ」
「……何、を……」
「何って、俺の"希少角膜"」
希少角膜。それは、一つ一つに色彩と特殊な能力を持つ角膜。それを、何故こいつが?
「……知らな、」
おかしい。何かが確実に狂い始めていた。