教室を出て
3年前 12.29
「じゃあね、千里」
「暗いから、紫乃も気を付けて」
わかってる、と言って、見慣れた級友の背中に手を振る。今日は体育祭の準備があり、教室を出るのがいつもより遅かった。外はもう真っ暗だ。全員が帰宅部の病魔学級には慣れない光景だった。
昨日までは、自転車で飛ばしていた急な下り坂を歩く。普段は自転車通学なのだが、昨日タイヤがパンクしたせいで徒歩で通う羽目になった。散々だ。
兎に角、今の私は機嫌が悪かった。早足で海岸沿いの坂道を歩いていると、珍しく反対側の道……つまり崖側に人影がある事に気付く。少し歩調を緩めて、暗闇の中の影を食い入る様に見つめた。
何かを海に投げ捨てている?
それって不法投棄になるのかな、などと呑気な事を考えていると、そいつはもう一つ、何かをゴルフバッグから取り出した。
僅かな月明かりが照らした"モノ"には、確実に四肢が付いていた。
海面に飲まれる"モノ"。
「……え?」
確かに、冬の海は寒い。だが、寒さとも違うそれは私の身体を竦み上がらせる。微かに漏れた声にその人影が気付くのは、そう遅くは無かった。
悪寒がする。
逃げろ、速く、と本能が喚くが、何かに支配されたこの脚は言う事を聞かない。
目が合った。近付いてくる。物凄い速さで脳が危険信号を送っているのだろうが、もう遅かった。
気が付いた時には腕を握られ、甘い香りが無理矢理、鼻腔に入り込む。
刹那、視えたその目はまるで狼男の様で、吸血鬼の様でもあり、ハロウィンみたいだ。何だか笑えてきてさ。そして視界が淀む。