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パンドラ・パンデミック  作者: Alphard
一月 拠点
5/8

狂人か、強靭か

一月某日 夜

 夕食の食器も洗い、洗濯物も畳み終わった。未だ歩く度にずきりと痛む脚を労ってか、珍しく夜桜が家事を手伝ってくれたのもある。後は、ひかげの帰りを待つだけだ。

「ねぇリュウ」

「なんだよ」

 居間には、彼女と私だけだ。時刻は21時42分。シャムは就寝し、ひかげはまだ帰らない。

「今日、辛かったでしょ。ごめんね」

「別に」

 反射的に素っ気ない返事をしてしまったが、実のところたいへん辛かった。

「やっと、歩く気になった?」

「……まぁ」

「なってないでしょ」

 最低限のリハビリは、何処か山奥の病魔病棟で行ったはずなのに。

「痛みが怖い」

 恐怖に気付いた時にはもう遅くて、悪寒が背筋を走り抜けた。

「過去を捨て切れないのは、私もだけど。トラウマを克服することが、第一のリハビリなんじゃないのかな」

「煩いな」

 少し驚いた夜桜が、怯えた顔でこちらを見ている。

 追い詰められて吐いた言葉がこれだよ。震えは収まることを知らずに、私を蝕む。

「何も知らないだろ」

「ごめんね」

「謝んなよ、うざったい。私がどんな言葉で自由を奪われたかも、どんな傷で現実感を見失ったかも知らない癖に生意気言うな」

 勢いに任せて言ってしまった言葉に、多少の罪悪感が残った。何故かは解らないが、視界が潤む。夜桜はごめん、ごめんと謝罪を繰り返していた。

「私は可笑しいんだって……言ってんだろ、なぁ。狂ってる奴にそんな事言ったって、」

 声に嗚咽が混じり初めたのに気付いた夜桜が、私の肩を無言で掴んだ。

「どうして」

 これ以上、紡ぐ言葉も無くって。私の一言一句に振り回されている夜桜に申し訳無くて。毎晩の様に繰り返す一問一答が嫌になって。また泣いた。

 そんな私の肩を、もう二度と離すまいと、彼女がまだ掴んでいた。

「ごめ、ん、夜桜」

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