あれから1年後、名前はもう無い
「……ハァ」
また無駄に溜息。寿命が縮むらしいが、私にはあまり関係無い。元々、余るくらいの寿命が在るのだから。
なぜなら、私は俗に言う。
「病魔、ねェ」
そう呟いて、自分の掌を見る。周りのネオンには似合わない、切り揃えた青い爪。
「別に、大して変わらないだろ。普通の奴らと」
最近、独り言ばかりだ。人肌恋しく、とでも言おうか。どうも、上手く毒が吐けない。
去年までは、こんな事、無かったのに。
ふと、肩に誰かがぶつかる。
「っおい」
恐る恐る顔を上げると、酔った背広のサラリーマンがこちらを睨んでいた。
「すいません」
「……お前、病魔か」
ぴく、と身体が強張る。まさか、薬で青く変色した爪を見られたか? それとも、とても歓楽街に来る様な服装ではないからか?
どっちにしろ。面倒な事に、変わりはない。
「病魔かって訊いてンだよ」
胸倉を捕まれる。止めろ、Tシャツが伸びる。……今更、誤魔化しても仕方無いか。
「病魔、ですが」
人が群がる前に……と思っていたのも束の間、すぐに野次馬が押し寄せ、周りをぐるりと取り囲む。きちんと2メートルほど離れて。耳には、とても良い響きとは言えない言葉ばかりが響いた。
「近寄ンなよ」
掴まれていた胸倉を、大きく突き放される。
「っ……」
バランスを崩して、強く腰を打った。
クラっと来て、意識が飛びそう。
このまま収容所行きか。
「……すいません」
只管謝るしかないか。
「収容所連れてくか」
「ホント、すいませんって」
駄目か。もう嫌だ。嫌いだ。全部。
それから男は散々私を罵って、殴った。
千切れそうな意識でわかるのは、ここまでだ。
クラっと来て、死んじゃいそう。