少々問題のある自嘲癖
「……ハァ」
また無駄に溜息。寿命が縮むらしいが、私にはあまり関係無い。
なぜなら私は俗に言う。
「病魔、ねェ」
そう小さく呟いて、自分の掌を見る。
「別に、ほとんど変わらないだろ。普通の奴らと」
最近、独り言ばかりだ。人肌恋しく、とでも言おうか。弱小ウイルスを恐れずに近寄る者など居ないものか。どいつもこいつも! あァ、苛々する。だからウイルスをそのまんまお届けするって訳だ。自分で言うのも何だが、解せない動機。
口ずさむのは似合わないラブソングで、夢見るのは甘いくちづけ。
「ウツルウツルうるせェっつーの」
くちづけ=感染の方程式。愛があれば関係ないだろ? 死にやしないよ、風邪程度だよ。
こうやって今宵も、夜の街をうろついては男を誘う。そしてカミングアウト、「私は病魔」。無理矢理くちづけ、ハイ感染。
こんな無意味な行為!
自分が傷つくなんて事、解ってはいるんだ、頭では。
掲示板に貼られたポスターが目に付いた。要は病魔隔離地域設置を求むって事。
「隔離隔離うるせェっつーの」
死にやしないよ、風邪程度だよ!
噂では、ある病魔らは差別を恐れて病魔だけの村を山奥につくったそうだ。羨ましい。どうせ病魔じゃなくとも受け入れられない体なんだよ。
また一部の病魔一族は、おかしな宗教団体を作り何度もデモを起こしている。
まるでライじゃないか!
政府の大袈裟な発表。
マスコミのオーバーな報道。
態とらしい口コミ。
なぜ人は同じ過ちを繰り返す? 何度も自問自答したが、答えは出ない。まあ、当事者なのだから当たり前か。
不満と鬱屈を飲み込んで、ネオンが眩しい夜の街を一人うろつく。
ターゲットを絞る。よし、あいつだ。
そしてまた、男に近寄る。そっと耳元で囁く。
何度これをしたことか。無意味にウイルスを撒き散らしたい衝動。少なくとも理性が原動力ではない。ならば本能?
どいつもこいつも……!
病魔だから? なに、3日風邪を引くだけさ!
さあくちづけを。
愛があれば関係ないだろ?
身体が憶えた仕返し……ある意味、還元の方法。また無意味にウイルスを撒き散らす。嗚呼なんと愚かしい。