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4429F  作者: 撫川 俊
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7、未知との対峙

7、未知との対峙



 いくつかの文房具と、洗顔用品を購入した友美は、里美や、愛子が待つ公園へと向かった。

『 ユキは、きっと何かを感じたのよ 』

 愛子が言った言葉を、友美は想い返していた。

 ・・・あの惨劇の事件が起こる前日・・・ 実は、友美はユキを見かけていた。 学校近くの大通りに掛かっている歩道橋を渡っていた友美は、ふと、車道を横切る同じ学校の制服を着た女子生徒を見つけたのだ。 交通量が多い通りにも関わらず、その女子生徒は、平然と斜めに横断している。 周りを通過する車からは、クラクションが1つも鳴らされない。 まるで、彼女が見えていないかのようだ。

 奇妙な光景を、友美は歩道橋の上から、不思議そうに眺めていた。

 すると、その生徒は突然、立ち止まり、歩道橋にいる友美の方を見上げたのだ。 車道の真ん中に立ち止まり、じっとこちらを見つめている・・・ 友美は、背筋が寒くなる感覚を覚えた。 明らかに友美に気付き、見つめているようである。 やがて、彼女は向き直ると大通りを横切り、雑踏の中へと消えて行った。

( 何か、気味の悪いヤツ・・・! )

 その時は、その程度しか思わなかった。 しかし、今、想い返してみれば、その時すでにユキには見えていたのかもしれない。 友美という存在。 そして、自分の末路、友美の未来が・・・!

 その日の放課後、学校の屋上でたむろする洋子たちの前に、ユキは現れた。 洋子に対し、執拗に『 死喰魔 』から借りた車の経緯を問い詰めていたユキ。 やがて、ユキを排除しようとしたみゆきが、突然、血を吐いて倒れた・・・

 立ち去ったユキを探す為、洋子に命令され、ユキを探しに行く加奈子。 数時間後、加奈子は電柱の昇降用クイに串刺しにされ、絶命しているのが発見された・・・!

 思い出される、凄惨な記憶。

 友美は眉をしかめ、小さく、ため息を吐いた。

 友美にとって、恐怖の象徴でしかなかったユキ・・・ しかし、全てを知った現在の友美にとっては、不幸な過去を背負い、孤独な死に方をする事しか出来なかった哀れな同胞として、その記憶は置き換えられようとしていた。

( 4429Fの力に、自我を乗っ取られる前のユキと、話が出来ていたら・・・ )

 友美は、切実にそう思うのであった。


 中央公園に着いた友美は、公園の入り口を入った。 数段の石段を登ると、木立の美しい並木道が続いている。 幾何学模様のカラー歩道には、数羽の鳩が群れながら、落ちている木の実をついばんでいた。

( 南側の石碑って言ってたわね、里美 )

 友美は、並木の歩道を公園の奥に向かって歩き始めた。

 クッ、クッと、2羽の鳩が、友美の前を歩いている。 まるで友美を道案内するかのようだ。 少し微笑みながら、友美は、その鳩の後を歩いていった。

 突然、2羽の鳩が飛び立った。 その行方を目で追った友美は、何かを感じた。

( ・・力だ・・! )

 力を持った人間の気だ・・!

 はたして、前方の木立の影から、1人の人物が歩道に歩み出て来た。 明らかに、こちらを意識している。 どうやら、里美が言っていた『 春奈 』という人物らしい。 ジャンパースカートの制服を着ている。 この制服は、友美も知っていた。 都内でも有名な、私立の名門女子学院のものだ。 少し、表情は暗めで、髪はダークショート。 じっと、友美の様子を窺っている。

「 ・・春奈・・ さん? 」

 友美が、そう尋ねた途端、彼女の周りの枯れ葉や小枝が、いきなり巻き上がった。 彼女を中心に、猛烈な勢いで木の葉が渦を巻いている。 いくつもの青白い、小さな放電が放射状に走り、やがて、それが彼女の一振りと共に、友美に向けて発せられた。

「 ・・・あっ! 」

 強烈な衝撃と共に、数メートル後方にあった大きな木に、友美は叩きつけられた。 とてつもない大きな力が、友美の体を束縛している。

「 ・・やめ・・ て・・・! 何するのっ・・ 私は・・・ 」

 彼女の束縛は続いた。 猛烈な、『 プレス 』と呼ばれている力の応酬だ。 これは、明らかに攻撃である。 彼女は、友美を知らない。 本能的に、敵とカン違いしているのであろうか。

 圧倒的な束縛を加えつつ、彼女はもう1つの磁場を発生させると、これを再度、友美に向けて発した。 今まで以上の耐え難い負荷だ。 しかも、今度は、それを友美の首に集中させている。 気管が潰され、息が出来ない。 首の血流も止まり、段々と意識が遠のいていく。

( 殺されるっ・・・! )

 いつの間にか、彼女は、友美の目の前に来ていた。

「 ・・・まったくの無防備ね。 それがあなたの命取りよ・・・? 」

 冷めた、無表情なその目・・ 殺人者の目は、こんな感じなのだろうか。 あの時のユキと、まったく同じだ・・・!

「 ・・苦しい? ごめんね。 今、頭を潰して楽にしてあげる 」

 友美の頭部に、更なる負荷が掛かった。 ミシミシッと、頭蓋がきしむのが感じられる。


 < ・・・やめてッ! >


 一瞬、青白い閃光が走り、ドーンという落雷のような音と共に、木が破裂した。 彼女は、飛来して来る破片を避けると、数歩ばかり後ろへ下がった。 衝撃で起こった薄い白煙がたなびく中に、友美が立っている。 時折、ショートするように、パチ、パチッと青白い光が、友美の体から放たれていた。

「 ・・自分の衝撃波で、私のプレスを破壊したのね? ふうん・・ 大したものね 」

 別段、焦りもせず、彼女は言った。

「 あ・・ あなた、誰? 春奈さんじゃ・・ ない・・ の? 」

 乱れた呼吸を落ち着かせながら、友美は聞いた。 足がふらつき、立っていられない。

 友美の質問には答えず、無表情なまま、静かに彼女は言った。

「 これ以上やって、いたずらに私の寿命を縮めたくないわ。 邪魔くさい子たちも、いるようだし・・・ また、会う事になりそうね。 でも、その時があなたの最期よ、友美・・・ 」

 そう言うと彼女は、木立脇にある出入り口から、大通りの方へと消えていった。 張り詰めていた気を緩めると、途端に体中の力が抜け、友美はその場にへたり込んでしまった。 猛烈な倦怠感が襲って来る。 体中が、抜けるようにだるい。

「 友美ッ! 」

 並木道の向こうから、数人の人影が駆け寄って来た。

「 しっかりしてっ! 友美、大丈夫っ? 」

 愛子の声だ。

「 そこのベンチに寝かせてあげて! ほら、肩持って 」

 里美の声も聞こえる。

 どうにか、呼吸が落ち着いてきた友美は、傍らにいた里美に言った。

「 誰だか、わかんない子に襲われたの・・・ いつも初対面の仲間に、迷惑かけちゃうから、まったく警戒してなかったの。 凄い力だった・・・! 」

 里美が、それに答えた。

「 ごめんね、友美・・! 話しておけば良かったね。 あいつは、熨田 浩子っていうの 」

「 ・・のだ・・ ひろこ・・・? 」

 ハンカチで、友美の頬に付いた汚れを拭きながら、愛子が代わりに説明をした。

「 大館さんの彼女よ。 あいつも、社と組んでるの。 ごめんね、友美。 波動を感じて、私たちも行こうとしたんだけど、浩子のシールドが強くて、近寄れなかったの。 周り一面に、誰も近寄れないように、バリアみたいなものを張る事が出来るのよ、あいつは。 友美が、プレスで使う気の力を、お碗のように変形させるの。 私たちの中で、一番強い衝撃波を出せる春奈が、強行突破しようとしたんだけど・・ 弾かれちゃったわ 」

「 友美さん、頼りなくてごめんね。 あたし、春奈。 沢口 春奈よ。 中学2年。 よろしくね 」

 額に、うっすらと付いた打撲の跡を撫でながら、里美の後ろにいた少女が挨拶した。 都内の公立中学のブレザーを着ている。 耳を出したショートの髪型からは、活発そうな性格が感じられた。

「 ・・・よろしく。 友美です。 こんな格好で、ごめんなさい 」

「 ううん、すごいよ友美さん! あの熨田っていう人は、社より、力が上なのよ? そのプレスを弾き飛ばしちゃうんだもの~! 尊敬しちゃうなあ~ 」

 憧れのまなざしで、春奈は、友美を見た。

「 社のあとは、浩子か・・・ やっぱり友美に興味があるみたいね、あいつら 」

 愛子が、腕組みをしながら言った。

 里美は立ち上がると、友美を見ながら答えた。

「 興味どころか、友美を殺そうとしたのよ? 信じらんないっ・・! いよいよアイツら、やる気よ? まずは、邪魔モノから片付けようって事だわ。 アイツらにとって、友美の力は、脅威のはずだもん。 あたしたち側に付いて、味方に出来ないと判断したのね。 ソッコー、除外対象ってワケよ・・・! 」

 その時、全員が、あるものを感じた。

「 ・・・社っ! 」

「 近いわよっ! みんなっ、友美を守って! 」

 里美が、友美をかばうように抱きしめた。 愛子も寄り添い、春奈も友美の側で姿勢を低くし、辺りを警戒している。

 只ならぬ気配が、辺りを占拠していた・・・!

「 出来損ない共が、全員集合してるぜ 」

 先程、浩子が出て行った公園出入り口から、不敵な笑みを浮かべながら、社が姿を現わした。

 春奈が気を集中させ始める。 愛子も、春奈の力を援護するように気を送り出し始めた。

「 おいおい・・! いくらオレでも、おまえら全員を相手するほどバカじゃないぜ。 話し合いに来たんだ。 そうカッカするなよ 」

「 ・・友美をこんな目に遭わせといて、よく言うわね・・・! 」

 友美を隠すように抱いたまま、社を睨みながら、里美が言った。

「 ちょうど4人ともいるな。 へっ、まるで制服の見本市だぜ。 ・・よう、友美! 浩子とやりあったんだってなァ。 どうした? もう息切れしてんのかよ 」

 春奈が、友美をかばうように、前に出て言った。

「 馴れ馴れしく友美センパイを、呼び捨てにしないでよッ! アンタ、何様だと思ってんのっ! 」

「 あいかわらず、威勢がいいじゃねえか、春奈 」

 ふてぶてしく社は、4人の前に仁王立ちになっている。

 少し、 社のカッターシャツの襟が、風になびいた。 足元の枯れ葉もカサカサと動き出している。

「 ・・・! 」

 社は、異常に気付いた。 春奈・愛子も、その異変に注目する。

「 ・・! 友美っ、あんた・・・! 」

 里美は、抱いている友美に気が付いた。 友美が、社に向けて、気を発している。 しかも、それは急激に大きくなり、やがて物凄い質量と共に、社の頭上に圧し掛かった。

「 うおっ・・! 」

 社も、応戦して気を発するが、油断していた為か、防戦的だ。 少し押し返したが、友美は、更なる圧倒的な圧力をかけた。 ビリビリと空気が振動し、そこいら中に放電が走る。

「 と、友美、そんな体で・・・! だめよっ、無理しないで! 」

 里美が叫ぶ。

「 ・・・こ、この野郎・・・! 」

 社の髪は逆立ち、額には血管が浮き出ている。 足元のアスファルトにヒビが入り、近くにあった水道の蛇口からは、水が吹き出した。

「 す、凄い・・・! 社を圧倒してる! 」

 春奈は猛烈な気圧に、手をかざしながら言った。

「 だめよ、友美ッ! やめてっ・・ し、神経切っちゃうっ! 友美っ・・! 」

 里美は、必死に友美を抑えようとしている。

 やがて、プレスに耐え切れず、社の足が曲がり始めた。 修羅のような形相で、社は、うめく。

「 調子に・・・ 乗り・・ やがっ・・・ てエェ~・・・! 」

 更に友美は、プレスの圧力を上げた。 空気は押し固められ、熱を持って周り全体の景色が赤くなって来た。 友美は、プレスの範囲を狭めて社の束縛力を高めると、もう1つの磁場を発生させ、それをプレスの上から、社めがけて投げ付けた。 更にもう1つ、合計3つのプレスで社を束縛している。 その上、3つのプレスの圧力を、全て上げた。

「 だっ・・ だめえっ! 友美っ・・! 無茶しないでっ! 戻って来れなくなっちゃうよ!  友美っ、友美っ・・! 」

 里美が、必死に呼びかける。

 社には、限界が近付いていた。 自分のプレスが、友美のプレスによって崩壊させられる危機が迫っていたのだ。 もし、バリアとして使っている自分のプレスが破壊されたら、センチメートル当たり、最大、1tを超えていると推定される友美のプレスで、ミリ単位まで押し潰される事となる。

「 うおおッ・・! 」

 社は、叫び声と共に、最大の力を振り絞った。

 次の瞬間、ドーンという大きな衝撃音と共に、大きな閃光が走り、猛烈な圧風が辺りを席巻した。 一瞬にして、周り一面が、モヤがかかったように真っ白になり、やがて不気味な程に静まり返った時の静寂が、辺りを包んだ。

「 ・・春奈ッ、里美! 」

 凄まじい気の応酬が収まったと判断した愛子は、たなびく白煙の中で叫んだ。

「 愛子センパイ! 私は大丈夫よ! 」

 春奈が、傍らで答えた。

 いつの間にか、気圧が弾ける際の衝撃で、2人は木立の辺りまで押しやられていた。

「 と・・ 友美は・・・? 」

 愛子がメガネを掛け直し、ベンチの方を確認すると、里美が、友美をしっかり抱いたままいるのが見えた。

 愛子たちの方を振り返り、里美が声を掛ける。

「 愛子、春奈! ケガない? 」

「 大丈夫よ。 友美は? 」

「 ・・友美っ、あたしよ、わかる? 里美よ! 」

 里美が、抱かえていた友美に話し掛ける。 友美は、里美の腕の中で虚ろな目をしながらも、しっかりした意識を持っていた。

「 捕まえようと思ったんだけど・・・ 破壊されちゃった・・・! 話し合いって言ってたけど・・ そんな意志、全然感じられなかったもの。 殺気の塊みたいな・・・ それに、近くに、さっきの浩子さんの気のようなものも感じたし 」

 愛子と春奈が、駆け寄って来る。

「 凄いっ、凄いよ、友美センパイ! あの社が、逃げてったよ! 」

 春奈が、我が事のようにはしゃいだ。

「 こんな大きな気同士の勝負、見た事ないわ・・! あいつ、プレスに耐え切れないと見て、衝撃波を使って来たわね 」

 愛子が、友美の制服に付いたホコリをはたきながら言った。

「 まさか、こんなに友美センパイがコントロール出来るようになってるなんて、思ってなかったのね! いい気味よ 」

 春奈が、自慢気に言う。

 友美の頬に付いた枯れ葉の破片を、指で払いのけながら里美が言った。

「 あいつら、しばらくは来ないから安心して、友美。 衝撃波は、かなりの肉体的ダメージを受けるから・・・ しかも、今の衝撃波は、アイツにとっても最大級クラスだったろうし 」

「 ・・心配かけて、ごめんね。 里美の声、聞こえてたよ・・? 私、どこかに弾き飛ばされそうだったけど・・ 里美の声の方向に、しっかり意識してたから、大丈夫だったよ 」

 里美は、抱いていた友美を、更に強く抱きしめながら、涙声で言った。

「 友美・・・! 暴走して神経切っちゃったら、どうしようかと思ったよ。 もう、無茶しないでね・・・! 」

 自分の身を、心から心配してくれる仲間のありがたさが、友美には、たまらなく嬉しかった。

「 ありがとう。 これからは、みんなが入って来れるように、後ろの気を開けておくね・・・ 」

「 さすが友美センパイね! もう、そんなコントロール出来るんだ。 しかも、さっきは3つのプレスを同時に使ってたよね? 凄ォ~いっ! 」

 春奈が、感動したように言った。

「 浩子さんや、社って子が、私にした事よ? 真似たり、応用しただけ・・・ 」

「 友美センパイ、そういうのを成長って言うのよ? 」

 春奈が、人差し指を立てながら言った。

「 さあ、今のうちに友美連れて帰るわよ。 ちょっとハデな音がしたし、また警察なんか来ると厄介だから・・・! 」

 愛子が、辺りを見渡しながら、皆を則した。


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