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4429F  作者: 撫川 俊
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6、過去の軌跡

6、過去の軌跡


「 あ、来た。 里美~っ、ココよォ~! 」

 愛子は、芝生の向こうへ手を振った。 ブレザーの制服を着た1人の女子高校生が、こちらに歩いて来る。 小柄な身長で、髪は短いようだ。

 その瞬間、友美は、あるモノを感じた。 あの、社とか言う少年と出会った時と、同じ感触だ。 それは今、近付いてくる少女から伝わって来ている。

 友美は、身構えた。

「 あっ、キャッ・・! 」

 突然、芝生の上に、その彼女は、仰向けに押し倒された。 彼女の周り、10メートルくらいの円形範囲の芝生が押し潰されている。 何か、巨大な・・ 目には見えない、恐るべき力が、彼女の周りを取り囲んでいた。

「 ・・・や、やめてっ、潰れちゃうっ・・・! 」

 仰向けになったまま、彼女は叫んだ。

「 ち、ちょっと、友美、やめてっ! あの子は仲間よ! 」

 愛子が叫んだ。

「 え? あ・・・! 」

 また、いつの間にか、力を使っていたようである。 しかし、彼女との距離は50メートル以上はある。 友美は、自分の力で起こした事とはいえ、この状況を、にわかには信じられなかった。

「 里美、大丈夫? 」

 愛子は、倒れていた彼女の所へ駈け寄り、彼女を抱き起こした。 友美も駆け寄り、彼女の背中についた芝生を、はたきながら言った。

「 ごめんなさい! 私・・・ まだコントロール出来なくて・・・ 」

「 ううん、私がいけないのよ。 不用意にあなたの深層心理の中を探ろうとしたから、弾き飛ばされちゃった。 でも、それにしても凄い力ね・・・! 」

「 かなり強力なプレスだったでしょ? 私も校門の壁に、のしイカにされかけたのよ? 」

 愛子が、笑いながら言った。

「 波動、感じたわよ。 大き過ぎて、ちょっと心配だったの。 愛子、潰されてるんじゃないかって 」

 彼女は、立ち上がると、友美の方を向いた。

「 はじめまして。 三上 里美よ。 あなたと同じ、高3 」

 友美は、ぺこりと頭を下げて挨拶を交わした。

「 笠井 友美です。 ごめんなさい。 これからは、気を付けるわ 」

「 いいのよ。 あなたの力の凄さも分かったし 」

 里美は、友美の腕を、ポンと叩いた。

 愛子が、友美に言った。

「 里美は、少し離れて待機しててもらったの。 もし、友美が、社に取り込まれていたら、多分、話し合いどころじゃなかっただろうから、私が囮になって、里美に押さえてもらおうと思ってたの 」

「 愛子~、こんな力じゃ、私たち2人でも、ペシャンコよ? あたしが、平方センチメートルあたり、最大で800kgだから・・ 友美のは、1tは越えてるわね。 凄おぉ~い! 」

 里美が、笑いながら言った。

 友美は、不安げに里美に聞いた。

「 社って子たちは、そんなに危ない事、考えてるの? 」

 里美は、愛子の方を見た。

「 一通りの事は今、説明したわ。 友美は、大丈夫 」

 里美は頷くと、しばらく考え、想い付いたように足元の小石を拾うと、友美に見せた。

「 これは、ただの小石よ。 大きさは、小指の頭くらいね。 でも、これを音速以上の速さで飛ばしたら、どうなるかしら? 」

 里美は、周りを見渡した。

「 あそこにベンチがあるわね、さっきまで2人が座ってた。 多分、木製だと思うけど、見てて・・ 」

 里美は、手の平に乗せた小石に、気を集中し始めた。 やがて小石が、手の平で宙に浮いたかと思うと、ヒュッと、小さな風切り音と共に、消えてしまった。 友美があっけにとられていると、ベンチの方で、バシッと音がした。 ベンチの、背もたれの部分に飛ばして当てたらしい。 小さな白煙が上がっている。

「 来て 」

 里美たちに引かれて、友美はベンチの所へ行って見てみると、小石はベンチの背もたれを貫通していた。

「 まるで・・ 鉄砲で撃ったみたい・・・! 」

 貫通した穴に手を触れながら、友美が言った。

「 もしこれが、パチンコの玉みたいな金属だったら、どう思われるかしら? 」

「 ・・・・・ 」

「 そこが狙い目なのよ。 この痕跡の場合、明らかに銃で撃った行為と思われるでしょ? 銃が使われたと判断されたのなら、銃を持っている人間、銃で撃てる範囲の場所しか捜索は行なわれないわ。 つまり、誰かを狙撃しても、犯人は判らない。 どんなに近くにいても、撃った証拠がない・・・! 姿亡き、犯行よ。 まあ、わざわざ、狙撃と思わせる必要もないけど、変死よりは、説明のいく状況の方が、私たちの力の存在を知られずに済むから 」

 里美は続けた。

「 とある人物と、組んだとするわね。 その人物にとって、邪魔な他人や状況は、すべて私たちの『 力 』で、どうにでもなるわ。 お金も、地位も、仕事も。 目の前で、力を見せて脅して、その人を思いのまま操る手だってある。 他人と組む必要もないけど、今のところ、私たちは未成年でしょ? 隠れ蓑的に、誰か大人と組む方が手っ取り早いのよ。 これを、政治家と組んだら・・ どうなると思う? 」

 大館という人物の、壮大な策略が、友美にも理解出来てきた。 まさに、自分の思い通りの事が出来る。 邪魔なものは、全て消し去る独裁的発想の極致だ。 しかも、この力を使えば、いともたやすく実現出来る。

 愛子が、友美の肩に触れながら言った。

「 あいつらが事を始めたら、止めなくちゃいけないのよ・・・! 放っておけば、いずれ、とんでもない結果になるわ。 欲望なんてモノは、1度、手にすると、次は、もっと大きなモノが欲しくなっていくものよ。 特に、まだ中学生の、あの社って子は、要注意だわ 」

 それは友美にも、容易に理解出来た。

 愛子は、メガネの奥から、真剣な眼差しで友美を見つめながら続ける。

「 ・・友美の力が必要なの。 私たちだけじゃ、手に負いかねるのよ・・! いずれ、この秘密を知っている私たちも、邪魔者にされるわよ? 大館さんは、いい人だけど・・ あの、社ってヤツは信用出来ない。 最近は、大館さんも、手始めは少々荒っぽい事しなくちゃいけないって、何か、アイツの言動に賛同するようなコト、言い始め出したし・・・ 」

 また何か、とんでもない事件に遭遇するかもしれない、という不安が、友美の脳裏を過ぎった。 平穏な生活が、自分に与えられる事は、ないのだろうか? しかも、今回は、得体の知れない力との共存である。 ・・だが、この力を、私利欲望を得るための道具として利用しようと考えているのは、わずかな者たちのようだ。 その危険性を排除出来れば、今度こそ、平穏な生活が待っている。

 友美は、そう自分に言い聞かせた。

「 ユキは・・・ この事を知っていたの? 」

 友美が、里美に尋ねる。

「 ユキのお父さんは、新聞記者だったのよ。 人体実験が行なわれた病院に入院していて亡くなった奥さんの死因に疑問を持って、色々と調べてたらしいの。 人体実験の事も、独力で調べ上げたみたいね。 感付いた榊原院長と笠井社長の策略で、自動車事故に見せかけて、殺されちゃったの。 車を貸したのは、当時、『 死喰魔 』のリーダーだった、笠井社長の娘、笠井洋子。 やったのは、洋子の彼氏だった、住田純一。 この住田純一っていう人は、元はユキのお父さんの部下だった人よ。 お金に困って、榊原院長たちにチクったわけ 」

 まさに、金と欲が絡んだ、醜い人間絵図の縮図だ。 今、解き明かされた恐ろしい過去に、友美は驚愕せずにはいられなかった。

 里美は続けた。

「 父親の古い手帳から偶然、この事を知ったユキにとって、それは復讐以外の何ものでもなかったのよ。 だから我を忘れて、力のコントロール制御が出来なかったの。 もっと大きな企てが立てられている事も、私たちの存在も知らなかったと思う 」

 愛子が、その後を付け足して答えた。

「 でも、ユキは友美を殺さなかった・・・! きっと、何かを感じたのよ。 深層心理に入っても、判るのは、その人の過去の記憶だけだけど、もしかしたらユキには、未来が予知出来ていたのかもしれない 」

「 未来・・・? 」

 菊池も、同じような事を言っていた。 未来予知・・・ 本当に、そんな事が出来ていたのだろうか・・・?

 愛子の言葉に、友美は、じっと彼女を見つめた。 友美を見つめ返す愛子。 里美は、静かながらも、重みのある口調で言った。

「 ・・あたしは、確信してる。 ユキには、未来が予知出来てたと思う 」

「 そんな事が・・・! 」

 にわかには、信じられない様子の友美。

 里美は続けた。

「 一度だけ・・ ほんの少しだけど、ユキの深層心理が見えた時があったの。 暗い・・ とてつもなく悲しい世界だったけど・・ 期待と希望を感じる心理の中に、友美の姿があったわ・・・! 」

「 私の・・・? 」

 里美は頷き、言った。

「 もっとも、その時は・・ あたしは、友美の顔立ちは知らない。 でも、ユキは、ハッキリと意識の中で認識してたわ。 最後の覚醒者になる、友美に期待してるって・・・! 」

 自分を、見逃してくれたのかもしれない、ユキ・・・ ユキには見えていたかもしれない友美の未来は、一体、どんな未来であったのだろうか?

 里美は続けた。

「 未来予知なんて・・ 冗談のように思えるでしょ? でもね、ユキの、あの常識を超えた力は、ケタはずれだったのよ? 憎しみで我を失い、神経を切っちゃった時・・ 私なんか、ユキの半径100メートルには、近付く事すら出来なかったわ。 社だって、跳ね飛ばされて肩を脱臼したのよ? 」

 怒りと復讐の憎悪・・・ ユキを動かしていたのは、それだったのだ。 そして、あまりに悲しい末路・・・

 未来予知の確信は別として、この一連の事件の発端に、自分の父親が関係していた事実は、友美にとって、改めて恥じ入る気持ちにさせた。 それと同時に、何とか、解決の糸口は掴めないものかと思慮させた。 ・・出来れば、争いは避けたい。 お互い、仲間なのだ。

 3人は、それぞれの想いを胸に、無言で河川敷を眺めていた。

 しばらくすると、里美の携帯メールの着信が鳴った。

「 ・・春奈からよ。 行ってもいいか? って 」

 里美が、愛子に言った。

「 うん。 友美にも引き合わせたいし、そうね・・ 5時半に中央公園でどう? 」

「 わかった。 返信しとくね 」

 どうやら、新しい仲間からの連絡らしい。 先程の愛子の説明だと、あと3人の仲間がいるはずである。

 友美は愛子に言った。

「 ごめん。 駅前でちょっと買い物があるの。 それを済ませてから行ってもいい? 時間までには行けるわ 」

 里美が、携帯を閉じながら答えた。

「 いいよ。 中央公園、知ってるでしょ? 南の方に、大きな石碑あるじゃない。 ちょっと、舞台みたいになってるトコ。 あそこね 」

「 わかった。 待っててね 」

 愛子が言った。

「 じゃ、里美、何か食べていかない? 私、お腹減っちゃったよ 」

「 アンタ、いっつもそうじゃん。 おとなしい顔して、めっちゃ食べるのよねぇ~ 」

 気の合いそうな2人の新しい仲間と別れた友美は、駅前の方へと向かった。


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