表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4429F  作者: 撫川 俊
5/15

5、愛子

5、愛子



 左右ある門柱。 その右側だ。 この不思議な力を使う『 誰か 』の存在を感じる。 ハッキリと・・・!

「 ・・・・・ 」

 友美は、警戒をしながら、ゆっくりと校門を出た。

 ・・・はたして、そこに立っていたのは、若い女性だった。 襟に、赤い3本線のラインが入った濃紺のセーラー服を着た高校生だ。 両手で通学カバンを前に持ち、じっと、友美を見つめている。

「 友美さんね? ・・すごい集中力ね。 とても、覚醒まだ間もないとは思えないわ。 はじき飛ばされそうで、私、一歩も動けなかったもの 」

 ノンフレームのメガネをかけ、肩までの髪を左右、きれいに三つ編みにした、真面目そうな感じの女生徒である。

「 ・・・殺気は無かったけど、怖くて・・・ 」

「 ねえ、もう、気を送るのはやめて。 ・・動けないよ、私 」

 友美は、握った拳を目を瞑りながら、確認するように、少しずつ開いていった。

「 ふうっ・・! 」

 硬直した体がやっと開放され、一息ついた彼女は、メガネを掛け直しながら言った。

「 息が、出来なかったわよ? 自律神経ごと固めるなんて・・ 私には、とても真似出来ないわ。 しかも、そんな力を、まだ使いこなし切れていないなんて・・・ あなたの近くにいると、命がいくつあっても足りないわね 」

 どうやら、昨晩の少年とは違う。 その言葉には、友好的な雰囲気が感じられた。 この不思議な力についても熟知しており、また、それを使いこなしている人物でもあるらしい。

「 私には、まだ分からない事が沢山あります。 あなたは・・ 攻撃的じゃないように思えるんだけど・・・ 」

 警戒を、完全に解いた訳ではない。 何かあったらと、心の中で身構えながら、友美は聞いた。

「 ・・やめて! 私、つ・・ 潰れちゃうよっ・・! 」

 目には見えない、物凄い力で校門の壁に押し付けられながら、彼女はうめいた。 いつの間にか、相手を圧迫しようという気が先行し、知らぬ間に友美は、彼女を拘束していたのだ。

「 え? あ・・・ ごめんなさい! 私・・! 」

 『 力 』を解放しようと、友美は目を瞑り、下を向く。 再び、体を開放され、彼女は少しむせながら言った。

「 気構えているあなたと話すのは、命懸けね・・・! 私の名前は、多岐 愛子。 あなたより1つ年下の、高2よ。 でも、堅苦しいのヤメにしない? 友美、って呼んでいい? 」

 愛子は、微笑みながら聞いた。 その笑顔にウソはないようである。 友美は、この愛子を信じる事にした。

「 うん、いいよ。 愛子・・ だっけ? 色々と、知ってるみたいね。 教えて 」

 友美は、学校近くにある河川敷の方へと、愛子を誘った。

 サイクリングコースが完備された河川敷の堤防道路を歩きながら、友美は、昨晩、公園で出会った少年の事を話した。

「 そいつは、社 雄司ってヤツよ。 また、友美のところに現われるわ。 あいつら、友美の力が欲しいのよ 」

「 あいつらって? 」

「 私たちと同じ力を持った連中よ。 何か、アブナイ事、考えてる 」

「 えっ? 連中って・・ 他にもまだ、沢山いるの? 」

「 全部で9人よ。 ・・あ、でも、ユキが死んだから8人か・・・ 覚醒がうまくいけば、ユキは最大の力を持ったはずなんだけど、私たちが気付くのが遅かったのよ。 助けに行こうとしたんだけど、暴走しちゃって・・・ 最後は、神経も切れていたはずよ。 とてもじゃないけど、取り付く事すら出来なかったわ 」

 友美は、血で胸を真っ赤に染めていた、あの時のユキの姿を思い出していた。

 洋子にナイフで刺されながらも、平然と立っていたユキ・・・ おそらく、あの時、すでにユキは死んでいたのだ。 精神だけで体を動かしていたのだ。 ユキを、そこまでさせる恨みとは、一体何だったのだろう・・・? 友美は改めて、ユキの恐ろしさを噛みしめていた。

「 私や愛子が、どうしてこんな力を持つようになったの? 今まで、何ともなかったのよ、私 」

 友美は、最大の謎を愛子に問いかけた。

「 友美のお父さんだった笠井社長と、榊原病院の院長との間の事は、知ってるわね? すべては、榊原院長が行なった人体実験にあるわ。 笠井製薬が製造した新薬・・・ 抗がん剤として開発されたものだったらしいけど、遺伝子構造の変化に影響する、極めて危険な薬品だったのよ。 それが、食品に添加されている様々な化学物質と反応して、脳細胞に影響を与える・・・ 解かっているのはそこまでね。 つまり、体に蓄積される添加物が、ある一定量にまでになると、この力は覚醒すると考えられるの。 ・・まるで時限爆弾ね 」

「 ・・・・・ 」

 友美は、じっと愛子の説明を聞いている。

 愛子は続けた。

「 副作用がひどくて、流通に乗せる事が出来なかったこの薬は、やがて投薬を中止、開発プロジェクトは閉鎖されたわ。 ついに命名されること無く、製造中止となったこの新薬は、当時の製造ライン番号で『 4429F 』って、呼ばれていたらしいの 」

「 ・・4429F・・・ 」

「 極秘だったみたいね。 データ上にも、この番号しか記載されていないわ 」

「 ・・・そんな恐ろしい人体実験が行なわれていたなんて・・・」

 ため息をつきながら、友美は言った。

 愛子は、更に続けた。

「 秘密裏に薬品を投与され、人体実験された人たちは、副作用で、2年以内に全て死んでるの。 その死亡者の中には、妊娠してた人もいた。 その人たちが、亡くなる前に出産した子供が、私たちなのよ 」

 つまり、自分たちは造られた人種なのだ。 人の私欲と身勝手な行動から造り出された、欲望の産物なのだ。 その結果、友美は普通の高校生活すら剥奪され、バケモノ呼ばわりされかねない、数奇な運命に翻弄されている。

 友美は心の中に、ぶつけようの無い憤りが、沸々と沸いて来るのを感じた。

「 ちょっと、ショックだった? 」

 愛子は、友美の心境を汲み取り、聞いた。

「 ・・・ううん。 続けて 」

「 病院の記録リストで確認したところ、産まれた子供は11人。 うち2人は、幼児期に覚醒してるの。 1人は、育児ノイローゼになった父親と無理心中。 もう1人は暴走して、神経を切っちゃって死んだわ。 この事を調べたのは、大館 隆志という、私たちと同じ、4429Fによって覚醒した人よ。 少し、透視能力があるだけの人なんだけど、すごく頭が良い人なのよ。 私たちのリーダーなの。 でも、さっき言った、社ってヤツと組んで、何か企んでるのよ 」

「 企んでるって・・・ 何を? 」

「 詳しい事は、わかんない。 政治家と組んで、どうこうって・・・ 他の子たちも、一緒にやらないかって誘われたらしいけど、断ったみたい。 だから私たちも、あまり最近は、あいつらとは会ってないわ 」

 ジョギング中の老人が前から走って来て、友美たち2人の横を通り過ぎて行く。

「 ねえ、愛子・・・ 個人的な質問、していい? 」

 友美は気になる疑問を、ある意味、期待しながら聞いた。

「 なあに? 」

「 ・・私・・ お母さんの事が知りたい・・ 」

「 友美の? 」

「 うん・・・ 」

「 そっか・・・ ん・・ そうよね 」

 愛子は歩きながら、足元に視線を落とす。

 しばらくして顔を上げると、前を見ながら友美の問いに答えた。

「 私も、お母さんの事は、遺影でしか見た事ないな。 私には、まだお父さんがいるからいいけど、友美は、1人だもんね・・・ でも、さすがに入院していた患者の明細なデータまでは、調査出来なかったみたい。 大舘さんが、そう言ってたわ。 他の仲間たちの中でも、母親の顔を知らない子、たくさんいるよ? 」

「 ・・そう 」

 寂しそうに、友美は言った。

「 ごめんね。 力になれなくて 」

 申しわけなさそうに、愛子が言う。

「 ううん、いいの・・ 」

 気持ちを振り払うかのように、友美は顔を上げると続けて言った。

「 ・・そっか、私は・・ 最後に覚醒したのね 」

「 そう。 力を使うと、波動が出るのよ。 あまり遠くまでは届かないけど、友美のは、大きかったなあ。 だから判ったのよ。 あ、覚醒した! って。 だって、私の自宅、本町の公園から5キロは離れてるのよ? びっくりしちゃった。 でも、良かったわ。 まともそうな新しい仲間で。 あの社ってヤツは、普通じゃないよ。 友美も気を付けてね? 」

 どうやらこの一件は、奥が深そうである。 少しずつではあるが、自分の過去と現在の状況も、段々と解明されようとしていた。

 『 あいつら 』と、愛子が言う雰囲気から推察して、この力を使う仲間たちの間では、構想の違いから、どうやら対立的な状況があるようだ。 おそらく、昨晩の社という少年と、この愛子は、お互いに不仲な立場なのだろう。 確かに、昨晩の社の態度は高慢で乱暴だった。 しかし、まだ中学生だ。 お互いに話し合えば、協調性も見出せるかもしれない。

 友美は、まずは、友好的な愛子との交流から情報を求める事にした。 いずれは、大館という人物にも会わねばならない事だろう・・・

 散策路に設置された木製のベンチに、2人は腰を降ろした。 河川敷に広がる芝生の上では、若い主婦が、幼児を遊ばせている。

「 愛子は、どういう風に力と共存してるの? 」

 無邪気に遊ぶ幼児の姿を眺めながら、友美が聞いた。

「 べつに? 普通よ。 力を使わなければ、私だって普通の高校生よ? テレビだって見るし、宿題だってやんなくちゃ。 ヘンに力を意識するから、ダメなのよ。 でもね、力を使うと、それだけ神経や脳細胞を酷使する事になるの。 大館さんの話だと、1回、最大限で力を使うと、寿命が半年縮まるんだって。 私なんか、もうオバさんよ 」

 友美は、今日の体調不良の原因が判ったような気がした。

「 私・・・ 覚醒した時、以前に顔見知りだった仲間を・・・ 」

 友美は、うつむきながらポツリと言った。

「 知ってる・・ だけど、事故だと思って。 警察も説明つけれないわよ。 悪いのは、友美じゃないわ 」

 もう、顔も見たくもない不良連中だとしても、かつては仲間だった人間を、いとも簡単に殺してしまった友美・・・ 殺意は無かったとしても、殺人者には違いない。 複雑な心境の友美であった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ