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4429F  作者: 撫川 俊
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4、脅威なる 『 力 』

4、脅威なる『 力 』



 道を挟んだ数百メートル向こうに、赤い回転灯がいくつも光っている。 繁華街だけに、集まりだした野次馬の数は多く、かなりの騒ぎである。 それを避けるように菊池と友美の2人は、ターミナル駅の方へと急いだ。

「 公園を抜けて行こう。 その方が人通りが少ない 」

 菊地は、自分の腕にしがみつくように歩いている友美に言った。

 小さな噴水のある、その公園は、静かだった。 散策路が整備してあり、所々に彫刻が置いてある。 都会風に洗練されたデザインの外灯が、それらを照らし出し、噴水の水に反射した光が、水面でキラキラと光っていた。

 散策路を歩いていた2人の前方に、人影が現れる。

「 ? 」

 菊地は、それが中学生らしき男の子であると分かり、疑問に思った。

( こんな時間に・・ 何で中学生が、こんな所にいるんだ? )

 黒の学生ズボンにスニーカーを履き、白いワイシャツを着ている。 両手をズボンのポケットに入れ、 まるで、2人の行く手を阻むかのように少年は立っていた。

「 なんだ。 まだ覚醒したばかりじゃん。 使いモンになんねえなあ 」

 2人が近付くと、小馬鹿にしたような口ぶりで、少年は言った。

「 え? なに? カク・・ 何だって・・・? 僕らに、何か用かい? 」

 菊地が少年に尋ねると、少年が答えた。

「 おじさんに、用はないよ。 そっちの女の人に話があるんだ 」

 菊地は、友美を見て言った。

「 知り合い? この子・・・ 」

 友美は、菊地の腕にしがみついたまま、首を横に振った。

「 人違いじゃないの? 君。 ごめんね、急いでるもんで 」

 菊地たちは、その少年の横を通り過ぎようとした。

「 話があるって言ってんだろ? 笠井 友美 」

 いきなり少年は、友美を名指した。 友美は、びっくりして少年を見る。

「 ・・・あなた、誰? 何で私を知ってるの? 」

「 まあ、ちょっと顔、貸してくんない? さっきの件の事も、知りたいだろ? 」

「 え? 」

 友美は困惑した。 さっきの件とは、どういう意味なのか・・・? 菊地も同じく、捨て置けない発言と感じ、少年に尋ねた。

「 君は一体・・・ 誰だ? さっきの件って、どうして・・ いや、どういう意味だ? 」

 次の瞬間、いきなり菊地は、後ろへと跳ね飛ばされた。 何かにぶつけられた訳ではない。 大きな風圧のようなもので、しかも、音も無く、あっという間にだ。

「 菊地さん! 」

 友美は、2・3メートル後方に飛ばされた菊地の方へ駆け寄った。

「 大丈夫? 一体・・ どうしたの? 」

 あっけにとられ、ぽかんと口を開けたまま仰向けに倒れていた菊地は、友美に呼びかけられて我に返った。 少し上半身を起こすと、友美に言った。

「 わかんないよ・・! 何が起こったんだ? いきなり体が、後ろへ持っていかれたよ 」

 少年は、倒れている菊地の横に立ち、勝ち誇ったように見下げながら言った。

「 あんた、邪魔。 オレたちの事に、首突っ込まない方がいいよ。 知らない方が身の為だし。 なんなら、ひねり潰してやろうか? 」

 ビクン、と菊地の体が、勝手に反応して硬直した。 やがて海老のように、のけ反り始める。

「 うおっ・・! な、何・・ だ・・・? 」

 必死に抵抗する菊地ではあるが、その力を遥かに凌駕する得体の知れない力が、菊地の体を席巻していた。

「 あははっ、どう? おじさん。 2つ折りにしちゃおっと! 」

 少年がそう言うと、菊地の体は更に反り返り、後頭部と背中が、くっつきそうになっていく。 菊地は声も出せず、激しく震えだした。

「 おじさん、体軟らかいね。 そうか、大学では体操やってたんだ。 ふ~ん・・・ 」

 少年は、ニヤニヤしながら言った。 この仕業は、明らかにこの少年の意図によるものらしい。

 友美は叫んだ。

「 やめてっ、この人にヘンな事しないでっ! 」

「 まあ、見てなって。 ほらほら、もうすぐ背骨がポキンって・・・! 」


 < やめなさいッ! >


 空中に放電のような光が走り、少年は少し、よろめいた。

 菊地の体を覆っていた呪縛のような力が急激に解け、菊地は元の体勢に戻ると、咳き込み始めた。

「 ごほっ、ごほっ・・! 」

「 大丈夫っ? 菊地さん! 」

 友美は、菊地の肩に手を掛けると、背中をさすり始めた。

 少年は、口笛を吹くと友美に言った。

「 へえ~。 衝撃波、出せるじゃん。 でも、まだ集中が足りないな 」

 友美は、キッ、と少年を睨んだ。 少年の前髪が、少しなびく。 周りに落ちていた枯れ葉が、カサカサ、と動き出した。

 少年は、手の平をかざすような仕草をしながら言った。

「 おっと・・! 分かった、分かったよ。 今日は挨拶だけにしとく。 壊れて歯止めが効かなくなったら、ユキの二の舞だ。 まあ、アイツみたいに、急速な覚醒はなさそうだしな。 また会おうぜ 」

 そう言うと、少年は、公園の出入り口から繁華街の方へと消えて行った。

「 菊地さん・・! 」

 友美は、菊地の様子を窺った。 やっと呼吸が整い、落ち着いてきた菊池は、友美に言った。

「 参ったよ・・! 信じられない。 物凄い力で・・・! あいつがやったのか・・・? あんな小さな子供が・・ まさにバケモンだ・・・! あんなヤツがいるなんて・・・! こりゃ、誰も信じない訳だ。 身を持って体験したよ 」

 菊地は、今もって信じられない様子である。

「 私・・ 私も、さっき・・・ あんな様な、不思議な力を使ったの・・・! 菊地さん、私も・・ 私も、バケモノなの・・・? 」

 菊地を見つめる友美の目が、潤んでいる。 その問いには答えず、菊地は立ち上がった。 足に力が入らず、少し、よろめく。 友美が、肩を支えた。

 菊池は言った。

「 あいつは、ユキの事も知っているみたいだ。 名指しで言ってたからな・・・! 小沢ユキも・・ さっきのヤツのような、『 力 』を使っていたんだろう。 だけど君の話では、ユキは、さっきのヤツのように、余裕ある態度やセリフは一切、無かったようだね? 」

「 ええ。 まるで、何かに操られているようだったわ。 それが、かえって不気味だった 」

「 ・・多分、ユキは、大き過ぎた『 力 』に、自我を翻弄されていたんじゃないのかな。 きっと心の中では、助けを求めていたと思う。 段々、バケモンになっていく自分を制御出来なくて・・・ だから、最後に自殺した・・・! ユキは、自分で自らの力を封印したんだ 」

 ゆっくり歩き始めながら、菊地は自分の推測を確認するように、友美に言った。

 友美が尋ねる。

「 私は、いずれ力を使うようになる・・・ ユキは、それを予知して私を見逃したの? ・・どうして? 封印しなきゃならないモノなら、今のうちに殺しておいた方が、早いんじゃないの? 」

「 ユキには、その、もっと向こうの未来が、予知出来ていたのかもしれない・・・! 」

「 もっと先の未来って・・・? 」

「 それは、分からない。 ただ、君は今、正常でいる。 力を制御している。 力の暴走を、コントロール出来ているんだ。 バケモンじゃないよ。 友美ちゃんだよ 」

 菊地は、優しく友美の頭を撫でた。

「 とにかく、なぜ君が、さっきのヤツやユキのように、あの力を出せるようになったのかは、謎のままだ。 ・・一度、笠原病院に行ってみるかい? 何か、判るかも知れない 」

 しばらく考えていた友美であったが、やがて小さく頷いた。


 翌日、友美は体の不調を感じていた。 体中がだるく、食欲も無い。 保健室で診てもらったところ、ストレス性の、軽い胃炎の症状が出ていると診断された。 その日、ほとんど一日を、友美は保健室で過ごした。


 下校時間。

 友美は教室に戻り、通学カバンを持つと、帰り仕度を始めた。

「 友美、大丈夫? 顔色、よくないよ 」

 級友が声をかける。

「 ありがと。 もう、ずいぶんいいよ。 今日は、ほとんど授業、受けてないなあ 」

「 ノート、見せてあげる。 ここ、試験に出るって 」

「 ホント? じゃ、明日、見せてね。 今日は、もう帰るわ。 ごめんね 」

 クラスメートとの、ちょっとした会話・・・ こんな、何気ない会話さえ、今までの友美には無かった。 廊下ですれ違った他の級友も、友美の体の具合を聞いてきた。

( この生活を失いたくない。 ヘンな力さえ使わなければ、私は、どこにでもいる普通の高校生。 誰にも、今の生活を壊させはしないわ )

 級友たちの友情を噛みしめながら、友美は校舎を出た。


 レンガ造りの校門が見える。 友美は、その少し前まで来て、立ち止まった。

( 誰か、いる・・・! )

 嫌な予感がした。 目には見えないが、校門の向こう側に、誰かがいる。 しかも、自分に用があるらしい。 友美の脳裏にはハッキリと、まだ見えぬ、その人物の意志が伝わって来た。 どうやら昨晩の、あの少年と同じような人物らしい。 『 力 』を駆使する人物だ・・・!

 友美は、ゆっくりと校門に向かって歩き始めると、精神を集中し始めた。 いざとなったら、あの力を使って対処しなくてはならない。 どうコントロールすればいいのか? うまく扱えるのか・・・?

 不安ではあるが、やるしかない。

 友美は、全神経を校門の向こうに集中させた。


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