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4429F  作者: 撫川 俊
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2、運命の序章

2、運命の序章



 菊池の意外な言葉に、友美は恐怖を忘れた。

「 生き・・ 残った・・・? 」

「 君の話から推察すると、小沢 ユキは、君たちのグループと笠井氏、榊原氏に恨みを抱いていたと思える。 だから目の前に現われた関係者を、片っ端から抹殺したんだ。 どんな手段を使ってかは想像がつかないが、もしかしたら共謀者がいたかもしれない。」

「 ・・・私は・・・ 」

「 君は、グループの中では、幹部にあたる存在だったんじゃないのかい? リーダーは、事件で亡くなった君の義理の姉、洋子さん。 君は、その片腕的な存在だった。 違うかい? 」

「 ・・・・・ 」

 友美は、あの日の記憶を思い出しながら答えた。

「 ・・・目の前で・・・ 目の前で、純一さんと洋子が、ユキに・・・ ユキの、目に見えない力によって殺された後・・・ ユキは、私に近付いて来たわ・・! 次は私が殺される番なのよ。 そんな目をしてた。 私は、『 助けて 』って言ったの。 それでもユキは、段々、近付いて来たわ・・・!  洋子にナイフで刺され、制服の白いブラウスが・・ 胸のところが、血で真っ赤に染まってた。 それでもユキは平然として・・ 私の目の前まで、ゆっくり歩いて来て、氷のような冷たい表情で、じっと私を睨んだわ。 怖かった・・! ものすごく怖くて、必死にユキに頼んだの。 『 助けて、助けて 』って・・・! そしたら・・・ 消えちゃったの! 」

「 ユキが、かい? 」

「 そう。 幻覚なんかじゃないわ。 ホントに消えたのよ! 私の前から・・・! 」

 菊地は、大きくため息をつきながら、再び腕組みをして言った。

「 ユキが飛び降りた給水塔は、惨劇のあったマンション屋上の北側にある。 足場も無い4メートルもの高さの塔に、どうやって登ったのかも疑問だが、問題は、その給水塔の位置だ。 警察が現場に駆けつけた時、君は、屋上出入り口脇で、放心状態で発見されているが、君は、その場を動いてはいないね? 」

 友美は、無言で頷いた。

「 だとすればユキは、君がいたその場から、給水塔の上へ移動した事になる。 ・・それは無理だ。 給水塔へは、屋上出入り口からではなく、1階下の、作業用階段を使って行かなくてはならない。 当然、作業用階段への入り口は施錠してあったんだ 」

「 あの子は、バケモノなのよっ! 鍵なんて、要らないわ。 どこへだって、瞬時に移動出来るのよっ・・! 」

「 ・・・やはり、そういう説明になるか・・・ 」

 沈黙が、しばらく2人の間に続いた。

「 確かに、私は・・・ 殺されていても不思議じゃないわ・・・」

 友美が言った。

「 ・・・だろ? 僕は、そこが引っ掛かるんだ。 もしかしたら、ユキには、友美ちゃんを見逃す要因があったのかもしれない 」

「 見逃す要因・・・? 」

「 失礼かとは思うけど、君が引き取られていた施設を調べさせてもらった。 知り合いに、探偵がいるんでね。 ・・君は、身寄りの無い孤児という事になっているらしいが、生まれて間もない君を、あの施設に預けていった人物の存在が判明した 」

「 えっ! 本当ですか? 」

「 ああ。 手が掛からなくなる小学校の入学頃になったら、迎えに来る約束でね 」

「 ・・・小学校入学・・・? え? それは、もしかして・・・ 」

「 死んだ君の養父、笠井製薬社長 笠井氏だ 」

 友美は目を点にして、菊地に言った。

「 そんな・・・! お養父さんは、身寄りの無い私を引き取ってくれたと聞いてます。 そんなはずは・・・! 」

「 おかしな話だが、これは事実だ。 託児委任契約書も残っていた 」

 菊地はそう言うと、1枚のコピーを取り出し、友美の前に差し出した。 友美は、震える手でそれを手に取ると、書類に目を通した。 間違いなく、筆跡は養父のものだった。 託児期間は、本人が6才の誕生日を迎える日まで、とある。 委託人には、養父の名前があり、間柄は父と記されていた。

 ・・・友美は訳が分からなくなった。 なぜ、父は自分を施設に預けたのか。 なぜ、引き取った後までも、孤児としていたのか・・・?

 間を見計らって、菊地が言った。

「 こんな事、僕が君に言っていいのか判断に迷うが、笠井氏の愛人の子だった・・ とも、考えられるね。 だが、この契約書でハッキリしたと思うが、君は間違いなく孤児じゃない。 笠井氏の娘なんだ 」

 友美は、ゆっくりとコピーを畳の上に置くと、放心したように宙を見つめた。

 親の存在を初めて知ったが、既に、その親は死んでいる。 元々、愛情の無い家庭生活だっただけに、親が死んだという悲しみは、友美の心には湧いてこない。 ただ、想いもよらない事実の判明に、友美は動揺した。

「 ちょっと、ショックだったかな・・・? 」

 菊地が、心配そうに聞いた。

「 いえ・・・ 笠井の家は、ほとんど家族としての対話が無かったですから。 ただ、意外な事実に驚いています・・・ 」

「 実は、もう1つ、判明した事がある。 その契約書に、出生地の欄があるだろう? 病院名が記されている。 笠原総合病院とあるが、この病院は、笠井氏と榊原氏が、共同出資して設立されたものだ。 場所は、長野県にある笠井製薬長野工場の敷地内。 現在は廃院して、封鎖されている 」

「 小学校低学年の時に、一度、連れて行ってもらった覚えがあります。 確か、高山で、病院の医薬会か何かあった時のついでに寄った記憶が・・・ 」

「 ユキの実家も、高山だ・・・! 」

「 え・・・? 」

「 出生も調べてみた。 生まれた病院は、何と、笠原総合病院だ・・・! 」

「 ・・・それは・・・ え? ・・・どういう・・・ 」

「 君も、ユキも、同じ病院で、同じような年代に生まれているんだ。 これは、単なる偶然なのかもしれない。 でも、何か気になる事実だ 」

「 私が・・・ あのユキと同じ生まれ・・・! 」

 友美にとって、恐怖の対象となっていた、小沢 ユキ・・・

 そのユキが、友美と、まったく同じ病院で産まれていたという事実は、友美にとって、ある意味、大きなショックであった。

 再び、2人の間には、しばらく沈黙が続いた。

 じっと、書類のコピーを見つめていた友美が顔を上げ、菊地に何かを言おうとした瞬間、突然、誰かが、激しくドアを叩いた。

「 ちょっと、アンタ! いつまで居る気だいっ? いい加減にしなよっ! 」

 何と、トヨおばさんのようである。

「 参ったな・・ あのオバさん。 仕方ないか・・・ 友美ちゃん、今日はこのくらいにしておいた方が良さそうだ。 名刺、渡しておくから、時間がある時に連絡くれるかな 」

 菊地はそう言うと、友美に名刺を渡し、ドアに向かって言った。

「 オバさ~ん、今、出ます。 頼むからホウキはやめてくれよ! 」

「 まったく、何時まで居座ってるつもりなんだい? 最近の若いモンは、遠慮ってモンを知らないねえ 」

 菊地が、ドアを開けると、先程の折れたホウキの柄を、槍のようにして構えているトヨおばさんがいた。

「 わあっ、タンマ、タンマ! 何もしてないよ。 今、帰ります! 」

 トヨおばさんは、友美の部屋の中をじろりと見渡し、友美に言った。

「 何もされなかっただろうね? 」

 友美は、玄関先まで出て来ると言った。

「 大丈夫よ、トヨおばさん。 この人は心配ないから 」

「 最初はみんなそうなのさ。 あとで本性表すからタチ悪いんだ 」

「 参ったなあ。 信用してよ、おばさん 」

「 おまえは早く帰えんなっ! 馴れ馴れしく話しかけんじゃないよっ! 」

 菊地は、アパートの階段を、すっ飛んで降りて行った。


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