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理想と現実

作者: 吉凶

世界から人間が消え去った原因は、第三次世界大戦でなく、人口増加による飢餓でもなく、環境破壊による天変地異でもなく、極々ありふれたウィルスによるものだった。

人工的に進化させられたウィルスは、さながら製作者の狂気そのもののように全世界に広がり、一人を除いた全人類を呑み込んだ。

世界が変わり行く様を見て、そのただ一人―――――――ウィルスの生みの親は笑った。

なんと素晴らしい世界だ、と。

誰にも理解されなかった科学者の、哀れな望み。

 孤独に生きた男の、狂った願い。

 彼の願望のままに、世界は変容していった。

 全世界にウィルスが広がりきり、変わりきった世界に彼は飛び出した。研究所に篭り続けた足には堪えたが、高鳴る鼓動が後を押した。

 街の外観は変わりなく、街の中には変わり果てた人々の姿のみ。

 男は更に笑い踊る。

 研究の成功などどうでもよかった、ただこの理想郷にいることができる、それだけが彼の喜びだった。

 

 


・・・・・・そして、程無くして男の喜びは絶望へ変わった。

 実現した時点で、どんな理想も現実と成る。理想にのみ縋ってきた彼には、現実の厳しさはおよそ耐え難いものだったのだろう。絶望に突き動かされた彼は、そのまま自ら命を絶った。残された遺書には一言こうあった。

こんなものが理想であるものか。

 世界から人間が消え去った原因はウィルスによるもの。彼の死も結果的には、ウィルスによってもたらされたのだ。



 ・・・・・・以上が、後世に伝えられる『人間から獣人への進化』の顛末である。

 ウィルスによって世界から人間が消え去った。そのウィルスの症状は――――――体機能の変質。耳や手足といった人体の一部が、動物のそれに変化するのである。それに併せて得た優れた運動能力は、彼ら自身を『人間』より優れた『獣人』として定義させた。

 その事実を知ることなく男は死んだ。いや、彼にとってはその事実もどうでもいいことだったのだろう。男はただ、ネコミミやイヌミミ、総称ケモノミミをつけた女性が見たかっただけなのだから。その点で、彼の作ったウィルスは完璧だった。・・・・・・否。完璧すぎた。彼のウィルスはどんな人間にも分け隔てなくケモノミミを与えた。脂ぎった中年親父にも、干物のような老人にも。

 


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― 新着の感想 ―
[一言] 確かに、全部進化したら旧種は絶滅扱いだろうけどさぁ……
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