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短篇集

翻された反旗

作者:

前にツイッターで構想だけ書いたお話を具現化してみました。チャラ男と少々不遜な女の子のお話です。

まさかこんなに破壊力のすさまじい作品になるとは…orz

「……」

「おや、奇遇だね」

 日曜日の昼下がり、出掛け先から戻りアパートに入ろうとしたところで、私はある人物と鉢合わせた。

「何でここにいるの」

 不快感を隠しもせず低い声で尋ねると、目の前の彼はいつもの親しげな――悪く言うと軽い、もっと端的に言うとチャラい――笑みを浮かべ、

「もちろん君に会いに来たのさ」

 などと歯の浮くようなセリフをさらっと言ってみせた。

 ……全く、だから嫌いなんだ。この女たらしめ。

 ちょっと顔がよくて口がうまいからって、調子に乗るのもいい加減にして欲しい。この世の女がみんなお前になびくと思ったら大間違いだ。

 心の中に泉の如く沸き立つ罵倒を全て吐き出すかのように、私は思い切りフンッと鼻で笑った。

「馬っっっっっ鹿みたい」

 憎々しげに吐き出すと、彼は苦笑いした。

「ひどいなぁ……馬鹿って、しかもそんなに感情込めて言うなんて」

「あんたみたいなちゃらんぽらんの称号なんて、馬鹿で十分よ」

「あはは、手厳しいな」

 困ったように笑いながら彼は頭を掻く。さすがは『王子様』なんて言われているだけあって、その姿も一枚の絵のように綺麗だ。

 ……あぁ、腹立たしい。こんなことを考えてしまう己が腹立たしい。

 内心イライラしていると、彼がハハッと笑い飛ばすような声を上げた。

「……まぁ、会いにきたってのはさすがに冗談で。本当にたまたまだよ。君、ここに住んでるわけ?」

「えぇ、まぁ……そうよ」

 別に今さら隠すこともないので、これくらいの質問には答えてやる。

 すると彼はまるで夢見るような瞳で――女に軽口を叩く時の瞳で、囁いた。

「ここで会えたのも何かの運命だね」

 ……一度この男を、原型がなくなるまでタコ殴りにしてやりたい、と半ば本気で思う。

 だから私は仕返しとばかりに、満面の笑みを顔に張り付け言ってやった。

「じゃあ記念に、私の部屋へ上がる?」

 彼は目を見開いたようだった。……ふん、ざまぁみろ。まさか私がこんな発言をするとは夢にも思わなかったろう。

 少しの優越感を覚えながら彼を見ていると、彼はすぐさま口元をクイッと吊り上げた。

「……おや、いいのかい? 女の子が独り暮らしの部屋に男を容易く入れても」

「構わないわ」

 恐れを知らない者の気分で答えると、彼はドラマCDに収録されている声優さんの声にも負けないほどの低く良い声で、誘惑するかのようにこう続けた。

「……君のこと、襲っちゃうかもよ?」

「大丈夫、そんなこと絶対あり得ないわ」

 きっぱりと答える。それほど私には、自信があった。

「ほぉ……ずいぶん強気だね」

 彼が愉快そうに目を細める。彼の普段は見せないその表情を、今ここで引き出しているのは自分なのだと思うと、何故だかすごく気分がいい。

 私は腕を組み、仁王立ちの姿勢で強気に彼の顔を見た。

「だってあなた、普段は行く手数多の女の子に思わせ振りなこと言うけど…実際行動に移す度胸なんてないでしょう?」

 あなたってどうやら、迫られるのは苦手みたいだし。

 図星を突かれたからなのか、それとも単に予想外のセリフだったからなのか……彼はほんの少したじろいだ。それでもその表情から、余裕はまだ消えない。

「何でそう言い切れるの?」

「見たのよ。この間女の子に腕絡まれて、露骨に避けていたじゃない」

 つい三日ほど前の目撃談を本人にバラしてやる。するといつも余裕しゃくしゃくな表情が、とたんに気まずそうに歪んだ。

「……あれは、ちょっとびっくりしただけさ」

「ふん。案外手慣れていないのね」

 自分からは女の子に軽口を叩きまくるくせに、女の子からグイグイ来られて避けるだなんて……。

「ヘタレだわ」

 せせら笑うようにそう言い切ると、彼はいきなり真顔になった。

「ふぅん。じゃあ……」

 そう呟き、ゆっくりと彼がこちらに近づいてきた。後退りするうちに身体がよろけ、壁に背中をぶつける。と同時に、バン、と背後で音がした。すぐ横には細くしなやかながらもたくましい彼の腕、目の前には愉快そうに笑う端正な顔。

 本能的に、これはやばい、と思った。頭の中で警報が鳴り響く。

 なのに……身体は動かない。動いてくれない。私は彼の獣の如き瞳に、完全に捕らえられていた。

「男をあんまり、侮るものじゃないよ?」

 嫌味に口元を吊り上げながら、彼が囁く。顎に軽く手を添えられ、身体が強張った。

「今からゆっくりと、教えてあげようか」

 男を――俺を馬鹿にしたら、どうなっちゃうか。

 そのまま、端正な顔がゆっくりとこちらに近づいてくる。

 心臓が鼓動を速めていく。このまま血流がよくなりすぎて、どうにかなってしまうのではないか。

 ほとんど機能しない頭でそんな馬鹿みたいなことを考えながら、私は固く目を閉じた。

 そしてすぐに、来たるべき何かはやって――……来ることはなく。代わりにぷっ、と吹き出す声が頭上から降ってきた。

 恐る恐る目を開けると、片手で口を抑えておかしそうに笑う彼の姿が目に映る。

 瞬間、私は自分の実態に気付き、思わずカッとしてしまった。

 ――やられた!!

 人一人射殺すことも可能かと思えるほどの憎しみを込めた視線を目の前の男に送ると、彼は笑いながら私の頭を撫でてきた。

「そんな怒らないで」

 もともとは、君が悪いんだよ?

 悪びれもせず、彼はいつもの表情でサラッとそう言ってのけた。

「あんたがいきなり変なことしようとするからでしょう」

「君が煽るからだよ」

「挑発に乗る方が悪いんだわ」

「……全く、口が減らないねぇ」

 呆れたように嘆息すると、彼は再び私の顎に手をかけた。身構える間もなく、素早い動きで唇が奪われる。

 チュッ、という音が耳に届いた時には、もう彼の顔は離れていた。

「――……っ!!」

 とたんに顔から火炎放射が出そうなほどの熱を感じ、口を両手で抑えながら涙目で彼を睨む。

 彼は憎たらしいほどに飄々と笑っていた。

「……気に入ったよ。とりあえず、宣戦布告だけしておこうか」

「……?」

 一体こいつは何を言っているんだろう。

 頭にハテナマークをいくつも浮かべていると、彼の顔が今度は耳元に近づいてきた。息を吹き掛けられ、ぶるりと身体が震える。

 思わず身体を縮こまらせる私の耳元に、彼は耳をくすぐる低い声で囁いた。

「俺、絶対あんたのこと……落としてみせるから」

 覚悟、しておけよ?

 顔を離し、そう言ってニヤリと笑う彼が、もはや私にとっては悪魔か何かにしか見えなかった。

…何だろう。穴があったら入りたいって、このことかなぁと思っております。

だってさ、初めてキスシーン書いたんですよ。超ソフトですけど。

いやね、そりゃ私もこの年でそれなりに経験もしてまいりましたから、キスしたことがないとは言いませんよ。でもさ…やっぱ恥ずかしいものってあるじゃないですか。


いや…もう、ね。

小説書きたるもの、もう少し表現力と堂々とした精神を養うべきかなぁ…なんて思います。

そして願わくは、いつかムーンの方にも活動範囲を広げたい!と思っている次第です。


…とりあえず今は、ほとぼりが冷めるまでどっかの穴にでも入ってきます。←

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