第10夜 ―Fall―
お久しぶりな更新です。どうもRevです(・ω・)/
もう今までなまりになまりきった…
これからは集中出来る筈だ!(オイ
崩れ落ちる骸
手を掲げる
それを掲げただけではらりと惑った
こんなにもソレは儚かったのか
それもまた現に響く
それもまた
堕ちていく――
「まあぁぁさとおぉくうぅうぅぅん!!」
目の前に広がる白いもの、多分制服。
それが分かったのはほんの数秒後の事だった。
最初は何が飛んできたのかと思った。
だけど顔にブワっとそれが覆い被さる事によって初めて理解出来た。
「えぇい!例によって何者だ、痛い!苦しい!うるさい!暑い!・・・えぇい!離れろ・・・やぁ!!」
とりあえずひっぺがす。そしてぶん投げる。
予想通りピョーンと言う普通は有り得ない音と一緒に綺麗に飛んでいった。
ついでに聞きたくは無い音も共に・・・
「ったくこんな寒い日に熱量を増加させるような奴はいった――」
「痛ぇ・・・」
「・・・はい?なんか聞き覚えのあるような、百獣の王のようにドスの利いた・・・」
確かに聞こえた。それは確かに聞こえたんだ・・・暗闇の中に光る猛獣の目ににじみよる化け物の気配・・・そう、奴は我々全てを食い尽くさんとしているのだ・・・!![昔孝太郎と見たB級モンスター映画のセリフより]
「ま〜さかそんな、なぁ?日本なんかにジャングルの猛獣なんかいるわけもねぇしよ・・・」
キュピーン!
などと言う効果音が適切なのだろうか、そんなありもしない効果音が音と目の前に見える恐怖として襲いかかってきた。
「まっ、マジかよ・・・笑えねぇ」
果たして動物園にいるような猛獣が日本の国土で野放しにされている、そんな状況がありえるのか・・・だが今はそんな事など言っていられなかった。
(やるべき事・・・先手をつくしかねぇ!)
息を潜め、時には備える。
こんな事態を想定しての対策などがあるわけは無い、だが・・・やるしかないのだ。
しかし幸いどんな事態でもやる事はただ1つ。
先手をつき、そして一撃で相手を無力化する。
(いや、それが出来る相手だったらなぁ・・・多分猛獣だとか言われてないだろうしなぁ・・・)
1人で突っ込み1人で切なくなる、という事などをしてる暇は無い。
目の前にいるだろう猛獣は確実に一歩ずつ近づいて来ており殺気もどんどん増して放たれてきている。
(マズい・・・)
攻めるとしたら今しかない、逆に言えば好機である、そんな瞬間だった。
「くたばりやがれぇぇぇぇぇ!この化けも――」
「誰が化け物だ、コラ」
「すみませんんんん!!」
そういえば我が家はいつもこんな流れだ・・・
「ったくよぉ・・・帰ってきていきなり人の事を化け物扱いしやがって。こっちもついつい手が出ちまうとこだっただろぉ〜?」
とか言いながら姉貴の野郎はニヤニヤとしながらこっちを見て楽しんでやがる・・・
「いや・・・どう見ても手が出ちゃってるし、それもタコ殴りってぐらいやられちゃってますが?」
そう言う俺は顔面が腫れ上がりコフーコフーと息をするにも苦しいような状態だ。
「ん〜?」
相も変わらずニヤニヤしてる。なんて性悪で立派なお姉様なのであろうか・・・
「あれ?そういや杏樹の奴は?」
そうなのだ、さっきから杏樹の姿が見えない。どういう事なのだろうか、あんな事があり先に返した筈だが・・・
それを無言の圧力、いやいや失敬いやほんともう殴るのは止めて・・・
お姉様は無言で俺へと目掛け指を指してきた。
「ん・・・?俺がなんかした――ってうおぁっ!!?」
俺を指したのではない、俺の下にいる人物へと指を目掛けたのだ。
その先には勿論のごとく彼女がいる・・・
「もしかして俺ずっと踏んでた・・・?随分と感触のいい座布団だと思って正座してたんだけど」
うんうんと思いっきり縦に二回頷く。
容赦なく思いっきり、だ。
「すまねぇな・・・あれ?おーい杏樹ー?おーい・・・」
全く反応が無い。と言うことは・・・
「し、死んで・・・いや寝てるだけか」
素晴らしく爆睡だ。恐らくは――
「俺がさっき投げ飛ばした後寝てしまったと?それもこれほどの爆睡で」
またもや姉貴は首が取れてしまいそうなほど首が縦に振られた。
「ったく、すんげぇ寝ちまって。こっちは大変だったっての・・・」
「おい」
それは俺が気付く暇も無くやって来た。
はっとした時にはびりびりと頬に響く痛みだけが残る。
「・・・ってぇ」
そして休む暇も与えられず制服の襟を掴まれ姉貴の元へグイと引き寄せられた。
「コイツがなぁ・・・どんな思いでお前を待ってたか分かんねぇわけじゃねぇよな。走って走って疲れ果ててそれでアタシに抱きかかってきてよぉ・・・」
ハッと我に帰ったのが自分でもハッキリと分かった。
よく見れば分かる事だったのだ。それを自分だけが疲れ自分だけが苦労したのだと全てが見えなく・・・見る事を拒んでいる自分が居た。
馬鹿げた事だ――
よく見れば杏樹の体はボロボロであり所々に草木がくっ付き色素が制服にこびりついている。
きっと・・・姉貴の奴にこの事を伝える為に最短距離、それも人が走れるような道では無い場所を走ってきたのだろう。
誰でも分かる事だ・・・そしてそんな事にも気付かない俺がいる。
「雅人君を助けて、雅人君が危ないの、雅人君が大変、聞けばこうだ。雅人君雅人君ってよ・・・見りゃ分かんだろうがよ。それでもお前自分だけが大変だってか?どうなんだよ、あ?」
だから姉貴は珍しく何も言わずただ頷いてた。
ただ俺はそれでも気付かなかった。
「ゴメン・・・」
それしか言えない。
結局それしか出来ないのが今の自分なのだ。
「ちっ・・・」
完全に呆れ果てたような視線を向けられる。
仕方がない、それほどの事をしてしまったのだから。
「馬鹿やろうが・・・もうその手、離すんじゃねぇぞ」
言葉は無く、ただ頷いた。
それを見た姉貴は話題を変えるように促す。
「まぁアタシにはよ、そんな甘ったるい青春文庫みたいな話はどうだっていいんだよ。肝心なのは『ここから』だ、分かってんよな」
必然と顔を上げる。これから先は『俺達』の話だ。
そう――ここから先は、だ。
「んで、相手は誰よ。お前を、襲ってくるぐらいだ。覚えのあるやつなんだろ?」
姉貴の声色が強くなっていく。いつにもなく真剣であり事の重大さをその雰囲気が示している。
「俊慈、そうアイツは言ってた。前までリーヴァの店でホストをやって・・・」
そこで声を止めるしかなかった。
姉貴の目がそう選択をさせた。
「野郎・・・」
明らかな反応が違う。
――分かっている
俺にだってすぐに理解出来た。『アイツ』は・・・
「分かってんだろうよ。お前に『二度』も手ぇ出したって意味。それだけなら、だ・・・アイツは違うよな。アイツがお前にやった事、忘れちゃいけねぇんだ・・・」
――分かっているんだ
「分かってんだよ・・・忘れるわきゃねぇだろうが」
「お前・・・」
この顔はきっと杏樹には見せられないだろう。
きっと・・・俺の事を
恐れてしまうから――
『雅人』
ふいに思い出したく無かった声が目の前をよぎっていく。
俺は叫ぶ
やめろ、と
『雅人―』
思い出したくは無かった、あの出来事。
「――雅人!」
目の前にいつも通りのように拳が降りかかる。
こずくような軽い一撃。
うちのご覧の有り様な現状を見れば文字通り一発で理解出来るような展開。
何かあれば拳が飛んでくる、ただそんないつも通りのバカな展開なはずだった。
「・・・いてぇよ」
避けられなかった。
むしろその当然の行動を拒むように自らが避けようともしなかった。
自分でも驚いているのがよく分かる。
「・・・やっぱな。この腑抜け」
貶すような言葉。姉貴が俺に対して掛ける言葉で考えれば普通だったがやはり何かが違って聞こえる。
「やっぱてめぇはあの事から腑抜けだってやんだ。今までグズグズ引っ張っておまけに事に生じて牙まで抜かれたのかよ・・・この腑抜けが」
全くもって酷い言いようだ。いち弟の対して人権ってものを考えて言っているのだろうか・・・いや無理だろう。
「いいか・・・この件はな。お前なんかにゃ任せれねぇ。あたしが片付ける。だからなぁ、てめぇは大人しくそこに座ってやがれ」
言い終えるより先に勢いよく姉貴は立ち上がる。
そう―確かに今そう言った。
冗談じゃない。
この話は――これは俺が片付けなきゃいけない事なのだから。
これだけは・・・
「待てよ・・・!これは俺が」
その声を拳が制す。
目の前に抜き身刀のように鋭利に向けられた研ぎ澄まされし拳はそれ以上を語らせない。
「・・・なぁ」
その行動とは全くの逆のものが生まれる。
それは声
姉貴の口からは普段の様子とは取られないような声が聞こえた。
か細く、何かに怯える小動物のように――そうして震えていた。
そしてその声もそこで止まる。
「やっぱ・・・めんどくせ。いいや、もう行くし」
普段の姉貴に戻ったような気がする。そして少なくともさっきよりは『大丈夫』だと、そう感じる事が出来た。
「なんだよ・・・姉貴らしくもねぇ。俺が牙を抜かれたとか言ってるけどよ、案外そうなのは姉貴のほうなのかも――な゛ぁ゛!!?」
本日・・・あー何度目の鉄拳になるのだろうか。
それもマトモに、だ。
いつもの姉貴が放つような・・・いや今のは若干強力だったと思うが俺の記憶にある『山本 幸』そのものだった。
「調子に乗ってんじゃね〜ぞ〜。こ〜ら〜〜」
鉄拳をマトモに食らって倒れた俺に対して慈悲の心の欠片も感じさせない修羅がそこにいる。
襟元を掴まれてぐいぐいと上下左右に振られている俺は姉貴にとって一体なんなのだろうかと問いただしてやりたい・・・
そして飽きてしまったのだろうかそのまま部屋の端の方へ抵抗も出来ないままに投げられた。
「ったくよぉ、実のお姉様に向かってなんて言葉を吐いてるんだか・・・誰がそんなんに育てたんだか・・・」
冗談を言っているのだろうか・・・
あえて、言わないでおこう。
いやむしろ思い切り指を示したい方向へ差してやりたいぐらいだが命がいくつあっても足りない、やはり何もしない方が懸命だ。
「あ〜あ冷めちまったよ、こんちくしょう。まだ外の気温の方が暖かいってもんだっての・・・」
なんだかんだ言って外はもう冬間近の寒空が広がる季節である。
吐く息は白く立ち込める大気はキラキラとした霧が立ち込めるよう・・・姉貴が開いたドアの先はそういった幻想的な世界が広がっていた。
「それじゃあよ、行ってくるわ。あとよほんと言っとくぞ・・・」
一瞬言うのを躊躇したように言葉が曇る。だけどそれは数瞬のうちに飛んだ。
「これはアタシが解決する、お前は・・・何もするな。アタシが全て終わらせるからよ・・・絶対に」
そこに冗談混じりの言葉などは一つも無い、ただあるのはそれを覚悟するべく灯された殺意すらかなわぬ強靭な『刃』だった。
これだけ実の姉貴に対して怖さを感じたのはいつ以来の事なのか、多分今ほどのものは無いだろう。
「絶対にだ・・・」
最後に聞いたその声
朝焼けの日を待つ前に暗闇へとそれは消えていく。
そして放たれた――