第三話
昼休み、ボクがボッチで俯いていると前の方から女子三人組がこっちに向かって歩いてくる。
「ちょっと、橋本。クラスの出し物で演劇なんて前例ないから、あんたみたいなのが主役じゃ誰も来ないからクラスのために主役は若林君に変わってよ!」
「そうだ! 代われよ。陰キャ!」
「本当、困るよね。主人公席だからって、自分も主人公になれると勘違いして!」
そんなことはわかっているよ⋯⋯。
でも、代わったら南さんに何されるかわかんないんだよ!
ボクが黙り込んでいると小林さんがおもむろに立ち上がり、女子三人組の前に立ちふさがる。
「じゃあ、クラスのためにヒロイン役も私からお前らに代わるか!」
うわっ、男らしい!
小林さんの言葉に女子三人組は青ざめる。
「小林さん、いいんだよ。ボクが陰キャなのは事実だから⋯⋯」
「へえぇ、クラスの決定事項を覆すつもり。若林の差し金ね」
いつの前にか、南さんが目の前にいた。南さんが若林君の方に歩き始めた瞬間、女子三人組は違う違うと泣き出した。
「橋本君、よろしくね」
小林さんの言葉はボクには届いていなかった。
その日の放課後、ボクはいつも通り定食屋に寄った。こういう時はお姉さんに癒してもらわないと心が折れちゃう。
「いらっしゃい。今日は何かあった?」
えっ、そんなことわかるの?
すごい⋯⋯。
すごすぎる。
「ハハハ、ちょっとね⋯⋯」
ボクは恥ずかしさにお姉さんの顔がマトモに見れない。
「まあ、学校もいろんなことあるからね。日替わり定食お待ち!」
やっぱり、お姉さんはすごいや。
翌朝、若林君が入院したことを知った。
間違いない。
南さんだ!
その日の放課後、南さんとキャスト五人の打合せがあった。演目の台本のコピーが参加者に配られる。
「えっと、代役は用意しないので若林みたいに入院しないように」
南さんのキツイ一言から打合せは始まった。
間違いない。
ボクへの警告だ。
怖い。
怖い!
打合せが終わると南さんがボクのところにやってきた。
「余計なことは考えないほうが身のためだぞ」
南さんにそう言われてボクは席を立つ。
「橋本君、ちょっとセリフ合わせしない?」
小林さんがボクを追ってきた。
ボクはさっさと定食屋に行ってお姉さんに癒してもらわないといけないのに⋯⋯。
「いや、ちょっと⋯⋯」
「お願い!」
もう、しつこいな!
「じゃあ、少しだけ」
その後、三十分くらい小林さんと二人きりでセリフ合わせをした。
その日の夜のことである。部屋を真っ暗にして、考え事をしてベットで寝転んでいると何やら机の方で光るものが見える。
南さんからのライン連絡だったら無視するのは得策じゃないな⋯⋯。
ボクはそう思いながら机に向かう。
光っているのはスマホじゃない。
例の日記帳だ。
ボクが灯りをつけると日記帳の光は消えていった。
おいおい、驚かせるなよ。
そういう機能付きの日記帳だな。
そうだ。
そうに決まってる。
ボクはそう思いながら日記帳を机の上に取り出してページを開いた。
えっ、なんか文字が書いてある。
九月一日 クラスの席替えで小林さくらの隣の席になる。
九月二日 主役はボク、ヒロイン役は小林さくらに決定。修学旅行の班決めはボクと小林さくらは同じ班となる。
九月五日 演劇の打合せ後で小林さくらとセリフ合わせの練習をする。
これ、今日のこと。
未来日記?
いやいや、今日のことだから未来日記じゃない。
てか、SF小説の読みすぎだ!
そうだ⋯⋯。
これは疲れているからだ。
新学期早々、心労がたたってこんな夢を見ているんだ。
過去のことならボクにだってわかる。
よし、見なかったことにしよう。
ボクはそう思い、例の日記帳を机の鍵付きの引出しに入れて鍵をかけた。
週明け、若林君が退院して登校してきた。坊主頭で何かに怯えている。




