第三話
私たちのクラスの文化祭の出し物は演劇だ。もう、二人の仲を進展させるしかない。そんなこと考えているとニヤけてしまう。
こんなニヤけ顔なんか橋本君には見せられん!
昼休み、私がそう思いながら悶えていると前の方から女子三人組がこっちに向かって歩いてくる。
橋本君に悪い虫がついたら困るぅ!
「ちょっと、橋本。クラスの出し物で演劇なんて前例ないから、あんたみたいなのが主役じゃ誰も来ないからクラスのために主役は若林君に代わってよ!」
「そうだ! 代われよ。陰キャ!」
「本当、困るよね。主人公席だからって、自分も主人公になれると勘違いして!」
やめろ!
橋本君のこと全然知らないクセに⋯⋯。
私はおもむろに立ち上がり、女子三人組の前に立ちふさがる。もちろん橋本君からは顔が見えないように⋯⋯。
「じゃあ、クラスのためにヒロイン役もあたしからお前らに代わるか!」
私はめいいっぱいイキる。
怖い。
怖い!
私がイジメられるかも⋯⋯。
女子三人組は青ざめる。
「小林さん、いいんだよ。ボクが陰キャなのは事実だから⋯⋯」
橋本君の顔が見れない。
「へえぇ、クラスの決定事項を覆すつもり。若林の差し金ね」
いつの前にか、南さんが目の前にいた。南さんが若林君の方に歩き始めた瞬間、女子三人組は違う違うと泣き出した。
私はイキった顔を元に戻し、さらに口角をあげて橋本君の方へ振り返る。
「橋本君、よろしくね」
おお、今回はうまくできた!
えっ?
橋本君、怯えてない。
クソ!
全部、若林のせいだ。
後でデスノートに書いてやる。
その日の放課後、私は急いで帰宅した。
学校でのイメージ低下をこっちで取り返さないと⋯⋯。
ギャルメイクをしっかり落として私は店に出る。しばらくすると、橋本君が来店していつもの席に座る。
「いらっしゃい。今日は何かあった?」
私は慎重に言葉を選ぶ。
もう心臓バクバクだ!
「ハハハ、ちょっとね⋯⋯」
「まあ、学校もいろんなことあるからね。日替わり定食お待ち!」
私は精一杯の笑顔を橋本君に向けた。
その夜、私は恋愛未来日記を開く。
九月五日 演劇の打合せ後で小林さくらは橋本龍之介君とセリフ合わせの練習をする。
私は『。』に想いを込める。
あ、そういえば⋯⋯。
若林のこともデスノートに書かなきゃ。
ん、ダメだ。
違法行為を書き込んだら、その日付の記入は全部無効になるんだった。
アレ?
その日付って、日記の日付?
それとも書いた日付?
あっぶねえ!
橋本君とのセリフ合わせがなくなるところだった。
恋愛未来日記を書く時は冷静になろう。
次の日、若林が入院したことを知った。
書こうとしただけなのに⋯⋯。
その日の放課後、南さんとキャスト五人の打合せがあった。演目の台本のコピーが参加者に配られる。
「えっと、代役は用意しないので若林みたいに入院しないように」
南さんのキツイ一言から打合せは始まった。
なんだろう。
橋本君が妙に怯えている。
打合せが終わると橋本君は南さんと一言二言話して席を立つ。私も一緒に席を立って橋本君を追う。
「橋本君、ちょっとセリフ合わせしない?」
「いや、ちょっと⋯⋯」
「お願い!」
「じゃあ、少しだけ」
へへへ、三十分くらい橋本君と二人きりでセリフ合わせをした。
週明け、若林が退院して登校してきた。坊主頭で何かに怯えているような気がする。
まあ、よく反省しろ!




