星の森学園 -瀬戸 風真-
バスケ部のムードメーカー、3年生。橘太陽の親友のひとり。彼女・根尾ほのかから、とある噂を聞く。
嘘だけはいかん。
こどもの頃、じいちゃんがよく言っていた。
大人は体のいい言葉ばかりを好む。だけど、じいちゃんだけは俺にありのままを伝えてくれた。都合の悪いことも、言いにくいことも。
だから俺は、じいちゃんの言葉だけは信じられた。
嘘だけはいかん。俺もそう思う。
嘘は大きらいだ。
「おまえら仲悪いの?」
部活終わりの部室で出しぬけに質問すると、二年の後輩ふたりは顔を見合わせた。
「いや」
「そんなことないっす」
「そうか」言いながら俺は制汗剤スプレーをシャツの内側に吹きかけた。
「でも互いに思うところはあるんじゃねーの?」
藤井颯太と宮間龍。彼らは来年のバスケ部の中核を担うとされている二人だ。
技術も体力もある。しかし連携面には難があった。ひとりひとりで出場するときは問題なくても、ふたりでそろって試合に出たときにパスミスやフォーメーションの乱れが目立つ。
また、ふたりは互いに顔を見合わせた。今度はなにも言い返さない。
「もっと本音で話し合えよ。本物の信頼は本音からしか生まれない」
そう言い残して、俺は部室をあとにした。
嘘はきらいだ。本音を隠されることも。それは本当の意味で相手と向き合うことから逃げているだけだから。簡単な関係性で終わらせたいと思う人間の怠慢だから。
校門へ向かう途中で、中庭から根尾ほのかが顔を出した。
「まってたよー!」
と俺のひじを掴んで横を歩く。
「あれ、身長伸びた?」
「おまえがちぢんだんだよ」
「えー、ひどーい!」
ほのかはケラケラと笑ったあと、ところでさ、と急に声のボリュームを落とす。
「ねえ風真、太陽くんって木下先生と付き合ってるの?」
なにかと思えば、また噂ばなしか。
ほのかの彼氏をやっていれば噂話にはことかかない。理科室の幽霊の話だとか、夜の屋上で花火が打ち上がったとか。ほのかは何でも信じてしまう性格だから、面白がって嘘を吹き込んでいる友達でもいるのだろう。
「ないない」
三秒も考えなかった。
「木下先生って既婚者だろ? 太陽がそんなことするわけねーって」
橘太陽は俺の親友だ。この学園の生徒会長でもある。
「でもうちの友達が、ふたりが一緒に帰るのを見たって」
「見間違いだろ。生徒会でいつも遅くなるだろうし、先生と話す機会なんて普通にある」
ほのかはまだ何か言いたそうな顔をしていたが、俺がそれを許さなかった。
「太陽のことは俺が一番知ってる。ありえない」
はっきりとそう言える自分が心地よかった。俺と太陽のあいだに隠しごとなんて存在するわけないのだから。
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その後、ほのかとファミレスに寄った。
「だれにだって隠しごとの一つや二つあるもんでしょ」
言いながら、ほのかはカルボナーラをフォークでぐるぐると巻いている。
「俺にはねーの。俺と太陽のあいだにもな。親友だから」
「そりゃー風真にはないだろうけどー」
「けど?」
「太陽君はわからないじゃん」
わからないじゃん。ほのかが何でそんなことを言うのか理解できなかった。俺と太陽の関係のことを何も知らないくせに。
「わかんだよ」
俺はコーラを飲み干すと、氷をガリガリと噛み砕いた。
「まだ一年ちょいの付き合いだけど、俺と太陽は出会った瞬間に意気投合した。あいつはドSの女が大好きな変態野郎で、寂しがりやで、夜にしょっちゅう電話かけてくるような面倒くさいやつで、お化け屋敷にも入れないビビりで臆病なやつだし、妹を溺愛してるシスコン野郎だってことまで。俺は全部知ってるんだよ」
「分かった。分かったよ」
ほのかはもう満足だと言いたげに両手をあおいだ。
「ていうか、あのイケメン完璧生徒会長、実はそんな感じなんだ。なんか聞きたくなかったよ」
「まだまだあるからな」
俺は指を折って、太陽に関して知っていることを隅々まで頭に思い浮かべた。
「もういいって! 降参です。降参!」
ほのかはゲンナリとして背もたれに寄りかかると、窓の外に視線を投げ捨てた。
「いーや。おまえがガチで理解するまで俺は全部話さないと気が済まない。よく聞けよ?」
「ふーま」
いつもとちがう呼び方に違和感があった。まるで俺に話しかけるのをためらっているみたいな。およそ、ほのからしくなかった。
見ると、ほのかはまだ窓の外を見ていた。
「あれ」と外を指差す。
指の先を追うと、道路を超えた向こう側で、ひと組の男女が並んで歩いていた。
男は学生服を着ていて、女はフォーマルなジャケットとパンツに高いハイヒールを履いていた。
ふたりはカフェから出てきたところみたいで、そのまま駐車場へと歩いて行き、白の軽自動車に乗り込んだ。ふたりとも。
「太陽君と木下先生だったよね?」
そうだったと思う。でもそれを認めることが頭の中でできなくて、なにも答えられなかった。
「ほんとうに全部わかってるの?」
わかってるの? ほのかの言葉が頭の中で反芻される。
今、俺の足元で絶対的な信頼がクラクラと揺れている。
わかっていなかった。あのふたりがこそこそと、こんなことしてたなんて。
俺と太陽のあいだに隠しごとなんてないと思っていた。俺は嘘も隠しごとも嫌いだし、太陽はそれを理解してくれる唯一の親友だった。はずだった。
あいつがこれまで見せてくれた弱音や本音も、こんな俺のことを理解してくれたことも、あいつの嘘だったのか。どこまでが本当で、どこからが嘘か分からなくなった。
「なんどだって言うけど、だれにでも嘘や隠しごとのひとつくらいあるんだよ。風真みたいに、みんな強いわけじゃないんだから」
ほのかは手元のグラスをストローでかき混ぜた。もう中身は氷だけになっていて、カラカラとさびしい音が鳴る。
「わたしね。風真にずっと訊きたかったことがあるんだけど‥‥」
ほのかは目線を上げて俺の顔を仰ぐと、すぐにまた目線を下げた。
「ううん。やっぱり何でもない」
また隠しごとだ。おまえまで、俺にそんなことをするのか。
「なんでもなくないだろ? 言えって。隠しごとは嫌いなんだ」
「隠してるんじゃない。伝え方を考えてるだけ」
「だからそれが嫌いだって言ってるんだよ。はっきり言わないと伝わることも伝わらないだろ」
「そっちの価値観を押し付けないでよ!」
ほのかの声はファミレスの喧騒の中でも一際大きかった。横のテーブルにいた若い女性の二人組がこっちを振り向いたけれど、すぐに自分たちのスマホに視線を戻した。
「わたしが傷つかないように言葉を選ぶのも、風真を傷つけないために言葉を迷うのも、そんなに悪いこと? 私には私なりの伝え方があるの!」
「そんなんで本当に言いたいことが伝わるのかよ!」
「あんたが汲み取る努力をしないのを、他人のせいにしないでよ!」
しばらく沈黙があった。このままでは何を言っても平行線になるだけだった。
「……もういい。先帰る」
俺は財布を取り出して、自分の分の金をテーブルに置いた。ほのかが何か言ったが、そのまま店を出た。
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翌日の昼休み、生徒会室に顔を出すと、太陽と2年生が何やら話しこんでいた。
ちょうど会話が終わったところみたいで、俺と入れ替わりになって、その2年生は部屋を出ていく。
「忙しかったか?」
「いいや。暇だよ」
太陽はさわやかに笑った。こんなにニカって表現が似合うのは、こいつくらいだと思う。
「うちの副会長が優秀なおかげでね」
部屋にはもうひとりの二年生がいた。窓際のデスクで、なにか書類に目を通している。
生徒会の副会長、たしか中村美咲と言ったか。上品にまとめたブラウンの巻き髪が印象的だった。
「わたしなんか。まだまだですよ。会長に比べれば」
中村美咲はクールに言うと、立ち上がり、書類を束ねてから胸に抱えた。
「それでは。昼休みは用事があるので」
また放課後な。と笑顔で手を振る太陽に静かにお辞儀をして、中村美咲は生徒会室を出ていった。
俺と太陽の邪魔をしないように気をつかったのかもしれない。
「たまには一緒に昼飯たべようぜ」
俺はパイプ椅子に座ると、購買で買った卵サンドを木目のテーブルに置いた。
「たまにはって、先週も教室で一緒だったろ」
「三日以上たてば、俺にとっては偶になの」
「せっかちな世界で生きてるなあ」
太陽はスクールバッグから弁当を取り出すと、妹が作ってくれたんだと、おにぎりとコーンサラダを俺に見せつけてきた。こいつと昼飯を食うと決まってこの会話になる。
「で? 俺に聞きたいことあるんだろ?」
おにぎりにかぶりつきながら、太陽は出し抜けにいった。
「おまえ、木下先生とどういう関係なの?」
俺も単刀直入に尋ねた。そうだ。これが俺たちの関係性だ。意味のない探り合いなんていらない。
「どうって、先生と生徒の関係だよ。ただの」
「ただの先生と生徒の関係で、一緒にディナーを食べて、車で送ってもらえるのか」
太陽の視線が揺らいだ。
「なあ、風真」
太陽はまっすぐに俺を見つめた。力強くて、聡明で、人の上に立つべき人間だと俺にだって分かる。
「全部おわったら話す。それじゃ駄目か?」
どうやら太陽には、俺との信頼よりも守らなければならないものがあるらしい。
「わかってるだろ? 俺はそういうの駄目なんだ」
言えばいいだろ。人に言えない事情があるなら、それごと俺にぶつければいい。おまえが何をしていようが、俺はおまえを嫌いにならない。俺にすら隠すくらいなら、そんなことするな。
「俺はおまえのこと、親友だと思ってたよ」
卵サンドの残りを一口で頬張ると、俺は生徒会室をあとにした。
その日の気分は最悪だった。授業も部活も気づけば終わっていて、自分が本当に学園の中にいたのかすら、ほとんど記憶になかった。
校門を出ると、いつもよりも赤々とした夕焼けが世界を照らしつけ、俺の影を薄く伸ばした。
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放課後、ほのかに呼び出されて、いつものファミレスに入った。
中ではすでに、ほのかが席で待っていて、もうひとり見覚えのある顔があった。
「この子は久保田真帆ちゃん。生徒会の会計をやっている子ね」
俺が席に座るや否や、ほのかは淡々と説明する。
「ほのか。昨日は‥‥」
ほのかは静かに首をふって、俺の言葉を制した。
「言ったでしょ。わたしにはわたしの伝え方があるの。だから今日は何も言わず聞いてくれる?」
「わかった‥‥」
俺は力なく頷いた。
「真帆ちゃんは生徒会にいるだけあって、私たちよりも太陽くんの事情を知っているみたい。だから今日は来てもらったの」
ほのかはオレンジジュースの入ったグラスを両手で包んでから、ひとつ息を吸った。
「ねえ。真帆ちゃん。太陽君と木下先生って、ほんとうに付き合ってるの?」
向かいに座る久保田真帆は、ほのかを一瞥し、一瞬だけ眉を上げた。
「そういう噂が流れているのは知っています。それを信じたんですか?」
「だって見ちゃったから」
ほのかは俺の方に目を向けた。どうなの、と問いかけるように。
「俺はもちろん信じてなかった。だけど‥‥」
言いながら、テーブルに視線を落とした。
「あいつは俺に本当のことを隠した。だから分からなくなった。あいつのことは、もう全部信じられない」
沈黙があった。
「瀬戸風真くん」
久保田真帆はキビキビとした声で俺の名を呼んだ。
「あなたは太陽君のなんですか?」
その問い方には敵意を感じた。側から見たら、俺たちは興味本位で噂を嗅ぎ回っている野次馬に見えるのだろうか。
「親友だった」
俺は答えた。
「でも今は分からない」
久保田真帆はしばらく俺の目を見ていた。感情を表に出さないように訓練されているみたいに、表情は変わらない。
「わたしは一年の頃から、同じ生徒会役員として、ずっと彼を見てきました。だから彼があなたに隠していることも分かります」
「それって?」
ほのかが身を乗り出して訊いた。
久保田真帆は少し考える素ぶりをしてから、かぶりをふった。
「勝手に言うわけにはいきません。わたしは太陽君の意思を尊重したいので」
でも、と彼女は続けた。
「少なくとも言えることは、彼が噂にあるようなことをする男だと思いますか?」
思わない。その言葉を飲みこんで、俺は言った。
「分からないんだ」
「ふざけるな」
一瞬、だれの声かと思ったが、すぐに久保田真帆のものだと分かった。眼鏡の奥から鋭い瞳を向けて、俺を睨んでいる。
「太陽君がそんなことするわけない!」
声は静かなままだった。それでも彼女の怒りだけは、はっきりと伝わる。
「そんなことすら分からずに、何が親友ですか! 本当の彼は完全無欠なんかではなくて、臆病で寂しがり屋で、誰よりも大事なものを失うことを恐れているんです! だからこそ、あなたに伝えられなかったこともあるのでしょう!」
「そんなこと知ってる!」
気づいたら俺は言い返していた。
「それでも本当のことを言って欲しかった!」
「それでも!」
久保田真帆も退かなかった。
「彼をひとりにするべきではなかった! 本当に橘太陽の親友であるならば!」
数秒の沈黙が流れた。
久保田真帆は唐突に、夢から覚めたみたいな顔をした。
「……すみません」
小さく言う。
「私なにを言って‥‥、あ、ほんとに、すみません」
さっきまでの毅然とした態度が嘘のように、ひどく取り乱している。
「ごめんなさい。わたし‥‥帰ります。あ、お金‥‥」
慌ただしく立ち上がって財布を取り出そうとすると、ほのかがそれを止めた。
「いえ、そんなわけには‥‥。は。払います。わたし‥‥」
「わたしが払いたいの。そうさせて」
ほのかが真っ直ぐに見つめて言うと、久保田真帆はお礼を告げて、ペコペコと謝りながらファミレスの喧騒から消えていった。
久保田真帆がいなくなり、ふたりになると、しばらく沈黙の時間が続いた。
ほのかはしばらく、窓の外を眺めていた。
「あれが、あの子の本音なんだね」
風を吹かすみたいに、ほのかが言った。
「たしかに風真の言うとおりだよ。本音でしか伝わらないことは絶対あると思う」
ほのかはそこで言葉を切った。それでもさ、と続ける。
「この世界で嘘や隠しごとをなくすことなんて、できないよ」
俺は何も答えなかった。
「ねえ。二年前に飛び降り事件あったでしょ?」
「……あったな。俺が転校してくる前の話だけど」
「そのきっかけを作ってしまったのは、太陽君なんだってさ」
俺は顔を上げて、ほのかを見た。ほのかは窓の外を見ていた。
「あと、飛び降りた子のクラスの担任だったのが木下先生。ここまで言えば分かる?」
ほのかは全部知っていた。だったら、今さっきのやりとりはなんだったんだ。
「実はさ、風真に言わないならっていう条件で、真帆ちゃんは私にだけ教えてくれてたの」
「……それを今、俺に話してるのか」
「わたしは風真に言うつもりだったけど、分かった、て嘘をついた」
「おまえ‥‥! 自分がなにをしているのか--」
「わかってる!」
わかってるよ。苦しそうな顔でもう一度そう言って、ほのかはゆっくりと窓から俺に視線を移した。
「でも、それでも黙っていたら、風真はきっと太陽くんを本当に失うと思った」
「わたしはね」とほのかは言った。「自分や風真のためだったら、どんな嘘もつけちゃうし、どんな隠しごとだってできちゃう」
ほのかの唇は震えていた。
「これがわたしなの」
間があった。
「こんな私でも、まだ好きでいれる?」
声も震えている。ほのかは今にも泣き出しそうだった。
「あたりまえだろ。やっぱり嘘は嫌いだけど、それ以上にほのかが好きだから」
俺は嘘も建前も嫌いだけど、それを言う人間を全員嫌いなわけじゃない。
ほのかの瞳から一筋の涙が流れた。
「よかった‥‥」震える唇で、声で、ほのかは絞り出すように言った。「だったらさ、太陽君とも仲直りできるよね!」
そう言うとダムが決壊したみたいにボロボロと泣き出した。
「ちょっと待て。どうしておまえが泣くんだよ」
「だってぇ」
ほのかは鼻をすすりながら言う。
「ずっと怖くて言えなかったからぁ! 嫌われるんじゃないかって、言えなかったからぁ!」
「おまえ、そんなことで悩んでたのかよ」
ほのかが俺にずっと言いたかったことというのは、こういうことだったんだろう。
「そんなことってなにさぁ! おかしいのは風真なんだからね!」
「分かったから、それ以上泣くなって‥‥!」
「むりぃ! 出るものは出るの!」
言いながら思いきり泣いていた。
ほのかが泣き止むまで、俺はただ、ほのかのそばにいてやることしかできなかった。
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翌日、また生徒会室に顔を出した。
太陽は副会長となにやら口論になっていた。
最初は真面目な議論なのかと思ったが、よくよく聞いたらくだらない言い争いだった。
カーテンを開けたいだとか、開けないで欲しいだとか
「全部あけないと日差しがいっぱい入らないだろ!」
「ちょっとでいいじゃないですか! まぶしいんですよ! わたしの位置からだと! 太陽が!」
「俺がまぶしい?」
「ちがいます!」
「とりあえず席を変えればいいだろ? 別に決まってるわけじゃないんだから」
「いやです! わたしはいつも同じ席じゃないと気持ち悪いので!」
「子供か! おまえは!」
「そっくりそのままお返しします!」
互いに睨み合い、その熱い眼差しの間で、ジリジリと火花を灯している。
よくこんなくだらないことで、ここまで真剣な顔になれるものだ。
副会長の中村美咲は、俺が部屋に入ってきたことに気づくと、咳払いした。
「今日はこのくらいにしておいてあげます」となぜか勝ち誇ったような目を太陽に向けた。
そして、どこか楽しげな顔をして、生徒会室をあとにした。
「なんかキャラ変わった? あいつ」
俺が訊くと、太陽は楽しそうに頷いた。
「かわいくなったよな!」
他人の生意気さを可愛いと変換してしまうようなところが、こいつにはある。
「で、今日はどうして来てくれたんだ?」
真面目な顔で太陽に問われて、俺はらしくもなく口ごもった。
昨日の今日で、さすがの俺にも気まずさがあった。
「ちょっと外でろ‥‥。面かせよ」
「平成のヤンキーかよ。おまえは」
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俺たちは第三校舎のそばのベンチに腰かけた。
本校舎へまっすぐに伸びる並木がアスファルトの通路に木漏れ日を落としている。
「すまん」俺は言った。「わるかった」
「いいよ」
そう言うと、太陽は空をあおいだ。
「風真。おまえはそういうやつだよ。嘘も隠しごともできなくて、思ったことをなんでも言う。たとえそれで他人と真正面からぶつかっても」
「少しずつ、変わろうと思ってる」
自嘲する俺の横で、太陽は声をあげて笑った。
「やめろやめろ。そのままでいてくれ。おまえが変わるなんて気持ちわるい」
「おまえ、そういうこと言うのかよ!」
ムッとして睨むと、太陽も俺を見ていた。
「そんなおまえの言葉にだから、救われる人間もいるんだよ」
太陽は精悍な顔立ちで、表情はいつも朗らかだ。瞳にはエネルギーに満ちている。だからこんな男に影があるなんて、だれも思わないんだ。
そう言えば、俺と太陽が初めて話したのも、このベンチだった。
「もうすべて終わったんだ。だから話していいか?」
太陽は正面に向き直ると、刺すように落ちる日差しを睨んだ。眩しそうに目を細める。
「俺の、もうひとりの親友の話だ」




