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私を欠陥品と呼ぶ執事長が鬱陶しいので、侯爵夫人として排除することにしました

作者: 菖蒲月
掲載日:2026/05/06

 オリヴィエ・バチェラー伯爵令嬢だった私が、婚約者であったロバート・クロフトン侯爵令息と結婚したのが2ヶ月前のこと。


 ロバートは結婚と同時に義父であるクロフトン侯爵から爵位を継いだため、必然的に私も結婚と同時にオリヴィエ・クロフトン侯爵夫人となった。



「……誰か!誰か来てちょうだい!」


 夫人専用の執務室で仕事中。昼を過ぎても誰も声を掛けに来ないので、メイドを呼ぶための呼び鈴を鳴らすが、一向に反応が無い。


「はぁ…。またなの。」



 結婚して2週間は新婚期間としてゆっくりしたが、その後は私もロバートも新侯爵夫妻として、内外での仕事を忙しく熟す毎日を送っている。


 前侯爵夫妻であるお義父様とお義母様は、新婚期間の後も1ヶ月ほどはお手伝いをして下さった。


 それもある程度落ち着いた2週間ほど前には、長年の夢だったという「各地を巡る旅」にウキウキと旅立って行かれた。


 それからだ。


 私が侯爵夫人となったことが気にくわない人物による嫌がらせが始まったのは。



◇◇◇



 私とロバートの婚約が結ばれたのは、私10歳、ロバート13歳の時。


 その年にクロフトン領で記録的な冷害が発生。


 国の『食料庫』とも呼ばれたクロフトン領の農作物が大打撃を受けたのだ。


 その時、隣国との太いパイプを持つ我がバチェラー伯爵家が、農作物の高騰や買い占めを警戒して、いち早く適正な価格での取引を隣国と結んだことで、国内に大きな混乱が起きずに済んだ。


 元々が商人上がりの我が家としては、特に恩を売ろうとかそういう気持ちは全く無かった。


 売れそうだからたくさん仕入れて売ったというだけだったのだが…。

 国やクロフトン侯爵はそのままにしてはおけない、何か報奨を与えたいとしつこ…熱心に言ってくださった。


 こちらとしては儲けもちゃんと出ているので報奨は辞退すると何度も言ったのだが…。


 国や侯爵家としての面子もあったのかなかなか引き下がってくれなかった。


 最終的には当時10歳の私がロバートの婚約者となることで何とか一連の騒ぎが収まったのだ。



 ここで疑問に思うことでしょう。

 私とロバートが婚約することがなぜ報奨と扱われたのか。


 まあ、当然の疑問だと思うわ。

 何ともバカバカしい理由なんだけど。


 当時の私は病弱で、寝たり起きたりが半々くらいの生活を送っていたの。


 原因は私が8歳の時に国で流行った病。

 

 丁度風邪を引いた後の少し弱った状態でその病に掛かったことで重篤化し、完治までに時間が掛かってしまった。


 その後、病は完治したにも関わらず、ちょっとした風邪や体調不良で熱を出して寝込む虚弱な身体となってしまった。


 私を溺愛するお父様が人脈と情報網をフルに使って、2つ国を挟んだほとんど交流の無い医療先進国に、この病の特効薬があることを突き止めてくれた。


 そのお陰で、いまはすっかり健康体を取り戻している。


 だが、少し医療の遅れているこの国や近隣国では、この病に罹って重篤化した者は生殖機能を失うという根拠の無い話を信じている者が多い。


 そのため、私がいくら健康になったと言っても、生殖機能に問題がある(と信じている)令嬢を婚約者にしようという貴族家はなかったのだ。


 だから、国も侯爵様も貰い手の無い(と信じている)令嬢を、報奨として貰ってあげようというありがた迷…余計なお…善意での婚約となった。



 

 あれから8年。

 私が18歳となり学園を卒業するのを待って結婚した。


 それまでに医療先進国から私が完治する切っ掛けとなった特効薬や医師の派遣を受けて、重篤化した者が生殖機能を失うというのは間違った情報であるという常識が広まってきている。


 しかし、以前の迷信めいた話を未だに信じている者も多く居るのが現実だ。


 身近にいる人間の中でその筆頭といえば、クロフトン侯爵家の執事長であるゴードンだろう。


 彼は、私が婚約者の時代から何かと当たりが強い。


「オリヴィエ様はご病弱でいらっしゃるから、勉強が遅れておられるのか。こんな簡単なこともお分かりにならないなど、何ともお労しいことだ。」


「ロバート様にはもっと健康な令嬢が相応しいのに、こんな欠陥品を押しつけられてお可哀想に。」


「ロバート様のお気持ちは、このゴードンがちゃんと分かっておりますぞ。」


 と、まあ妄想の激しい老人なのだ。



 これまでロバートとの親好のため、侯爵夫人としての仕事を学ぶため、結婚式の準備など、様々な理由でクロフトン侯爵家を訪れる私に、それはもう細々とした嫌がらせをたくさんしてくれたものだ。


 私のお茶だけグレードの低い茶葉を使っていたり、お義母様が付けてくれたクロフトン家内での私の身の回りの世話をするメイドを、事ある毎に呼びつけて私の世話をさせないようにしたり、食事の時間を正しく伝えずに1人だけ遅れるようにしたり…。


 まあ、婚約の経緯はどうあれ前侯爵夫妻やロバートとの良好な関係を築けている。


 だから、ゴードンの言動については『結婚後に私が対処するのでお気になさらず』と伝えてある。


 私の性格を理解しているお義父様達もロバートも、ずっと分かっていて見ない振りをしてくれていたのだ。


 ロバートなんて「君がどう対処するのか楽しみだよ♪」と妙にワクワクしていたもの。


 私が関与していない限りはゴードンも真面だし、クロフトン侯爵家に害は無いしね。


 ただし、私がクロフトン侯爵家の女主人になってからは話が違う。


 私に不利益を与えると言うことは、クロフトン侯爵家に不利益を与えると同義。


 これまでは受け流せたが、これ以上は家に害となる者として放置するわけには行かない。


 さて、ある程度証拠も集まったし、そろそろ始めようかしらね。



◇◇◇



 翌日、ロバートが領地の視察に出かけた後、婦人用の執務室で仕事をしていた私の元にゴードンが慌てた様子でやってきた。



「オリヴィエ嬢、これはどういうことですか!?勝手にメイド長と他数名を解雇するなど!」


「ゴードン。貴方とうとう呆けたのね。入室前はノックと声掛けをして、返事があってから入室するっていう基本的な事も忘れてしまったようだもの。」


「私は呆けてなどおりません!欠陥品に払う敬意など無いだけです!!」


 その時、実家から連れてきた私の専属侍女であるアンが、私を守るように前に出た。



「ゴードン執事長、奥様に対するその言動は何ですか!立場を弁えなさい。」


「アン、他所から来たお前には相応しい仕事を与えた筈だ。なぜここに居る!!立場を弁えて居ないのはお前の方だ。」


 唾を飛ばさん勢いでアンに詰め寄るゴードンだったが、アンは文武両道の護衛も兼ねた侍女なので、ゴードンは簡単にねじ伏せられた。


「いたたたた、離せ!!」


「アン、煩いから離してやりなさい。」


「承知致しました。オリヴィエ様。」


 痛みに顔をしかめながらも、立ち上がりこちらを睨み付けるゴードン。



「アンは私が実家から連れてきた専属侍女です。前侯爵夫妻であるお義父様達やロバートにも、私の直属として雇用することを許可して頂いています。」


「なんですと!そんな話は聞いておりませんぞ。今まではこちらが指示した仕事をしていたではありませんか!」


「ええ。この邸の悪い物を一掃するために、ワザとそちらの指示通りに動くように私が指示したわ。色々な場所の様子を探らせていたのだけど、十分な情報が集まったので直属の仕事に戻したのよ。」



 ゴードンは急に何を言い出すんだと怪訝そうな顔をしてこちらを見ていたが、私が取り出した帳簿を見て顔色を変えた。


「……!!!!!!」


「随分と好き勝手やってくれたわね。」


 帳簿を持ってひらひらと見せつけるように揺らして見せた。


「な、なぜその帳簿がここに!!」


「ふふふ。貴方がアンをこき使って、あちこちに行かせたことで色々な情報があっという間に集まって助かったわ。裏帳簿が、貴方と通じていたメイド長のマーサの部屋に隠されていたなんてね。まあ、これまでも横領していたのは分かっていたけど、私に割り当てられていた婚約者としての費用からしか横領していなかったから見逃していたのよ。もちろん、お義父様達もロバートも知っていたわ。」


 裏帳簿を見つけられて狼狽えていたゴードンだが、敬愛している当主一家である前侯爵夫妻やロバートも全部知っていたという事実に愕然としたようだ。


 だが、次第に自分に都合良く解釈したのだろう、にやにやとこちらを馬鹿にしたように見てきた。


「流石はクロフトン侯爵家の方々です。私のしていることがクロフトン家の為だと分かって下さっていたのですね!こんな欠陥品にクロフトン家のお金を使うなどドブに捨てるようなものなのですから、当然ですな。はっはっはっ!!」


「はぁ…。ゴードン、貴方凄くバカなのね。次期侯爵夫人である私に使った方がクロフトン家のために決まってるじゃない。」


「何ですと!!分かっていないのはオリヴィエ嬢です。クロフトン家に依存する欠陥品が!!」


私が欠陥品と呼ばれたことでアンが攻撃態勢に入ろうとしたが、話が進まないのでそれを手で制しつつゴードンに話しかける。



「お義父様達やロバートが何も言わなかったのは、私が止めていたからよ。手を付けていたのが私に関わる費用だけだったし、それくらい私のポケットマネーでどうとでもなるしね。」


「止めていた…?なぜそんなことを…。」


 ゴードンの心底理解出来ないという表情が面白くもあったが、気持ち悪い勘違いをされたままなのもお義父様達が可哀想なので、ちゃんと説明する事にする。


「お義父様達やロバートには、私が外部の者である婚約者の間は静観して貰っていたのよ。その代わり、私が侯爵夫人になってからも同様の事が続くようなら、クロフトン家に害をなす者として排除することを承知して頂いたわ。」


「クロフトン家に害をなす者…?」


「ええ。」


「私が?」


 思いも掛けない事を言われたという顔をしているが、きっぱりハッキリと頷いて見せた。


 アンも同時に大きく頷いているのが視界に入ってしまい、笑ってしまいそうになったが何とか堪えた。


 アンに笑わせないで!と目で注意していると、ゴードンが突然叫びだした。


「は?……はぁ!?クロフトン家に害をなしているのは貴方ではないですか!」


「本当に分からないのかしら?クロフトン侯爵夫人となった私の品位維持費を横領することは、今までのように外部の人間であった婚約者の品位維持費を横領するのとは、意味合いが全く異なるわ。クロフトン侯爵夫人である私を害するということは、クロフトン侯爵家を害するのと同義よ。」


「貴方をクロフトン侯爵夫人とは認めていない!完璧な我が坊ちゃまの夫人には、完璧な女性が迎えられなくてはならないのです!!」


「ふふふ。」

 ゴードンの主張があまりにも面白かったので、堪えきれずに笑ってしまったが、ゴードンは気にくわなかったようだ。


「何が可笑しいのですか!!」


「私がクロフトン侯爵夫人であることは国が正式に認めているわ。それなのに貴方の許可が居るの?貴方って国王陛下より偉いのかしら?それに、そもそも完璧って何?容姿・教養・家柄?その基準は誰が決めたの?まさかゴードン貴方じゃないわよね。ふふふ。」


「国など関係ありません!執事長である私が認めないといえば、この家の意思も当然そうなるのですから。それに、誰に聞いても坊ちゃまは完璧だと言うに違いありません!欠陥品の貴方には分からないだけです。」


「まあ、この家の意思決定はゴードンがしていると言い切るとは何て傲慢な。それに、ロバートは完璧なんかじゃ無いわよ。剣術は苦手だし、チェスは私に勝てたことが無いじゃない。私たちはお互いに完璧では無いことを知っているからこそ、補い合う事が出来るのよ。それが夫婦というものでしょう?そこに完璧さなど誰も求めてはいないわ。」


「違います!坊ちゃまに出来ない事なんてありません!やっていないから出来ない事はあっても、やれば完璧に出来てしまうのですから。そんな完璧な坊ちゃまと、子どもも産めない欠陥品である貴方が夫婦であるなど嘆かわしい。」


 やれやれ、頭の固い老人の相手もそろそろ疲れてきたわね。


「あなたのその凝り固まった思考がクロフトン家の害となっていることが分かってないのね。医療先進国から入ってきた新しい常識は、あの流行病と生殖機能に何の因果関係も無いことを医学的に証明しているわ。それは国王陛下も認めて広く周知しているほどに。それを己の常識とは合わないからと受け入れずに、間違った考えで家に不利益を与えようとする貴方は、クロフトン家に寄生する害虫以外の何者でも無いわ。」


「長年クロフトン家に忠実に仕えてきた私に何てことを言うのですか!」


「忠実という言葉をあなたの都合良く使うのはお止めなさい!忠実な者は、当主の決定に根拠も無い話を真に受けて異を唱えたり、国と家が決定した婚約者に嫌がらせをしたり、当主夫人の資金を横領したりはしません。」


 ここまで言われてようやく話の流れがマズイ方向に向かっていることに気がついたのか、私の弱点(だと向こうが勝手に思っている)部分を突くことにしたようだ。



「ですが、幼少期に病弱だったことは間違い無いではありませんか。少しでも問題のある女性を家から遠ざけるためですから仕方がない事です。」


「はあ…。お忘れのようだけど、私は婚前の検査で『全ての項目で問題なし』との結果をそちらに提出済よね。しかもその検査自体、貴方がしつこくお義父様に必要な事だと言い募って行われたことで、担当の医師もそちらが手配した医者でしたけど?」


 まあ、お父様達もロバートも「そんな検査は必要無い。」って言ってくれたけど、ゴードンの逃げ道を潰す意味でも受けることにしたのよね。


 『問題なし』との結果に落胆したゴードンが、担当医に検査結果の改ざんをさせようとしたのだけは阻止したけど。


「そ、それは…。」


「そもそも、子供が出来ないかもしれない?そんなことは健康な夫婦間でも起こり得る事じゃない。男性側が原因であることも考えられるのに何を言っているのかしら。そんなに跡継ぎの事が気になるなら、私は検査で問題無いと言われたのだし、ロバートにも身体検査を受けて貰わないといけないわね。」


「坊ちゃまに問題なんてある訳がありません!お小さい頃から存じている私が言うのですから間違いありません。」


 そろそろ、ゴードンの相手も面倒になってきたので、アンに目で合図を送った。


 それを受けたアンは、興奮しているゴードンから目を離さないようにしつつも、気付かれないように隣の応接室に繋がる扉をそっと開いた。


「貴方は医者では無いのだから、貴方の言葉には何の根拠も説得力も無いわ、論外ね。さて、そろそろゴードンには退場して貰う頃合いだわ。そうでしょう?ロバート。」


 開いた応接室の扉から入ってきたのは、領地の視察にいくと出掛けていった筈のロバートだった。


「そうだね。オリーにばかり負担を掛けるのは夫婦として可笑しいし、必要なら僕もちゃんと検査を受けるよ。それに、ここまでゴードンを増長させてしまったのは僕や父上達のせいだろう。オリー、すまない。」


「長く務めた執事ですもの、仕方ありませんわ。私も正式にクロフトン家の者になってから対処しようと、皆さんが注意してくれようとしたのを止めていましたし。それがここまでの増長に繋がったのであれば、責任の一端は私にもありますわ。」


出掛けているはずのロバートが居て、しかもこれまでの会話を聞かれていたことを知ったゴードンは呆然としていた。


「坊ちゃま…。私は…。」


「ゴードン、いつまでロバートを『坊ちゃま』と呼ぶつもりなのかしら。この家の現当主はロバートよ。小さい頃からお世話していた坊ちゃまだったとしても、ちゃんとした執事なら当主就任からすぐに『旦那様』と呼び方を変えるわ。先ほどの『自分の意思は家の意思だ』という思考、当主夫人たる私への態度、そして当主たるロバートへの敬意の無さ、このどれをとっても執事として失格としか言いようが無いわ。要するに貴方は執事として『欠陥品』なのよ。」


 これまで自分が散々私に向かって言っていた『欠陥品』という言葉が自分に返って来たことが相当ショックだったらしく固まっている。


「そうだな。まあ、僕のことはまだ許せても、未だに当主夫人となったオリーを『オリヴィエ嬢』と呼んでいるのは執事として不適切だ。使用人達の見本となる存在で居なくてはならない執事長として、『欠陥』があると思われて当然だな。」


 さらに、ロバートからの援護が入ったわね。


 本人は敬愛しているつもりで、本心では自分より下に見ているロバートからもそんなことを言われて、段々怒りが湧いてきたのか。


「長年クロフトン家に忠実に仕えたこのゴードンに対するそのお言葉、とても坊ちゃまの本心とは思えません。異物をクロフトン家に入れてしまったせいで、坊ちゃまはおかしくなってしまわれたのです。大丈夫です、このゴードンが責任を持って元の完璧なクロフトン家に戻してみせます!」


 ロバートもあまりの話の通じ無さに頭痛を感じるのか、こめかみの部分を押さえながらゴードンに宣告した。


「はあ…。クロフトン家から取り除かれるべき異物はお前だよ、ゴードン。さらに、お前の指示でオリーに嫌がらせをしていたメイドや侍従達数名は紹介状無しでの即時解雇。横領に手を染めていたメイド長とお前は、解雇と同時に騎士団へ引き渡す。」


「な!?私がこれまで、どれほどクロフトン家の為に尽くしてきたことをお忘れですか!」


「もちろん、長年の勤めには感謝している。だが、それは横領を許容する理由にはならない。もう私も両親もお前を信用する事はない。これまで積み上げてきた信頼を壊したのはゴードンお前自身だ。一度失った信頼は二度と戻らない。何より、愛する妻であるオリーの側にこれ以上、害をなす者を置いておきたくないからな。」


「私がお育てした坊ちゃまが、私を切り捨てるなど…。お前のせいだぁぁぁ!!!!!!」


 俯いてブツブツ言っていたゴードンが、急に顔を上げてギラついた目で私の方を見た。


 目が合った瞬間に怒りに支配された為か、老人とは思えない素早さで私に掴みかかろうとした。


 しかし、すでに臨戦態勢を整えていたアンが即座に制圧して、床に押さえつけた。


「オリー!大丈夫かい!?」


「ロバート、大丈夫ですわ。アンが守ってくれますもの。」


「そこは、僕が守ってくれるって言ってくれたら嬉しいかったけど、アンには叶わないから仕方ないな。」


「ふふふ。そうですわね。……さて、ゴードン。このまま貴方を騎士団に引き渡してもいいんだけど、それだと貴方の家族は今後大変な目に遭うことになるわ。それは貴方も不本意でしょう?だから、一つ提案があるのだけど。聞く気はあるかしら?」


 貴族家からの横領犯として騎士団に捕縛された場合、本人は鞭打ち50回の後、囚人用の鉱山で横領金の返済が終わるまで強制労働となる。


 そして、その事実が領内全域に罪状と共に通達されるため、犯罪者の家族にも同類と見做す厳しい視線が集まり、仕事や生活に支障が出るのだ。


 そんな状況でまともな生活が出来るはずも無く、大抵は奴隷に落ちたり、娼婦や盗賊などに身をやつすことになる。


 犯罪者とその家族の末路を聞いて、やっと自分がしたことの重大さに気付いたのか、それとも家族に累が及ぶことを想定していなかった自分に愕然としたのかは定かではないけれど、思いのほかしっかりとした目でこちらを見た。


 今日初めてゴードンと真面に向き合ったと思えた瞬間だった。



◇◇◇



 その後、ゴードンは医療先進国の施療院で、雑用係として働くことになった。


 彼に与えられた仕事は、病に倒れた者の世話と、薬草の仕分け、医師たちの記録の清書をすること。


 そこで彼は知ることになったのだ。

 かつて流行病に罹り、重篤化しながらも回復した女性たちが、健やかに働き、結婚し、子を抱いて笑っている姿を目の当たりにしたことで、自分が何をしたのかを。


 彼が「欠陥」と呼んだものが、ただの無知と偏見だったことを知ったのだ。


 伝え聞いた話では、ゴードンはある日、医師にこう言われたそうだ。


「人を欠陥品と呼ぶ者ほど、自分の知識の欠陥には気づかないものだ」


 その言葉を聞いた彼がどんな顔をしたのか、少しだけ見てみたかった気もする。


「オリー、満足した?」


「ええ。命まで取るほどの価値もありませんもの」


 私がそう答えると、ロバートは楽しそうに笑った。


「君は本当に容赦がないね」

「当然ですわ。私はクロフトン侯爵夫人ですもの」


 夫はその言葉に、心底嬉しそうに目を細めた。


最後まで読んでいただきありがとうございます(ღ˘⌣˘ღ)


よろしければ何点でも構いませんので、

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よろしければ、長編も読んでみて下さい。


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ゴードン多分坊ちゃまから「うざい」と思われてとな。自分が思う程慕われてはなかった。
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