売れない貧乏なピン芸人と売れない金持ちな地下アイドルのしょーもない漫才
こじんまりとしたライブハウスで、なんとか精一杯アイドル活動をしている私は、とある芸能事務所のオーディションを受けて、とあるピン芸人の方とコンビを組んで漫才をすることとなった。
今日はその初舞台なのだけど、前説も何もない会場は冷え切っているし、席もほとんどが空席のまま。
舞台袖から出撃を果たし、サンパチマイクの前で息を呑んだ私は、早くも心が折れそうなのですが。
「どうもー。これまでピン芸人として活躍していましたが、売れなさすぎて藁にもすがる思いでコンビを組んだ、オレラノ・オッシーでーす」
隣から視線を感じ、私も精一杯の笑顔を浮かべて自己紹介をした。
「どうもー。一応現役アイドル、和歌羅瀬センナでーす」
「二人合わせてオレセン・グラフィでーす」
まばらな拍手でも、今の心情的にはありがたい。まったくの無反応であったなら、私はもう、タガが外れて自身の楽曲を披露していたことだろう。
「ねぇねぇセンナちゃん」
「なんですオッサン?」
「軽くショックを受けるその呼び方はやめようか。オッシーさんでお願いしますー」
「お幾つです?」
「三十路の味噌汁美味しいかーっ!」
このギャグ一本でやっていこうとした、この人のハートは強い。
「早速滑ってますねー。観客の空気が冷たすぎるからですかね?」
「そうそう。よく滑れるから、むしろホームゲームだね。って、そんなわけあるかっ!」
大きめのアクションで繰り広げられるオッシーのツッコミで、多少の失笑は買うことができた。
「それより、お互いに全然芽が出なくて、貧乏ぐらしも長いわけですが」
「ですねー。家のサモエドや私の世話をするをメイド軍団を雇うのも精一杯です」
「思いの外ブルジョア!?」
「親のスネを齧り続けて、私の歯は元気です」
「犬の話だけに!」
まぁ、これは冗談であって、それは彼も承知の事実だ。
私の一族は、夢見と呼ばれる特殊な能力を持っており、夢を通じて未来の自分と語らい、知りたい事柄を聞き出すことができるのだ。
その能力のお陰で、一族は常に権力者たちに重宝され、悪用されないようにと保護を受けてきた。
そこまで説明すれば、もしかしたらピンときた人もいるのではないか。……笑っていないお客様は、私の隣にどこの馬の骨とも知らぬ男がいるこの状況に、腹を立てている関係者である。
本当の客は、果たして何人いるのやら。
「そんなわけで貧乏なのは僕だけなんですけど、そんな僕としては、どうしても欲しいものがあるわけです」
「このくらいのバー?」
腰のあたりで手を水平に動かす。
「それはリンボー」
「アニメのキャラクターの名前でもお馴染みの、コーンウイスキー?」
「それはバーボン。バーから離れようか。貧乏が欲するものなんて、一つしかないでしょう?」
「いち早く目的地に到着できるカードとサイコロ運」
「それはゲームの話ではないかなっ!?」
このネタが通じる人は、残念ながら観客の中にはいなかったらしい。
「僕が言いたいのは、ベーシックインカムだよ。ベーシックインカム」
「ホームシックベーカリー?」
「一刻も早くパンを買って帰りなさい。そうじゃなくて、働かなくても定期的にお金を貰いたいってこと」
「国という名のタニマチ」
「タニマチがつくような人達は、みんな働いていて結果を出しているという現実」
私には分からない現実。
「でも、ただでお金がもらえるなんて現実的ではないですよね? 今だって減税のためには財源がー。とかってやっているわけでしょう? 何処からそんなお金を出すんです?」
「そこで、僕に考えがある」
「悪寒がするお考えですね」
「全く聞く気がない反応だな!?」
この駄洒落の受けはイマイチだったようなので、テキパキ次に行ってみよう。
「で、その考えとは?」
「ズバリ、仕事というものを国が管理してしまえばいいのだよ。そうすれば、収益は全て国が管理することとなって、国民にお金を送ることなど容易にできる。税金だって勝手に引いてくれればいい。国民は、面倒な確定申告から脱却できるのだ!」
「すごく深刻な叫び」
受けよりも共感のほうが大きい客層らしい。
「でも、一つ問題があるんだ?」
「それって本当に一つだけ?」
ちょっと間を取ってみたけれど、それほど受ける返しではなかったようだ。
「うん。それは……」
「それは?」
「くだらない真似をする奴が増えてしまうのさ、マネーだけにね!」
「しょーもない落ちですみません」
「三十路の駄洒落は味噌っかす。どうも、ありがとうございました~」
舞台袖にはけて、私はオッシーに向けてこう言った。
「……養ってあげましょうか?」
「……いや、まだだ。まだお笑いで売れて一獲千金をする夢は諦めない」
これに付き合うのも、私の道楽なのかもなぁ。




