表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/17

燃え尽き令嬢、一線を越えかける


「さあ、認めていいんだぜ? 俺の女になりたいってな!」


「……まるで悪役のようなセリフですわね」


「た、確かに……」


 私のツッコミに、ニエラが思わずといった風に同意した。けれど、当のエルドレッドは悪役呼ばわりされても、どこか嬉しそうに笑っている。


「言ってみたかったんだよな、この言葉」


「言われる日が来るとは思いませんでしたわ」


 ゲンナリとした気分で目の前の男を睨みつけると、彼の方からグイッと、逃がさないと言わんばかりに顔を近づけてきた。


「で? 恋人になってくれるのか?」


「………………」


 本心を言えば、嫌なはずがない。それどころか、こうして彼がまだ真っ直ぐに好きでいてくれることが、嬉しくて堪らないのも事実だ。

 けれど、そう簡単に頷けない事情もある。婚姻関係になれば十中八九、私が爵位を捨てて平民落ちするだろう。

 だが、悲しいことに私の家事能力は、現状「ゼロ」に近いのだ。


(妻が家事すらできないなんて、遅かれ早かれ愛想を尽かされてしまうわよ……)


 だから、待ってほしかった。私が一人前の「平民の妻」になれるまで。立派に暮らしていけるようになるまで。

 だというのに……。


「なんでそんなに、関係を急ぎたがるのですか!?」


「それは当然、好きだからだ」


「好きならば、その……私のペースに合わせてくださいませ」


「無理だな」


「なぜですの!?」


「体が勝手に動くんだよ」


 この脳みそお猿さんが!

 どうして彼がこれほどまでに「恋人」という形に拘っているのか、今の私には理解できない。エルドレッドのことは好きだが、今の距離感も十分に心地いいと感じていたから尚更だ。


「そもそも、そこまで恋人に拘る必要はないでしょう? 私たちはまだ学生ですし……」


「恋人になりたい理由が、どうしても知りたいって?」


「そう、ですわね……」


 するとエルドレッドは、虚空を見つめて真剣に考え込んだ。どうせ深い理由などないのだろうに、「なんて言ったもんかな」と一人で悩んでいる。


「アーシュ嬢」


「……なんですの」


「俺は、君の顔が最高に好きなんだ」


「はぁ!?」


「もちろん性格も最高だ! でも……なんと言えばいいんだ? とにかく、その顔が、もう、たまらなく好きなんだよ」


「つまり……外見が好みなだけ、ということですか?」


 結局、この人も外見で選んでいるだけなのか。そもそも一目惚れだと言っていたのだから、外見を好かれている自覚はあった。それは誇らしかったし、私自身、彼の顔がドストライクなのだからお互い様だとは思う。


――けれど。


(……中身を見てもらえていないのだとしたら、少し悲しいわ)


 もし仮に、以前のような「灰女」と蔑まれていた頃の姿に戻ってしまったら。彼は、今の熱情を嘘のように冷まして、私を捨てるのだろうか。

 そんな「もしも」を想像しただけで、目元が熱くなる。


「違う、違うぞ! そういうことが言いたいんじゃなくてだな……」


 私の曇った表情を見て、エルドレッドが慌てて首を振った。

 いつも飄々として、明るくて、実はとても優しい私の好きな男の子。

 そんな彼が、何かを決心したようにコホンと咳払いをした。「仕方ねぇか」と、覚悟を決めたような小さな独白。


「自分でも変だって分かってるんだ。……でも、アーシュ嬢の顔を見ていると、好きだって気持ちが……なんて言うか、溢れてくるんだよ」


「……え?」


 いつの間にか、エルドレッドの体が私のすぐ目の前まで迫っていた。彼の顔が、触れそうなほどの距離にあるという事実に、心臓がドクンと音を立てる。


「この顔が……好きでたまらねぇんだ。欲しくて……堪らなくなる」


 彼の大きな手が、熱を帯びた指先で私の頬をなぞる。

 燃えるような瞳が、私の心を焼き尽くそうとするかのように、食い入るように見つめていた。


「え、エルドレッド……様?」


 指先から伝わる体温が熱すぎて、意識がぼんやりと溶けていく。


「俺は……君の顔を、体を……全部、俺のものにしたくて、たまらねぇ」


 ゴクリ……と喉が鳴る。


「……アーシュ、頼む。早く、俺の――」


 その目が強く、私を見つめて……。

 顔が近づき――。


「場所をわきまえるべきですね。そこのお二人」


 ピシャリと、冷たい言葉が降ってきた。


「「!?」」


 刺々しく、けれどこの場の熱を一瞬で凍りつかせる重厚な響き。

 私は弾かれたようにエルドレッドから離れ、声の主を見上げた。


「――シアテーラス侯爵夫人!?」


 そこには、眉間に険しい皺を刻んだイバラ侯爵夫人が、冷徹な視線で私たちを見下ろしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ