燃え尽き令嬢、修羅場る
「頭の体操として、まずはグループディスカッションでも致しましょうか」
イバラ侯爵夫人は魔道具を通し、異論を許さぬ鋭い声をホール全体に響かせた。
「グループ」という単語に、私とニエラの顔が同時に引き攣る。なにせ私たちは、この学園における「腫れ物」の筆頭だ。関わりたがる物好きなど、まずいないだろう。
しかし運命は非情だ。四、五人一組という指定により、誘う相手も誘ってくれる相手も見つからない私たちは、必然的にホールの隅へと追いやられた。
「どうしましょう、アーシュさん。私たち二人きりですよ……」
「そうですわね。まあ、二人なら議論が楽だとでも思っておきましょう」
「そんな適当な!?」
だって、どうしようもないではないか。私がニエラから離れれば、彼女がどこかのグループに紛れ込める確率は上がるが、それを提案した途端、「それだけは嫌ですぅ!」と全力で首を振られてしまったのだから。
潔く「ぼっちチーム」としてやっていくしかない。そう覚悟を決めた時だった。
「あ! アーシュさん。こちらに手を振っている方がいらっしゃいますよ?」
「まさか……」
私は期待に胸が躍る。この学校で、自分なんかに親しげに手を振ってくれる心当たりはただ一人しかいない。眩しい金の髪と、屈託のない笑顔の少年。エルドレッドの姿を見て、思わず端なくにやけてしまいそうになった、が――。
「え?」
……エルドレッドの隣に目を向けた瞬間、私の表情筋は凍りつく。
「……嘘、でしょ?」
そこには、天地がひっくり返っても関わらないはずの三人組が立っていたからだ。
――パチン。
夫人が手を叩く。それはお題が出される合図。彼女は氷のような冷徹さで言い放つ。
「皆さんは、とある農村を任された子爵家当主です。これから三つの事態が同時に起こったとして、どう対応するのが最善か……。これを議題と致します」
提示されたのは、血の気の引くような難問だ。
一つ。大豊作による市価暴落。農民の現金収入は激減しているが、税はどうすべきか?
二つ。銀山開発による莫大な利益か、それとも下流の村の飲用水の安全か?
三つ。特産品を買い叩こうとする巨大商会への対処。販路を守るか、職人の生活を守るか?
「実務では、問題は常に複合的に起こるのです。教科書通りの回答が通用しない現場を想定し、形式に囚われない『臨機応変』な答えを期待しますわ」
稀代の知略家である夫人の発した難題に、ホールは一気に熱を帯びた。あちこちで学生たちが知恵を絞り、激しい議論の火花を散らし始める。
……けれど。
「………………」
「…………えっと」
一つだけ、時が止まったような沈黙に包まれているチームがあった。
五人の思いは決して交わらず、まるでねじれの位置にある直線のように、視線すら合わない。嫌悪、厄介、困惑、罪悪。負の感情が渦巻き、一触即発の空気が漂う。
「……ダンスパーティー以来ですわね。クレーさん」
「ハァ……無理して畏まるのはやめてくださらない? アーシュさん」
「あ、あの……アーシュさん。だ、大丈夫ですか?」
「……クレー。ここで騒ぎを起こすのは得策ではない」
私、クレー、ニエラ。そして、気まずそうに目を逸らすブラク。
この世の地獄を凝縮したようなメンバーの中に、一人だけ――キラキラとした「ワクワク感」を全身から放っている少年がいた。
「アーシュ嬢と一緒の授業なんて、最高に楽しみだぜ! 今日はよろしく頼むな、みんな!」
四人が、絶望的な気分でエルドレッドの言葉に頷く。
この瞬間、初めて私たちの意見は一致したはずだ。
((((楽しめるわけあるか、この状況を!!))))
意図せずして、交わるはずのなかった五本の直線が、最悪の形で一点に重なった瞬間だった。




