たからもの
小さな島の森の奥、うさぎ達が暮らす町がありました。
そこで暮らす白黒模様のぶちうさぎさんは、運動はちょっぴり苦手だけど、外で遊ぶことが大好きなうさぎでした。
ぶちうさぎさんは森の中にある、お気に入りの小高い丘の上でお昼寝をしていました。
白詰草のじゅうたんに寝転ぶと、背中はふかふかのベッドの様で、耳の先には柔らかい草が当たって、くすぐったい。
どこまでも広がる空には、ぷかぷか浮かぶ白い雲がゆっくりと流れていきます。
ぶちうさぎさんはいつの間にか眠ってしまいました。
「はっ!寝ちゃった!」
辺りはすっかり日が暮れて、空には三日月が浮かんでいます。
「急いで帰らなきゃ。」
小高い丘を降りようとした時、ぶちうさぎさんの足元に、ぼんやりと光るものがありました。
そっと手を伸ばし拾い上げると、それは小さな石でした。
「きれい。」
手のひらに収まる小さな石は、月明かりを通して銀色に光っていました。
ぶちうさぎさんは、小さく光るその石がとても気に入りました。
ぶちうさぎさんは、その石と一緒にお昼を食べたり、空を眺める時も、川で遊ぶ時も、寝る時もいつもそばに置いていました。
そこに、たれ耳うさぎさんがやって来ました。
「何持ってるんだ?」
たれ耳うさぎさんは、ひそかに、ぶちうさぎさんが持っている、石のことが気になっていました。
「少しだけどね、銀色に光るんだよ。」
ぶちうさぎさんは、あの日見た月明かりに光る様子を教えました。
しかし、どこからどう見ても石ころにしか見えず、光ると言われても信じられなかったたれ耳うさぎさんは、友達の黒うさぎさんと、茶うさぎさんを誘ってその丘へと行きました。
3匹が丘に着いた頃には、夕陽で空はオレンジ色に染まっていました。
「何も光ってないじゃないか!」
「何処にあるんだろう?」
「草だらけで見えないのかも。」
同じ石を見つけるために、白詰草のじゅうたんをワシワシとむしった3匹でしたが、光る石を見つけることはできませんでした。
「探したけど、無かったよ!」
「本当はただの石なんだろう!」
「嘘つくな!」
3匹に責め立てられたぶちうさぎさんは、再びあの丘へと行きました。
そこには、一面に咲いていた白詰草があちこちはげて、石を掘った穴だらけの荒れた丘になっていました。
「ごめんね。今、直してあげるから。」
掘られた穴を埋め、むしられた花達は花冠にして近くの木に引っ掛けてあげました。
ぶちうさぎさんは、たれ耳うさぎさんに自分の石をあげることにしました。
「これをあげるよ。」
「いいの?ありがとう!」
「どういたしまして。」
たれ耳うさぎさんは、貰った石を月に照らして見ると、ほんのりと月明かりが透けて、光っていました。
ぶちうさぎさんは、嘘をついていなかったと分かりましたが、思っていたよりも光らず、がっかりしてしまいました。
セミの声があちこちから聞こえる夏がやって来ました。照りつける太陽に、うさぎ達は川の水浴び場で遊んでいます。
ひとりで、川の下流にやって来たぶちうさぎさんは、ひとつの果実を見つけました。
それは見上げるほど背の高い木に実っています。ぶちうさぎさんは、一生懸命手を伸ばしましたが到底届きません。
ツヤツヤで大きく、まるでお月様のような黄色い果実は、見れば見るほど素敵に見えました。
でも、
「あの実がもっと大きくなったらどうなるんだろう?」
そう考えたぶちうさぎさんは、その実をもぎ取ることをやめました。
それからというもの、ぶちうさぎさんは大きな木の下から果実を見上げ、青空に浮かぶ大きな満月のように楽しんでいました。
この木陰には、夏の暑さの中でも涼しい風が吹いて、ぶちうさぎさんは、とても心地よかったのです。
ある時、黒うさぎさん、たれ耳うさぎさん、茶うさぎさんが遊んでいると、大きな木の下で空を見上げる、ぶちうさぎさんの姿を見つけました。
「いつもひとりぼっちで何してるんだろう?」
「いつも何考えているか分からないよね。」
「あとで見に行ってみよう。」
ぶちうさぎさんが居なくなった後、同じ木の下から見上げると、そこには大きく輝く果実が実っていました。
ゴクリと唾を飲み込んだ3匹。これ程までに大きな果実を見たことがありませんでした。
「もぎ取ってみよう。」
黒うさぎさんと、たれ耳うさぎさんと、茶うさぎさんは、力を合わせ果実をもぎ取りました。
3匹は地面に置いた大きな果実を囲み眺めました。
「採れたね。」
「大きいね。」
「どうしようか?」
木の上で輝いて見えた、抱えられないほどの大きな果実を手に入れたのに、どうも嬉しくない3匹。
考えた3匹は、その実を川へと捨ててしまいました。
「無い!」
次の日、ぶちうさぎさんが木の下へ行くと、昨日まで大きく実っていた果実は、ありませんでした。
「もしかしたら、見ないうちに完熟して落ちたのかも。」
ぶちうさぎさんは辺りを探しました。
茂った草の中も、大きな木のうろも、誰かが掘ったトンネルも。
しかし、どこを探しても見つかりませんでした。
「疲れた。」
ぶちうさぎさんは、大きな木の下で少し休むことにしました。
ふと見上げると、木の葉の隙間から真っ直ぐに降り注ぐ夕陽が、まるで星のように輝いていたのでした。
「満月の実で見えてなかったんだ。」
ぶちうさぎさんは美しい木漏れ日に、うっとりしました。
いつものように、森を散歩するぶちうさぎさんは、地面いっぱいの色とりどりの木の葉を拾ったり、小さなきのこを探したりしていました。
みんなが遊んでいる広場に着くと、少し離れて、ぽつんと遊ぶグレーうさぎさんを見つけました。
「何してるの?」
「これを集めてた。」
グレーうさぎさんは、濃い赤色の硬く甘い香りがする実を、両手いっぱいに抱えていました。
「手伝おうか?」
「大丈夫。」
グレーうさぎさんは、ひとりで集めることが好きなようでした。
考えたぶちうさぎさんは、細く長い葉っぱを集めてかごを編みました。
「よかったら使って?」
グレーうさぎさんに渡すと、驚いたようでした。
「ありがとう。すごいね!かご、編めるんだ!」
「うん!」
その日からグレーうさぎさんと、ぶちうさぎさんは一緒に遊ぶようになりました。
たくさんの木の実を集めたり、小さな秘密基地を作ったり、ふたりでやることは、何でも楽しかったのです。
そんな様子を見ていた、黒うさぎさんと茶うさぎさんが近付いてきました。
「グレーうさぎさん、一緒に遊ばない?」
誘われたグレーうさぎさんは、
「ぶちうさぎさんも一緒に遊ぼう。」
と誘ってくれました。
グレーうさぎさんはとても人気者でした。
高く跳べるし、足も速いし、穴掘りも得意でした。
みんなで遊ぶのはとても楽しかったけど、帰り道はなんだか、モヤモヤした気持ちでした。
次の日も、グレーうさぎさんは遊びに誘われていました。
その次の日も、そのまた次の日もグレーうさぎさんは、みんなと一緒に遊んでいました。
いつの間にか、ぶちうさぎさんはひとりぼっちでした。
だんだんと夜が長くなってきた頃、大きな果実を見つけた木の下で、ぶちうさぎさんは空を眺めていました。
風がぴゅーっと吹くと、耳の先がじんじんしました。
すると、白うさぎさんが話しかけてきました。
「ぶちうさぎさん、隣に座ってもいい?」
真っ白できれいな白うさぎさんは、ひとりのようでした。
「みんなと遊ばないの?」
「空を見るのもいいなと思って。」
嬉しくなったぶちうさぎさんは、白うさぎさんを連れて、お気に入りの小高い丘へと行きました。
「前にここで、ちょっぴり光る石を見つけたんだけど、もう無いかな?」
あの日見つけた、月明かりに光る石を探してみましたが、丘の上は雪に埋もれていて、見つけられません。
ぶちうさぎさんは、どうしても白うさぎさんに石を見せてあげたくて、雪を掘ろうとしました。
「ちょっと待ってて。今見つけるから!」
すると、白うさぎさんはカラカラに乾いた花冠を被って言いました。
「見て!素敵な王冠!」
それは、ぶちうさぎさんが前に作って木に引っ掛けたものでした。
もう随分と枯れてしまって、花も葉っぱもついていないのに、白うさぎさんは嬉しそうです。
ぶちうさぎさんは、お気に入りの丘を掘るのをやめました。
「ごめん。見つけられないや。」
「大丈夫!ここは静かでいい所だね。」
ふたりは真っ白な雪の上で、小さなかまくらを作りました。
ぶちうさぎさんは、光る石がどんなだったのか、大きな果実を見たこと。白うさぎさんとたくさんお話しをしました。
ぶちうさぎさんは、ふと、白うさぎさんは自分と一緒にいて楽しいのか気になりました。
「白うさぎさん、楽しい?」
「楽しいよ。ぶちうさぎさんは、綺麗なものをたくさん知っているから。見たことないものとか、知らない世界を教えてもらえるみたいで、ワクワクする。」
ぶちうさぎさんは、白うさぎさんの言葉がとっても嬉しくて、耳がむずむずしました。
「そろそろ帰ろうか?」
「そうだね。また明日!」
ぶちうさぎさんは、初めて遊ぶ約束をしたのでした。
かまくらの外は、いつの間にか日が暮れて、空には大きな満月が浮かんでいます。
「うわぁ〜!!落ちてきそうなくらい大きなお月様だね。」
「手を伸ばしたら届いちゃいそう!」
ぶちうさぎさんは、雪の冷たさを忘れるくらい、心が温かくなりました。
ぶちうさぎさんは、一番の宝物を見つけたのでした。
そして、ずっとずっと、大切にしました。




