令嬢は強いほうがいいのです!
「――アリア・フェルン、貴様との婚約は破棄する!」
王城の大広間に、王太子セドリックの冷たい声が響き渡った。
集まった貴族たちの視線が一斉に私に注がれる。
理由は――明白だ。
私は“強すぎる正義感”のせいで、王太子の思惑を何度も覆してきた。
「お前は……強すぎる。民を助けるために勝手に動き回り、役人の不正を暴く。そんな正義のヒーローみたいな、女は王妃にはふさわしくない!そんなものは貴族、いや、女がやることではない!」
そう言って、彼は隣に立つ控えめな令嬢を見やる。
「彼女のように、おとなしく、俺に従い、男をたてるような者こそが王妃として相応しい」
……なるほど。
“強すぎる”という理由で婚約破棄、ね。
私は微笑みを浮かべ、静かに一礼した。
「わかりましたわ。では――どうぞご自由に。国の未来はあなた方にお任せします」
その瞬間、セドリックの顔が青ざめる。
彼が知らないだけ。
私の“正義感”が、どれだけこの国を救ってきたかを。
その時、城門の方から騒ぎが起こった。
――王室金庫を狙う不正貴族たちが暴れている。
「……またですか」
私が指を鳴らすと、すぐさま衛兵たちが動き、悪事を働いた貴族らはあっという間に拘束された。
貴族たちは息を呑み、セドリックは完全に口を開けたまま固まっている。
――強すぎるのは、性格も、行動力も同じ。
でも私は、自分の信念に従うだけ。
「ふふ……折角、婚約破棄されたんですもの。前々から誘われていた隣国の役所にでも行こうかしら?」
そう呟いた時、背後から懐かしい声がした。
「アリア!」
振り返ると、そこにいたのは――隣国の王子、リアン。
幼い頃からの友だちであり、唯一、私の正義を笑わず受け入れてくれた人。
「まさか、あの愚王子が舞踏会で婚約破棄をするとは思わなかった。止められずすまなかった。でも……あんな奴から解放されてよかった。アリア、うちの国に来ないか? 好きに生きていい」
彼の優しい声に、胸が熱くなった。
「リアン……ありがとう。是非、行かせてもらうわ!」
「それと……しばらくしたら、俺と結婚してくれないか?」
「え!?」
「返事は、落ち着いてからでいい。でも、俺はずっとお前が好きだった」
思わず吹き出して笑ってしまう。
「ふふっ……ふふふ!あはははは!」
驚いたように赤面するリアンを見て、ますます笑いが止まらない。
返事は――もう決まっている。
でも今は、彼の言葉に甘えさせてもらおう。
淑女らしからぬ笑い声をあげながら、私はリアンの手を取って宮殿を後にした。
もう、この国の窮屈なルールには縛られない。
私の“自由”と“未来”が、今ここから始まるのだ。
◇◇◇
数ヶ月後――。
王宮から王都へ、王都から地方の都市へと噂が静かに広まっていた。
「正義感が強すぎる令嬢が、実は王国を何度も救っていたらしい」と。
民の信頼を失った王太子は、アリアとの婚約を破棄したことを後悔し、
噂を聞いた民たちは、この国を見捨てて離れようとしているという。
もう、この国は滅びるだろう。
そんな中、噂の令嬢、アリア・フェルンは隣国で好きなように暮らして幸せに笑っている。
◇◇◇
半年後。
リアンの国の城のバルコニーで、私は彼と向かい合う。
「アリア、あの時の返事を聞かせてくれないか?」
「ええ。――あなたのお嫁さんになってあげる!」
小さい頃から、ずっとなりたかったもの。けれど叶わないと諦めていた未来。それが今日叶う。
『隣国の王子で大切な幼馴染のお嫁さん』ああ、なんて今日は素晴らしい日なのだろう!
滅びた王国よりも、偽りの栄光よりも、
この“自由”と“幸せ”こそ、私の誇りだ。
――そして、二人の新しい物語が始まった。
終わり




