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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ホラー・ホラー風味

呪われた泉

作者: まい

夏のホラー2025投稿用

 日本の何処かにある大きな自然公園には、負の遺産がある。


 昔、日本が好景気だった頃に行われた雑な地域振興を目指した、謎の政策。


 各地方自治体に1億円を配り、その金で村おこし町おこしをしなさいと丸投げした、謎の政策。



 その政策により受け取った1億円をどうするかの答えの1つとして、とある地域の行動。


 日本の豊富な水源の1つであり官民ともに利用していない川とつながる水深が浅めな泉を整備し、大きくメンテナンスフリーな自然を利用した、プールを作ったのだ。


 泉は湧き水であり、源泉かけ流し温泉みたく水が濁るなんて無いから安心。


 泉の近くに小屋をいくつか建てて、水質検査や水難に備えた監視小屋や子供達の着替えや休憩を行えるようにもした。


 この地域には子供が安全に遊べる渓流や沢が無いので、ここで自然に触れてもらおうとの目論見(もくろみ)だ。


 もちろん夏の水遊びだけでなく、それ以外の季節にはその泉近辺で生息する野生生物の観察が出来る。


 冬にスケートができれば良かったが、湧き水の影響でスケートができるほど厚い氷が張らなかったので断念した。


 当時はまだ自然公園指定はされておらず、このプールは自然の有効利用として注目された。


 この施策は成功し、近くには泉の利用者を狙った屋台が夏に常設される位には地元で認知された。


 が、好調だったのは10年と少しまでだった。




〜〜〜〜〜〜




「なんかな、運営を開始して10年位でどこの誰か分からない、子供の水死体が朝早くに沈んでたのが発見されたんだって」


「うわ、かわいそ」


「そうだな、かわいそうだな。 で、それからその泉は封鎖されたままなんだってさ」


「そうだね。 だって目の前にその泉へ行ける道への立ち入り禁止看板があるもんね」


「ああ」


 そういう事である。


 この怖い物知らずの男子学生2人は、まるで飛んで火に入る夏の虫の如く泉の近くまで来ていた。


「ところで、泉がそんな程度じゃ閉鎖されないよね? 別で閉鎖しなきゃいけないナニカがあったんでしょ?」


「そうだな」


 なんて会話をしながら、閉鎖されている道へ入り込む隙間を見つけ出し、作り出し、くぐっている。


「なんか水死体の発見以降、泉が呪われたって話だな」


「呪われちゃったんだ?」


「ああ」


「現代で呪いなんてあり得ないよね。 どっかの漫画の、浴びたら冷水温水で姿が変わっちゃう泉かな?」


「…………あー。 否定したいが、どうやらそれ系だってさ」


「まじ?」


「マジ。 だから余計な被害が出ないよう、閉鎖したらしい」


「わお」




〜〜〜〜〜〜




 2人の男子学生は、(くだん)の泉にたどり着く。


「ここが呪◯郷?」


「やめろ」


「記録では何に変身したの?」


「1例だけだが、シカになったらしい」


「へえ。 なんで記録に1例しか無いのかな?」


「いや、そりゃ1例だけでも人間を辞めちまった記録があったら、即閉鎖するだろ」


「え〜? 多分ウラで何度もやってるよ」


「ウラの事なんて知らねえよ。 俺はシカになりたくないから、少し離れているここから見るだけで十分だ」


「え〜? もったいない。 浴びちゃおうよ、メンテフリーってだけあって綺麗(きれい)な泉だしさ」


「いいや、俺は遠慮しておく」


「ぶ〜。 いいもんねいいもんね」


 泉に到着してワチャワチャしている2人だが、その片方から不穏な空気がにじみ出た。


 少し邪悪なイタズラっ子の顔をして、泉から離れている男ににじり寄る。


「あ? おい止めろ、泉に突き落とす気だろ」


「正解♪」


 にじり寄る方から距離を取るように後退(あとずさ)るが、その様子を見てもう片方はもっと楽しそうな顔になる。


「お前、何をする気だ」


「ぬふふふ♪」


 イタズラっ子は背中へ回り込むように動く。


 もちろん寄られる側も背中を見せないよう、後ろを向く。


「気持ち(わり)い、近寄るな」


「ぐへへへへ♪」


 そしてそのまま、真っ直ぐゆっくりにじり寄るイタズラっ子。


 そして寄られたくないので、寄られた側はその分だけ後退る。





「とうっ♪」


「…………あっ!!?」


 イタズラっ子が突き飛ばそうとしてきたので、寄られた側が大きく後ろへ下がったのだが、何かに気付いてあっと声を上げる頃にはもう遅かった。


 わかりやすく言うと、寄られた側はイタズラっ子に誘導されて泉の(ふち)まで来ていたのだ。


「しまっ………!!」



 ドボンッ!



 泉に落ちないよう回避する手段など無く、あえなく泉へ転落。


「ホントにシカになるのかな? ワクワク♪」


 イタズラっ子はどうやら、倫理観がおかしくなっているらしい。


 ここまで一緒にやってきた友達を実験の犠牲(ぎせい)にしても、興味や好奇心が勝っているようだ。


「なんだろ……トカゲ? シカじゃないの?」


 イタズラっ子が(へり)で四つん這いになって泉を覗き込むと、そこには()()()がいた。


 漫画みたいに、可愛くデフォルメして人語の分かる知性ある動物ではなく、リアルな動物に変身したようだ。


「えー? あの漫画みたく人間に戻れるのを見越して泉に落としたのに、違うの?」


 なんて言って勝手にガッカリしているイタズラっ子だったが――――


「――――うーん、残念。 これからどうしよ? 僕だけ戻ると問題になるよね? 何か考え――――」


 ――――立ち上がろうとした所で変に力がかかったのか、(へり)が崩れてイタズラっ子も泉へドボン。



 するとイタズラっ子はハエへと姿が変わり、泉の水に捕らわれて飛べなくてもがく。


 ドボンした衝撃から逃げるように離れたイモリが元いた所へ戻って来ると、ハエが水面でもがいていた。


 それをイモリが丁度いいとばかりに捕食し、泉には平穏だけが残った。






 呪泉◯を参考に、ひとつ捻ったネタ。


 あっちは動物になるけど、人語は理解するし知性も理性もあるしで、見た目が変わるだけ。


 だったら身も心も動物そのものになってしまう泉なら? となりました。

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― 新着の感想 ―
さて、最初の犠牲者「どこの誰だか分からない人間の子ども」は、何だったんでしょうねぇ…? 無戸籍の隠し子で親に溺死させられて、恨みから「人でなし」に変化させる力に目覚めた…。とかだと後味悪くて良き。(…
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