the summer
列車に揺られ、外を眺めると幼い頃見慣れた景色が近づいてくる。
その体に絡みつくような重たい蝉の声。
しかし、列車の中は冷房の冷えた空気で満たされている。
駅に停まるたび、生ぬるく重苦しい空気が空間を侵食する。
中学の頃毎日こうやって通学していたことを思い出す。
半袖短パンの体操着、なおそれでも暑苦しくて。
期待と不安をたたえた最初の日。
喜びと寂しさを孕んだ最後の日。
日々襲い来る勉強や部活という荒波に憂鬱とした気分になりながらも重たいリュックを背負って歩いた通学路。
そう幼き日を回顧するのも束の間。
音を立てて列車の扉が開き、車掌が次の駅の到着を告げた。
私はおもむろに座っていた席を立ち上がり、キャリーケースの取っ手を掴む。
1240円と整理券とを出口で待つ車掌に手渡す。
もう21世紀となって四半世紀が過ぎたというのに、未だ自動改札や券売機すらも導入されていないとは。
地元が田舎だというのは不便だ。
だが、それもいい。
駅を出ると雨風を凌ぐことの出来る待合所も撤去され、ただ長く伸びるコンクリートの一直線のホームがあるだけだ。
駅員もいない、所謂無人駅だ。
私が中学の頃も別に駅の改札や駅員がいたというわけではないので、そこまで気にはならない。
ほぼトイレとしての機能しか残っていない駅舎のようなものを横目に、私はキャリーケースで少々耳障りな音を奏でながら、すぐそこの実家へと帰省する。
当作品は気持ち悪さと読みにくさを目指します。
もし続きが気になるとか、この作品面白いとか思っていただければ★やブックマークをお願いします。