俺、馬に怒られる。
短めです。
のそのそ馬小屋に近づくと、「カエルだ」「カエルだ」と色めき立つ。
ハインリヒは栗色の尻尾をぶるんと振って、耳をぴこぴこ小刻みに動かしている。
なんか、こう、俺が小さくなってるだけなんだが……
でかいな、馬って。
若干怯みながら「ハインリヒ」と声をかけると、彼はぱっと嬉しそうな顔になり、前足が跳ね上がる。つぶらな瞳はキョロキョロ辺りを見渡している。
「ご主人だ! ご主人だ!」
うっそいつもこんなに喜んでたの? 俺の馬かわいすぎない?
「ここだ! 下だよ! カエルになっちまったんだ!」
バッチリ目が合った。
ハインリヒは……
「なにそれ!!!」
と叫ぶと横倒しに倒れてしまった。
「ハインリヒ、ハインリヒ」
うん、息はしてるし怪我はしてない。
首筋に乗っかりぺたぺた触っていると、ぱちっと目が開いた。
「ご主人……なんでカエルになんて……」
ゆっくり起き上がる彼の上でバランスをとりながら、経緯をかいつまんで説明する。
「ご主人……」
ハインリヒは激怒した。
「だからぼく言ってたじゃん!! あのひとのこと
キライだって! いっつもあのひとが来たら機嫌悪くなってたじゃん! すねてるだけだって流してたからこんなことになるんじゃん!! 会ってる時だってあのひとお金の話しかしてないのに気づいてないし!! それを全部ごはんの話だと思って変な返事ばっかりするし!! バカバカ!! ご主人のバカバカ!!」
「おい、ハインリヒ……」
「どうしよう、ご主人がカエルになっちゃった」
なんだろう、ハインリヒと触れている部分が温かくなってくる。
「どうしよう、悲しいよう。ご主人がカエルになっちゃった! どうしよう、やだよやだよ」
ハインリヒの胸が光っている。
「やだよぉやだよぉかなしいのはいやだよぉ」
光はどんどん大きくなり、そして、ハインリヒが大きく身体を震わせた瞬間、「ガコン」という大きな音が鳴り、同時に光がぴたりと消えた。
「今のは何だ!? ハインリヒ、大丈夫か!?」
慌てて愛馬の身体をあちこち触る。彼はちょっとぼうっとしていたが、我に返ったように頷いた。
「急にむねのところが熱くなったの。でももうだいじょうぶだよ」
落ち着いた口調にほっとする。
「とにかく、あのひとにいっぱいごめんなさいして来なよ」
「あ……ああ。エサのことは心配するな、宿の親父に頼んである」
「うんわかった! 気をつけてね!」
変な光と音のことは気になるが、俺は魔女の住む山を目指して歩き出した。
まさか2週間かかっても辿り着けないとは思わなかったが。
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