カエルさんをお持ち帰りですわ。
雨蛙ってひやっとしてて気持ちいいですよね。
彼が再び水にもぐると、すぐに金のマリがゆらゆら浮かんできます。
まあ、お口にくわえてらっしゃるのね。でも大きいから大変そう。
お手伝いしようと思いましたが、余計なことをしてお邪魔になってはいけません。そわそわ伺っていると、陸に上がるのにご苦労なさっているご様子だとお見受けしました。
「失礼いたします」
聞こえるかどうかは不明ですが念のため声をお掛けし、水面に両手を差し入れます。
左手でマリを、右手で彼の身体にそっと触れますとビクッと身体が動きました。つるつるしています。
そのまま持ち上げようかと思いましたが身をよじってしまいます。
「ごめんなさい、やはり失礼でしたね」
くりくりした瞳でぽかんとこちらを見つめてきます。もしかして、恐らくお声からして男性の方ですし、殿方のお身体に勝手に触れるはしたない娘だと思われたでしょうか。
わたくしは恥ずかしくなって逃げ出しそうでしたが、2度目のお礼を申し上げていないことに気がつき、慌てて顔を上げました。顔が赤くなっていないでしょうか。
「1度ならず2度までも助けていただきありがとうございます」
「……いえ、2度目は俺を助けてくださったんです。おあいこです」
そうでしょうか? カエルさんはプルプル頭を振るとちょっと改まって言いました。
「俺が、カエルが気持ち悪くないんですか?」
まあ、そんなことを気にされてたのね。確かに、カエルが苦手と言う女性は多いでしょう。うちのメイドもわたくしが雨蛙と遊んでいるのを見てきゃあと言ったものがおりましたわ。
わたくしはふふんと胸を張ります。
「わたくし、幼少期からずっとカエルさんとは遊び仲間ですわ」
雨蛙なんかちっちゃくて可愛らしいですし、手の平のなかに閉じ込めるとぴょこぴょこして楽しいんですよ。
彼はなんとも言いがたいお顔をされました。
わたくしはちょっと不安になります。
「……もしかして、皮膚に毒をお持ちでしたか?」
「え! 俺って毒ガエルなんですか!?」
まあ、ご存じないものなのね。
「毒がある生き物はもっと強い色をしていると思いますわ」
その時、鐘の音が響き渡りました。17時です。
それにハモるように、なんだか変な音が聞こえて来ます。
音の方向に目を向けると、カエルさんがお腹を押さえてうずくまっています。
「まあ! どうされました!?」
カエルさんの脇の下に手を差し込み、くるっとしてお腹を確認します。怪我などはなく、白くてつるっとしてますわ。急な動きに後ろ足がぴょんっと動きました。
「あの、すみません、大丈夫なので下ろしてください!」
びょこびょこ暴れて逃げようとします。
「腹が、減っただけなんです!」
お礼を思い付きましたわ。
「ではこのままわたくしの家までご一緒しましょう。夕御飯をご馳走いたしますわ」
抱っこの許可はどうしても得られませんでしたので、二人並んで帰路につきました。
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