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鴉の囀り  作者: 武田 和紗
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第三羽

メンバーが揃ってきました。

第三羽


禁断の壷のネット住人の中で、糞コテの一人である蚊食鳥かくいどりは降って沸いた「祭」に興奮していた。

糞コテ、とは匿名性が売りである、と言うより匿名であることが推奨される禁断の壷において、わざわざコテハン(固定ハンドルネーム)を名乗っている輩のことだ。

大抵コテハンは荒らしや祭の中心になることが自然多くなるので、愛と蔑みをこめて「糞コテ」と呼ばれるのである。

「よっしゃあ、盛り上げてやろうじゃん」

据え置きのPCモニターの前で、独り言を言う口元はにやにやとしている。

禁断の壷でも、アングラを好む者たちが集うカテゴリ掲示板は、「DEEP」と呼ばれ他板に迷惑をかけたり、祭を起こしたりする。

それでも彼らが本格的に排除されないのは、引き時をわきまえていること、また愛すべき要素があるからだった。

蚊食鳥もそんな「DEEP」の住人、通称「DEEPER」の古株だった。

蚊食鳥を含めたDEEPERたちは、既にJackdaw_hamletの事件に目をつけて、祭を引き起こそうとしていた。

既にDEEPERたちは、いくつかスレを立ててこの祭をいかに盛り上げるかを話し合っていた。

ほぼ全員が、書き込みをする際には匿名状態なので、やはり蚊食鳥のようなコテハンは浮いていた。

ざらっと、レスを流し見する。

Jackdaw_hamletが起こしたことは本当なのか。その経緯、起こした理由について検証がなされているが、大半がふざけたレスだったり煽り合いだったりした。

オカルト板にも出入りしているDEEPERが、これは霊の仕業だ、とわめいている。

そんなレス群を見て、蚊食鳥は鼻で笑った。

何が霊の仕業だ。何が動機だ。

祭を動かすのは自分だ。それが出来るのは自分だ。

そんなことを思いながら、画面をスクロールしていると最近変えたばかりのスマートフォンがメール着信を知らせてきた。

「あれ、キューちゃんじゃん。そっちからとは珍しい」

メールの送信者は、オンライン上の友人であるキューちゃんというHNの男だった。

DEEPの安価スレ(指定されたレス番号の行動をしたりさせたりする遊びのスレ)で、成り行きで連絡先を交換したのだ。

もちろん、顔をあわせたことは無い。だから、キューちゃんは蚊食鳥の顔を知らない。

しばらく気が合って、連絡しあっていたがここ1ヶ月程ご無沙汰だった。

メールの文面を読んで、蚊食鳥は凄まじい速さでキーを打ち返信した。

「まーじでかー。何か面白そうじゃん、協力しましょうそうしましょう」

そう言って、再びPCモニターにかぶりつきになった。


レイジのDM欄にキューちゃんからのメッセージが更新された。

『お待たせ。例の友人、協力してくれるって。むしろ探してくれるらしい』

ぼうっと、コーラを飲んでいたレイジはキューちゃんに返信した。

『マジで。お前の友達すげえな』

『まあな。あ、念のためお前のメアド知りたいって。いい?』

『いいよー。ってか俺のメアド知ってたっけ?』

『しらね』

『おいおいおいおい』

『でなきゃDMで会話なんぞせんわ!』

『逆切れかよ!まあいいや、今更だけど交換するぞー』

中学で疎遠になって以来、Tmitterが繋ぎ直してくれた縁だったが、それ故に最もプライベートなメールアドレスの交換をしていなかった。

そこでやっと2人はお互いのメアドを知るに至ったのだった。

ややあって。

見知らぬアドレスからメールが届いた。

『よろしゅー☆』

件名から察するに噂の、凄腕の友人らしかった。

『初めましてー。キューちゃんの友人の蚊食鳥でっす。何か面白そうなことやってるね!混ぜてくださいな!』

ノリが非常に軽い。頭の中身も軽いのだろうか。

レイジも、シンプルに返信をした。

すぐさま、蚊食鳥から返信が来る。異常に早い。

『おけおけ!んじゃま、一応調べたからさー、キューちゃんとも同時で喋れん?スカイプとか入ってない?』

スカイプとは、ネットを利用して通話やチャットが出来るアプリだ。

なし崩しに、初対面の相手とスカイプ通話をすることになってしまった。

奇妙な気持ちになっていると、キューちゃんから携帯メールが来た。

『レイジ、びっくりしただろ』

『すっげえびっくりした。いいキャラしてんのな』

『フランクなせいか、気を使わんでいいのよ。あ、でも俺、スカイプ初めてだわ』

『え、蚊食鳥さんとってこと?』

『声聞いたこともないしもちろん会った事もない』

『まーじかよー!どういう友人関係だよ!』

レイジが突っ込みを入れたところで、グループ通話の着信をスカイプアプリが告げた。

マイクのヘッドセットをして、受話器を取るようにクリックする。

『やっほー!』

耳に飛び込んできたのは、甲高いまさに黄色い声と言うべき叫び声だった。

『うわっびっくりした』

次に耳に入ったのは、懐かしいキューちゃんの声だった。

『はじめましてーレイジですー』

何となく気だるげに挨拶をすると、奇声のような悲鳴のような声がわちゃわちゃと響いた。

『いやーまさか』

『うんマジで』

何やら訳の分からないことを言っている蚊食鳥を放置して、キューちゃんとレイジの声が揃う。

『『まさか女の子だったとは』』

イヤホンの向こう側で、えーうっそーしらなかったっけー?と素っ頓狂な声が響く。

レイジは少し、耳からイヤホンを遠ざけた。

『俺も全然知らなかった』

キューちゃんの声はよっぽど驚いたのか、ハスキーに聞こえる。

『まーあたし、基本性別言わないしー女バレすると叩かれるしさ!』

胸を張っているような語調だ。

しかし、年の頃は幾つくらいなのだろうか。随分と若い声に聞こえる。

少なくとも、レイジたちよりは年下な気がした。

『じゃあキューちゃんとレイちゃんさー』

レイジはレイちゃんに決定したらしい。

『あたし今から、文字チャ(スカイプの文字チャット)でJackdaw_hamlet、えっとHNは若堂だっけ。

この人にフォローバックされていない人のリストを送るよ!』

スカイプアプリの発言欄に、テキストファイルの送信を示すアイコンが現れた。

「ファイルを保存する」をクリックして、送られたファイルを展開した。

アカウント名、アカウント、プロフィール、フォロワー・フォロー数、そして何故かは知らないがツミートの傾向まで書かれている。

人数は意外と少なく、7名のようだった。その中に、レイジとキューちゃんの名前もあった。

キューちゃんのツミート傾向はシンプルに、「単語が多い」、レイジは簡潔に「鬱」と書かれていた。

我ながら恥ずかしい。人知れずレイジの顔が赤くなった。

そんなことも露知らず、蚊食鳥は喋り続けている。

『あたしはついったーやってないからさ。どういう関係とかは全然わかんないけど。案外少ないねー』

でも、必ずフォローバックすると銘打っている若堂のプロフィール欄から考えると、多いのかもしれない。

レイジがそう言うと、蚊食鳥は唸った。

『えー、そーなんだ。絶対、って言いつつ、7人も外してる、って考えると多いか。人為的なミス?それとも故意?』

彼女はうんうん唸り始めた。

キューちゃんは、肩をすくめるような調子で、

『面白いだろ、この子』

と言った。それには、同意した。

蚊食鳥がまだ唸っているところ、レイジは疑問をキューちゃんにぶつけてみた。

『そういやさ、若堂がフォロバする時って、すぐなのかな。それともタイムラグがあるのかな』

『あー、相互フォローしてる人が若堂をフォローした時はすぐだったよ。光の速さでフォロバしてくれた!って喜んでたから覚えてる』

『光の速さかー』

『フォローしてすぐだったみたいだし。すぐ反応したのがちょっと怖いよな』

『モニターに張り付いてるんじゃね?』

『粘菌みたいにか』

『それは嫌だわーきしょいわー』

2人で盛り上がっていると、ちょっとーあたしを置いてかないでよー、と蚊食鳥が会話に戻ってきた。

『今の2人の話であたし的には、若堂はわざとこの7人を外してるって確信したわ』

マジでかー、とキューちゃんが言うと、ふふん、と鼻息が聞こえた。

『伊達にDEEPERやってないわよう。この祭、とことん上げてやるよ!』

『DEEPER?あの禁断の壷の?』

レイジの声に、蚊食鳥の声が大きくなった。

『そーだっ。禁壷DEEPの糞コテの華と言えば、この蚊食鳥様よっ!』

見たことは無いが、彼女のドヤ顔が眼前にあるような気がした。

キューちゃんの名を恨みがましく呼ぶと、何故か彼は慌てた。

『いや、そもそもDEEPの安価スレで縁があったんだよ・・・』

『しかも安価スレかよ・・・。何か名前に聞き覚えがあると思ったんだ』

ため息交じりのレイジに蚊食鳥は、

『お、DEEPERじゃない人にも名前が知れてるとはあたしも大したもんだ!』

『まとめブログでよく名前見るからなー』

ふふん。彼女の鼻息は荒い。自己顕示欲の強い馬鹿だな、とレイジは胸中評価した。

『この前の、ヒーロー変身糞アプリ事件の時もあたしはリアルタイムでいたんだー。あれは楽しかった』

その事件は、情弱な方であるレイジでも知っていた。

キューちゃんは、あーあの何とか仮面の、とうろ覚えに知っているようだった。

流石、糞コテと自負するだけあって祭の中心には必ずいるらしい。

それが、けしていいこととは思わないが彼女、いや彼女たちの中では最大のステータスなのだろう。

『今回も、つみったーに登録してみたよ。アカウントはこれ』

と言うと、彼女はチャットでアカウントを送りつけてきた。


@badbatbitbat


悪いコウモリがバットを噛んだ?

『とりあえずフォローしておいてよ!』

蚊食鳥の声に、レイジとキューちゃんは早速彼女をフォローした。

『君等が最初のフォロワーだよ!』

あたしは若堂と違って仲間外れはしないよー、と妙に明るい声で言う。

その言い方に、レイジはどこか引っかかった。

『あー、やっぱりこの2人だったかー』

単語と鬱。キューちゃんとレイジのツミート傾向を端的に表した、あまり嬉しくない称号。

自分もだが、キューちゃんが苦笑する雰囲気が伝わってきた。

『でさー、どうする?』

『どうする、って?』

蚊食鳥の声に、レイジは首を傾げる。

『だから、これからだよー。フォロバされてない奴ら見つけて、どうすんのさ』

あー、とキューちゃんが声を上げる。何も考えていない風だ。

『俺は、ちょっと考えてることがある』

『レイちゃん、何?』

『俺は、フォロバされてない奴らとの共通点を探そうと思う』

『ほーう』

『だから、今から全員に接触してみるよ』

蚊食鳥が、クス、と笑った。

『了解。協力するよ』

たーのしくなってきたー、と蚊食鳥は、ケタケタと笑った。

おかしなところは見つけたら直します。

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