第十二羽
第十二羽
結局、ネカマのありすの死因は特定出来なかったのか他殺とは認定されなかったようだ。
警察も帰り、覚悟していた事情聴取もレイジたちは受けなかった。最も近い席に座っていたものの、全く関連性がないと判断されたようだった。
被害者……警察ではそうは呼んでいなかったが、不審なことが無かったか聞かれたくらいだ。
Tmitterのことなど言えるわけもなく、2人は当たり障りなく無関係を主張した。
もし若堂のことを訴えたとしても、真面目に取り合ってもらえないどころか、むしろ面倒なことになるだろう。
彼らはファミリーレストランに既に長時間滞在していた。
冷めたパンケーキを少しずつ咀嚼する。
botめいた作業を続け力尽きて、2人はぐったりとしていた。
「蚊食鳥は、まだかなー」
レイジの呟きに、半眼になったキューちゃんがもごもごと言う。
「蚊食鳥も他の人も若堂の昔のウェブサイト探してるよまだ」
「黒歴史探しかー」
「そうだねえ」
「さっきいいそびれたけどさ、」とレイジ。
「お前は、最初から蚊食鳥を信じてるみたいだったな」
キューちゃんは、レイジが暗に、先程他の仲間たちが嘘をついたことがないか聞く時にまず蚊食鳥に、連絡を取ったことを言っているのだと思った。
「そうでもないよ」
「そうか?」
「俺も蚊食鳥は疑ってたけど。ただ、蚊食鳥には無理だと思ってた」
キューちゃんの、蚊食鳥との短い付き合いで得た経験は所詮勘ではあったが。ただその勘をキューちゃんは大事にしていた。
「やっぱり、友達って第一印象だろ」
そう言って、キューちゃんは笑う。
「お前、やっぱり天使だわ」
レイジの苦笑いを見て、キューちゃんは首をかしげて笑った。
「俺たちも、出来る限りのことはしないとな」
「うん。宣伝の種は蒔いたから、後は蚊食鳥の方なんだけど」
と、言いつつキューちゃんはタブレットを手遊びのようにスワイプする。
「若堂の黒歴史探しかー・・・」
レイジは指を組み、暖色系の照明を見上げる。
自らを高みに置き、周囲を動かす人間にとっての黒歴史。
つまりそれは、今の自分とは真逆に位置する過去なのだろう。
「そういえば、さっきレイジが中学の頃のこと内緒にしてくれって意味が分かったよ」
キューちゃんの唐突な言葉に、テーブルについた肘が滑った。
「な、何ですかキューちゃん唐突に」
「いやね、俺は闇の何たらの時のことを、今レイジが恥ずかしく思ってるとか全く思ってなかったのよ」
実際あれはあれで嵌ってたしね、と付け加える。
「今はちょっとダウナー系だしさあ。ああ、そうなんだ、って」
「あれは俺の黒歴史だからな・・・・・・」
あの時の自分の言動を思い出すと、鳥肌が全身に立って掻き毟りたくなる。
そして拳銃があれば迷わずこめかみを吹き飛ばすことだろう。
それくらい、14歳から15歳のレイジは痛かった。
ダーク・フレイヤだった記憶を、自分とあの頃の同級生から消せるものなら消してしまいたい。
「若堂にも、そんな黒歴史があるのかな」
つい出た呟きを、キューちゃんは自然に受け止めた。
「俺はあると思うな。もしかしたら今まさに黒歴史増産中なのかもだけど」
「それは嫌だな」
自分を持ち上げることが大好きで、人からちやほやされることが大好きで。
黒歴史と言うものは、大体そんな感情から生まれる気がする。
そして、それは大概の普通の少年少女なら大なり小なり持ちえる感情だ。
だから、大人になってからその記憶に悶え苦しむわけで。
若堂がまともな少年時代を過ごしていれば、と言う前提がつく議論はいつしか確定事項になっている。
その考えに固執すること自体危険だとは分かっていても、今は信じるしかない。
「嘘」をとことん嫌い、自らが「本物」だと嘯く若堂の守っている部分は何なのか。
蚊食鳥たちのやっていることは、丸まったハリネズミをこじ開けて中の柔らかい部分を探す作業に思える。
タブレットやスマートフォンでは難しい作業のため、レイジたちはこうして待つしかない。
自宅に帰る選択肢もあったが、一人になるのが怖い。
もどかしい気持ちと、恐怖を紛らわしたい気持ちで2人はパンケーキを突付いていた。
「なあレイジ」もそもそとパンケーキを咀嚼しながら、キューちゃんが言う。
「若堂の言ってた、嘘吐きの人気者と、若堂が出会った気高いカラスって何なんだろうな」
「嘘吐きの人気者を大嫌いって言ってたな」
「気高いカラスってのも、言葉通りじゃなくて人間な気がする」
「若堂はイギリスにいたみたいだから、その時の話かな。ってか殆どその話だし」
そう言葉に出して、レイジはフォークを止めた。
もしかして、最初に若堂がウェブサイトを作ったとしたら、イギリスで作ったのではないか。
若堂が明言したわけでは無いが、ツミートを見ると子供の頃からイギリスに行っていた訳ではなく、ある程度年齢を重ねてからのようだ。
それをキューちゃんに伝えると、キューちゃん自身もそれには同意した。
「俺、蚊食鳥に確認してみる」
レイジは、スマートフォンを手に取ると、メールアプリを立ち上げた。
「いーーぎーーりーーすうううっ?!」
大声を上げて、蚊食鳥は両手で頭を抱えた。
そのついでにスマートフォンが額に当たって、更に頭を抱える羽目になった。
言うまでも無く日本のサイトしか調べてなかった。
DEEPER蚊食鳥、一生の不覚。
しかし、落ち込んでいる場合じゃない。
反省だけならサルでも出来る、と言うのは何のCMだっけ。
すぐに気を取り直すと、再び作業に取り掛かった。
「『ごっめーん日本しか見て無かったわ 今からそっちもやるから大丈夫!』だってさ」
「おいおいおい」
レイジが蚊食鳥からのメールを読み上げると、キューちゃんは頭を抱えた。
「まあそもそも日本人だから日本だけでウェブサイト作るとかねーわな」
「俺もさっきまで発想無かったけど、蚊食鳥なら大丈夫って思ってたのに」
「お前のその蚊食鳥への信頼は何なんだよ」
レイジの突っ込みに、キューちゃんは頬をかく。
「いや、まあほらDEEPERの中では頭の回転も速いし度胸もあるし」
「さっきの話撤回。天使じゃなくて馬鹿だわお前」
なんだよう、とキューちゃんがパンケーキを切り刻む。
それを見て、自分が頭を拳銃で吹き飛ばしても消したい黒歴史があるように、若堂も出来るものならそれは消しているだろうな、とぼんやり思った。
※ ※ ※
【引用ここから】【以下抜粋】
○○年×月×日 憧れの地!
5日前に、憧れの国イギリスに留学してまいりました。
一人で心細いのもあって、最近流行のウェブサイトを作って見ました。
BBSもつけたので、ぜひお気軽にコメントしてくださいね!
よろしくお願いします。
○○年×月×日 寂しい・・・
ちょっとホームシック気味です。
言葉は何とかなるんですけど、黄色人種はあまり好かれてないようです。
友人が出来たらなあ。
日本に居る友達と話すのが慰めです。
△△ちゃん
メールありがとう!元気出たよ!
こっちでもお礼言っておくね。
○○年×月×日 カッコいい人がいました。
大学に、凄くカッコいい人がいます。
顔がカッコいいのはもちろんなんだけど、佇まいが独特と言うか。
彼はイギリス人で黒い服が好きなようで、いつも黒尽くめです。
友達は多くない、いやいないのかな?
それでも、意に介していないようです。
口さがない同級生は、彼のことを「カラス」と陰口を叩いているようです。
でも、悪口じゃなく彼には似合う気がします。
○○年×月×日 弱音吐いていいですか
辛いです。日本に帰りたい。
でも頑張らなきゃ。せっかく来たんだから。
明日から、また頑張ります。
○○年×月×日 友達が出来ました!
「カラス」とあだ名されていた彼、ジャックと友達になれました。
僕が持っていたシェイクスピアの本に興味を抱いたようです。
「日本人がシェイクスピアを読むのか」と言われましたが、
それからは好きな作品を語り合いました。
彼は「冬物語」と「ヴェローナの二紳士」が好きだとか。
シェイクスピアの生家にも一緒に行く約束をしました。
楽しみだなあ。
○○年×月×日 満喫してます
イギリス楽しい!
やっと楽しめるようになってきました(遅い笑)
ジャックと付き合うようになってから、他の同級生とも話が出来るようになりました。
どうやらジャックは一目置かれてたみたい。
★★くん
いや、まだ当分だよー
帰ったらよろしくね!
○○年×月×日 スター
唐突ですが、僕の通う大学にはスターがいます。
とにかく華やかで、話す会話は面白くて。
いつも周りに人がいて、オーラがそこだけ違う感じ。
いいなあ、と思います。
でもジャックはちょっと彼が苦手なようで、
あいつは息をするように嘘をつくからな、と言っています。
ジャックがそういうことを言うのは珍しいので驚きました。
それはともかくとして、羨ましいです。
ああいう風になれたら楽しいだろうなあ。
僕は口下手な方なので、憧れます。
○○年×月×日 似てる?
写真はジャックと僕です。
何だか、雰囲気とか格好が似てるって言われ始めました(笑)
嬉しいな!
○○年×月×日 お誘い
スターことエドからパーティーの誘いを受けました。
ジャックは行かなくていいって言うんだけど。
どうかな?
○○年×月×日 無題
暫く更新休みます。
理由は言えませんが死にたい。
死んでしまいたい。
○○年×月×日 無題
僕の軽はずみが悪いんです。
そうでなければ、あんなことは起きなかった。
あんなことにはならなかった。
僕がすべて悪いんです。
○○年×月×日 無題
思いついたんです。僕こそが本物。
僕こそが本物のカラスなんだ。
やっと気づけましたよ。
早く気づいていればあんなことにならなかったのにね。
○○年×月×日 大学生活
大学生活は素晴らしいよ。皆でクラスの後にパブに行ってエールを飲むんだけど、最高だよね。
皆でたわいもない話をしていると、嫌なことも忘れてしまえる。
男も女も、僕の周囲に集って僕の話を聞きたがる。
そして僕を褒め称えてくれる。
僕に構われたくて、話題と興味を引くイベントを提供してくれる。僕は選ばれた王様だ。
カラスはもう僕しかいない。
○○年×月×日 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
日本に帰りたくない日本に帰りたくない日本に帰りたくない
みんな僕がおかしいというみんな僕のいうことが分からないというここには僕の世界があるんだ
みんながおかしいんだ
○○年×月×日 逃げてやる
僕は自宅に閉じ込められている。これを見ている人は僕を理解してくれていると信じている。
ネットの環境だけは取り上げられなくて良かった。
僕は鳥のように自由なんだ。
いつかここを抜け出し、僕は本物に戻るんだ。
○○年×月×日 ハムレット
僕は考える。今、生きるべきか死ぬべきかを。気高いカラスを失った僕は、カラスの紛い物として生きることにした。
僕は本物になった気でいた。
だが僕は今こそ本物にならなければいけない。
紛い物として生きるか本物として死ぬか。
ここが僕の正念場だろう。
憎み抜いた大嘘吐きに僕はなりたいのか。
僕こそが本物のカラスなのだから。
【引用ここまで】




