第一羽『ある日神様は一番美しい鳥を決めるコンテストをしようと思いつきました』
こちらはhttps://blog.hatena.ne.jp/kazusahp/kazusahp.hatenablog.com/に掲載していた
同名小説を設定等を少しずつ変えて、書き直したものです。
どうぞよろしくお願いいたします。
1.第一羽
Tmitterでの遊び方!
つみったーはユーザーがそれぞれ繋がり(フォロー)、やり取りをしたり(リプライ)してコミュニケーションをとることのできるSNSです!
①ユーザーはアカウントを公開するか鍵を掛けるか選べます。
②鍵アカウントのツミート(発言)は相互ではない他の人には見えないけれど、リプライのやり取りはできます。望まないリプライが来た場合は制限を掛けることもできます。
③節度を守って利用しましょう!
さあ、エンジョイツミート!2007年の最先端を遊びつくそう!
Tmitterとは、国家である。もし人の共通した認識の集合体をあえて称するなら、であるが。
鉄道が好きなもの、アニメが好きなもの、音楽が好きなもの、アイドルが好きなもの。
政治経済を語りたいもの、ひたすら鬱陶しい単語を並べるもの。
そんな人達がそれぞれの趣味・主義・志向の元にクラスタと呼ばれる村を作る。
それぞれは大別されて、大きなジャンルとして見えない境界線が引かれる。
日本という国の中に、もう一つ見えない国家が出来上がる。自らの、くだらない日常や興味のあること。
そういったことを呟くと言う共通意識で繋がった国家だ。
この場所には、総理大臣や大統領、国家主席のように管理するものはいない。
ただ、量産された「王」や「神」なら腐るほど存在する。
見えない国家の中で国民たちに持ち上げられた王や神の地位は、フォロワー(当該アカウントを見られるユーザー)数やFav(お気に入り)数、RT(ツミートを拡散されること)数で決定される。
中でも数千を超えるフォロワー数、膨大なRT数、数えきれないFav数を誇るTmitterユーザーが、いた。
Tmitterアカウント:@Jackdaw_hamlet。HN、若堂。
彼は確かに、Tmitterと言う国家に存在する王の中でも、最もその名に相応しいTmitterユーザーであった。
若堂は、フォロワーの誰がいつタイムライン(Tmitterのユーザーがフォローしているアカウントの呟きが一覧で見られる)に上がっても、そこにいた。
若堂がタイムラインにいないということは、ひとつのセンセーショナルな話題になるくらいだった。
彼は、スターであり、話題の中心であり、またネット上での祭の興奮を生み出す天才だった。
彼の主張が論争を生み、たまに炎上しかけることもあったが、それを収めるのもまた彼だった。
彼は有名人だった。歌手や俳優、アイドルではない。見えない国家の中で限って、スターであり、大体のユーザーが知っている有名人だ。
彼と言葉を交わすことが一種のステータスであり、また目標とするユーザーも現れる。
彼はそれを楽しんでいるのか、面白がっているのか、それは分からない。
ただ、彼はいた。
言葉遊び、話題、コミュニケーション能力、どれを取っても彼に敵うユーザーはいなかった。
軽妙な語り口は、若いユーザーに憧れられ、また年嵩のユーザーには少し鼻につくようだった。
ユーザーはいつでもタイムラインにいる若堂に議論を吹っかけたり、あるいは彼の職業や生活を詮索したり、概ね彼の存在はマンネリに弱いインターネット世界において役立っていた。
この日も、いつも通りそのようにタイムラインは彩られるはずだった。
△△△『○○さんの新作最高!すっごい感動したんだけど!』
××× 『@△△△ 新作じゃねえよ ただのカバーだろうが 原曲は##で、○○はそれ歌ってるだけの曲泥棒だろうがよ』
△△△『何か変な人に絡まれた(汗 しばらく鍵かけまーす、リプ制限もしますね』
■■■『このままでの日本では駄目だ!皆で立ち上がろう!』
◎◎◎『今日変な奴電車で見たwww http://XXXXXX~』
★★★『明日大学行きたくない・・・しにたい・・・』
◇◇◇『@★★★ 大丈夫?何かあったの?話聞くよ?』
Jackdaw_hamlet『ただいま~』
若堂が現れたのは、午後8時過ぎだった。この『ただいま』はTmitterに帰ってきた、と言う意味だろう。
フォロワーたちがざわめく。
次々に、@Jackdaw_hamlet宛の『おかえり』リプライ(@をつけた個人宛のツミート)が飛ばされる。
若堂は、リプライをくれたフォロワーに、まとめてだが律儀に『おかあり~』(おかえりありがとうの意味)と返している。
珍しいですね、とか若堂さん待ってたよー、と声を掛けられているのに引用RTで返事をしていた。
Jackdaw_hamlet『何となく、こちらに浮上する気になれなくて』
Jackdaw_hamlet『離脱していました』
Jackdaw_hamlet『皆いるみたいだね』
いるよー、とリプライを返すフォロワーたち、ひたすらタイムライン更新し続けるフォロワーたちが、タイムラインに溢れる。
Jackdaw_hamlet『じゃあ今僕のツミート見ている人、リプして』
若堂の言う通り、フォロワーたちは熱狂を以ってファンレターめいたリプライを送る。
若堂のリプライ欄は、数多のリプライであっという間に埋まってしまったはずだ。
しかし、それに満足そうな雰囲気を出しながら、
Jackdaw_hamlet『うん、たくさんいるね』
Jackdaw_hamlet『これだけいれば、楽しくなりそうだ』
何かやるんですか、とリプライがあったのだろう。
個人的なリプライではなく、『楽しいこと、やるよ』とツミートがされた。
その後しばらく若堂からのツミートは無く、フォロワーたちは期待感を持ったまま自分たちの既知のユーザーと会話を始めた。
そんな風にしていると、唐突に若堂のツミートが始まった。
Jackdaw_hamlet『今日は、ちょっと変わったイベントをやりたいと思います』
その発言が、瞬く間にフォロワーからRTされる。
そして、次のツミートがタイムラインに流れた。
Jackdaw_hamlet『今から、僕のタイムラインにいるフォロワーの皆さんを殺します』
Jackdaw_hamlet『だから、この時間を精一杯楽しんでね』
タイムラインが、静まり返った。
だが、次の瞬間怒涛のツミートが@Jackdaw_hamletに殺到した。
nolove_nolive 『@Jackdaw_hamlet じゃくどーさん、冗談キツスギデスヨーwww』
123tree 『@Jackdaw_hamlet 通報しますた』
yukayukapan 『@Jackdaw_hamlet こわーいwww今日の若堂、何か違うなwww』
nk38nk38 『@Jackdaw_hamlet 警察来ちゃいますから、早くツミート消した方がいいですよ』
nekodaisuki 『@Jackdaw_hamlet マジで?俺殺されちゃう?やれるもんならやってみろよー!』
Jackdaw_hamlet『@nekodaisuki 分かりました。じゃあ、君から』
名指しされたnekodaisukiは、あからさまに慌てて『え?え?どういうこと?』と言うツミートをした。
その様子を見ていたフォロワーたちは、『あーあやっちゃった』と生温い目でやり取りを見ていた。
ところが。
nekodaisukiのツミートが、徐々に不穏なものになってきたのだ。
冗談や釣りにしては、むちゃくちゃな内容だった。
nekodaisuki 『ちょ、何これ』
nekodaisuki 『おかしい やばいってこれ』
nekodaisuki 『音が』
nekodaisuki 『へんなおとする』
nekodaisuki 『パソコン おかしい』
nekodaisuki 『まって たすけて』
nekodaisuki 『むり』
そして、nekodaisukiのツミートが止まった。
『手の込んだ釣りだなwww』などとリプライを送るものもいたが、nekodaisukiは無反応だった。
若堂のツミートも無い。フォロワーたちの中にうっすらとした不安感が充満した頃、nekodaisuki本人のアカウントからのツミートがタイムラインに上がった。
Jackdaw_hamletからRTされて、フォロワー全員に拡散されたそれには、画像が添付されていた。
白目を向き、床に倒れた小太りの男性。恐怖に彩られた表情は、何を見てしまったのか苦悶にゆがんでいる。
頭上から撮られた構図。アニメの美少女をあしらったおよそモードとは言いがたい、だが愛情は感じるよれたTシャツ。
猫グッズが周囲に散乱し、猫グッズで出来た棺のようだった。
『これって、nekodaisukiさん・・・?』『そうだよ、あの猫グッズ見たことあるもん!』
『ここまでするかー?おーい』『ねえこれ、本当に釣り?』『やりすぎだよ。不快』
『おかしくない?これ、死んでない?』
ある一人のフォロワーの発言が、戸惑い気味だった空気を一変させた。
タイムラインに声なき声が溢れ、パニックを巻き起こした。
『マジで通報!』『やばいって。やだよこんなの』『釣りって言ってよ!』
『俺、変態ツミートしかしてないから今死ねないよ!』
『お願い、積荷を、積荷を燃やして!死ねない!』『逃げる、逃げたい』
『若堂をリムればいいんじゃね?』『嫌だ、リムる!』
何人かが、Jackdaw_hamletをリムーブ(フォローをやめること)したようだった。
Jackdaw_hamlet『逃げるのは、ルール違反だよ』
若堂のツミートが追い討ちを掛ける。
そして、雪崩のように6人のアカウントからのツミートがJackdaw_hamletによってRTされた。
もれなく、ユーザーの死に顔画像付きだ。
フォロワーたちは、ツミートに出ないタイムラインに響く悲鳴を確かに聞いた。
Jackdaw_hamlet『リムーブするような人は優先的に殺していくよー』
Jackdaw_hamlet『せっかくだから、一緒に楽しもうよ』
Jackdaw_hamlet『さあ次は誰がいい?』
彼のツミートに、あえてリプライを返すものはいなかった。
タイムラインは沈黙した。
お楽しみいただければ幸いです。