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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
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ヒロインなので悪役令嬢と断罪シーンを抜け出してみた

作者: 稲史 巳純
掲載日:2023/01/14

ちゃんとした投稿は処女作です(^^)/~~~

「イリーナ・シュタイン! 本日を持って貴殿との婚約を破棄する!」


 中世ヨーロッパモチーフ乙女ゲームのよくある断罪シーン。そんな言葉が頭を過ぎった。


 金髪碧眼の整った顔の王子様が私の腰を抱いている。壇下の人の波が避けた先で、ぽつんと銀髪縦ロールの気の強そうなお嬢様が立っている。そして今は卒業式パーティの真っ最中だ。

 そうだ、これは乙女ゲームだ。いや、乙女ゲームってなんだ。私の頭の中がぐちゃぐちゃになっていく。


 私の家は成り上がり男爵だ。昔から貴族としてやっていた訳ではなく、お金で買った爵位というわけだ。そうして、貴族が入れる学園に入った私は王子様に見初められた。


 温かい日差しの中で食べるお弁当が好きで、休み時間は裏庭でお弁当を食べていた。ちゃんとした貴族の人って豪華なお昼ご飯だから、自分の作った粗末なお弁当をひけらかすのが恥ずかしかったのもあるけれど。

 そんな休み時間を日々過ごしていたある日、ハンカチを拾った。平民でも分かる、王家の刺繍が入ったハンカチだ。そのすぐ側にはいかにも王子様な綺麗な人がいた。大股で歩いて去っていく背中に、不敬だと分かっても「すみません!」と声を掛けた。だって、私の短い脚では追いつけないほど速かったのだもの。そもそも、学園内はある程度見逃してくれる校則があるので、首切りにはされなかったと思う。

 振り向いた王子様は、とても綺麗で綺麗で。豊穣を思わす金色の強い髪が、ふわりと舞い、輝く空色の瞳が私を射抜いた。その瞬間、多分私は凄い間抜けな顔をしていたと思う。ぽかーんって。──思えば、これが初遭遇イベントか。これに私は百点満点の回答をしてしまったんだな。


「これ、落としましたよ!」


 このセリフから始まるこのイベントは、全て正しい選択肢を取ればすぐさまハーレムエンドへ向かう。ゲームの画面では四択を八回当てればいいのだ。でも、現実世界じゃ言葉なんて無限大。そのはずなのに。


「綺麗な刺繍ですね」


 思わずついてしまった言葉だった。重ねて輝く滑らかな糸が目に入ったから。このセリフで好感度がまず爆上げだ。その通りに、これはお母様がしてくれたものだからと王子様は嬉しそうだった。


「私もこんな綺麗に刺繍がしてみたいな」


 本音だった。私は刺繍がとても好きなのだ。いつか本当に好きな人ができたら、持ち物全てに刺繍をしてやるのだ。私のものだぞ〜って。母親の刺繍を褒められた王子様はテンションも爆上げだ。

 しばらく刺繍について話してしまった後、出会い頭に発言を許してもらっていないどころか、挨拶もしていないという大変御無礼なことをしたと私は気づいて謝る。それにつられて王子様も、熱くなって話してしまったと謝る。


「こどもらしいところもあるんですね」


 プライドが高いと説明される王子様には好感度が下がりそうなセリフだが、自分も冷静ではなかったと自覚している王子様には、しっかり見てくれていた、という都合のいい解釈をされて、興味をぐんと持たれる。らしい。この時の私は不意に口から出た。昔から思ったことを口に出してしまうのだ。不覚。口篭る王子様は不快そうに見えるので、このルートの発見を一層難しくしている。


「……」


 あ、やべ。また不敬だ。と思って黙るとお腹が鳴る。ここで黙るを選択する人なんて更に少数だろう。私が黙るとぐ〜とお腹が大きな音を立てた。恥ずかしくなって赤面すると、王子様が大声を出して笑う。王子様も人間なんだなぁとこの時は思った。今は思ってないけど。そして、ここのお昼の申し出には断る。


「私! そこのベンチで食べたいので!」


 王族の誘いを断るとか本当に不敬だな、自分。でも学生の身分に甘えていたところはある。近くに人が居なかったのもあるかも。この出来事以降は(多分)不敬してないし。それでここで別れようとすると、名前を聞かれる。


「ベルソン男爵が娘、マーガレット・ベルソンでございます……」


 ぎこちないカーテシーでも、王子様はにこにこと見守ってくれる。凄くいたたまれないんだけど。ついでにここの選択肢で「名乗るほどのものでは……」と選ぶとバッドステータスがつく。なんでや。

 そして次の選択肢は重要。王子様は「マーガレット、僕は好きなことをすべきかな?」と聞いてくる。これは、食堂に仲間がいるけど行かなくていいかな、という意味と、王子という据に生きたくないよ、という気持ちが入っている。それに対しては優しく答えるべきだ。


「殿下は、殿下の好きなように生きられるのがよろしいと思います」


 そうしてはにかんで答えたのが私の運の尽き。宰相の息子だとか騎士団長の息子だとか補佐官の息子だとか、所謂攻略対象の王子様と親しい人達がやってきて一緒に過ごすようになる。大勢の人といるのは楽しいけど、何故か私と王子様をくっつける話になって、婚約者をどかす話になって、何かいろいろでっち上げて、今に至るというわけだ。何故かというか、シナリオだからそうなったのだろう。私の意見も気持ちも無視されていた。王子様はかっこいいと思うけど、かっこいい止まりでそれ以上の気持ちはないもん!


 シーンを戻して冒頭。婚約破棄を宣言した王子様に、悪役令嬢こと、王子様の(元)婚約者のイリーナ様は、ただ一言。


「理由は?」


 その言葉に後ろに控えていた宰相の息子様が前に出てくる。手元の紙はでっち上げの罪が書き連ねられている。頭のいい四人で作っていたデタラメだけどちゃんと証拠のある冤罪だ。証拠も捏造だけど。でも、私はそんなことより彼女に釘付けになった。

 しっかり巻かれた硬そうな銀色の髪に、つり上がった目。そこから覗くアメジストは興味なさげに鈍く光っている。手入れされている肌は、化粧が薄くても良く映えている。でも、そんなことより、さくらんぼのような唇から吐き出されるため息は、呆れた時に指を弄んでしまうその癖は、姿形が変わっても間違えない、紛うことなき私の──。


「りっくん!!!!!!」


 虚言を遮って長い階段を下っていく。王子様に用意されたサイズの合わない靴はどちらも脱げた。驚いた顔が段々近づく。アメジストが私を映している。


「おい、待て!!」


 背中に受ける声は聞こえない。彼女の白い手を取って外へ走っていく。だって、二人きりになりたいから。また、愛してるって抱きしめて欲しいから!

 考えもなしに飛び出した私は城門が馬車で塞がれていて止まってしまう。微かな光を受けて輝く金色の紋章は、王子様の横で何度も見た、シュタイン家の物だ。


「お待たせ、この子と、帰る、わ」


 私の後ろから出たイリーナ様は、下りてきた御者に言った。そしてそのまま私をエスコートして馬車に乗せてくれた。

 カタカタと無言で馬車が進む。夢中になって、結局大不敬を犯した私はどうなるんだろう。前世で愛しい相手であった彼女を見る。


「……着いたら、湯浴みをしましょうね」


 優しい眼差しに私は一安心するのであった。


***


 数ヶ月後、私はイリーナ様と馬車に乗っていた。よく晴れた休日の日だ。


「イリーナ様、今日はどこに行くんですか?」


「貴女を連れて街を歩きたいと思ったの。貴女の好きなアップルパイのあるカフェも行きたいわ」


 あれから私はイリーナ様に保護されて、家は取り潰しになって、王子様とイリーナ様は婚約破棄して……。といろいろあった。

 家の取り潰しは、シナリオ通りなので分かっていたけど、大好きなパパが責められるのは少し悲しかった。でも平民に戻っただけなので、正直ノーダメージだ。

 本当の乙女ゲームでは、悪役令嬢が断罪された後、王子様の婚約者になるが、ヒロインの実家が不正取引に関わっていて、婚約者としてピンチになるけど、王子様の愛を持って平民落ちせずに婚約は続行、ヒロインは更に努力して王太子妃になるべく努力を積み重ねる──と進む。不正取引と関わってると言っても、パパは騙されていただけなんだけどね。貴族籍剥奪は元平民だったパパへの恩情だと思う。私はシュタイン家の御屋敷にいて何も分からないんだけど。

 そして平民に戻った私はイリーナ様に言われた。「私専属の侍女になる気はない?」と。もちろん、りっくんの側にずっと居たかった私は二つ返事で了承!


「ほら、着きましたわよ」


 侍女なのにお嬢様にエスコートされる状況だけれど、幸せなのである。着いたカフェでは、侍女と主が一緒に食事をするべきじゃないと、後ろに下がったけど、イリーナ様が椅子を引いてきた手前 座らない訳にもいかず、二人で席に着いた。目の前の麗しの令嬢は満面の笑みである。

 運ばれてきた大きなアップルパイを二人で取り分けると、りっくんは嬉しそうに言った。


「貴女は昔からりんごが好きね」


 私は頬張ったまま頷いた。

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