新たな敵か? それとも……
「きゃああっ」
恭子は悲鳴をあげるが、おそらく何が起きたかわかっていないだろう。
「チョ! 何が起きたの! 先生! どうしたの?」
恭子が私のブレザーの裾を引っ張って慄いているが、知りたいなら、お前も同じ目に遭わせてあげてもいいぜ?
まあ、恭子はある意味被害者だから、お仕置きしてやるほどではないな。
突き当たりの壁の前で、崩れ落ちて動かない九条に目もくれず、私は三階にある部室を目指して階段を上り始めた。
「ちょっとお! ミキちゃん、どうする? 先生このままにしておくの?」
「さあ? 心配なら介抱してやれば? 私は、こんな失礼な男に関わりたくないんでね」
とりあえず助けを求めに行ったのだろう。恭子のバタバタいう足音が響いている。
誰かが階段の踊り場にいる。
顔を上げた私に、スラリとしたきれいな女の子が声をかけてきた。
「あなた、一年生? こんにちは。私は、教育実習に来てる滝沢芳」
「……こんにちは」
「見たわよ、すごい力を持ってるのね」
「!」
教育実習生、ということは大学生よね。私の超能力が見えた? 一体、何者?
「私も、不思議な力を少しは使えるのよ。だから、あなたが九条にしたことも見えたの。あっ、私には技をかけないでね、私はあなたの味方なんだから」
「味方? 私には、そもそも敵なんかいませんが」
「そう? 九条を叩きのめしたってことは、あなたは私と同じ側の人だと思うの」
「同じ側?」
「そう。フェミニストって知ってる?」
知ってる、と言いかけて口をつぐむ。高校生の頃の私なら、そんな言葉は聞いたこともなかっただろうから。
「じゃあ、ウーマンリブは? 最近よくテレビに出てるでしょ?」
ウーマンリブ!
なつい、懐かしすぎる!
そんな言葉あったなあ。
でも、どんな概念かは知らない。フェミニストの先駆けだろうか?
「私たち女性は虐げられている、と思わない? さっき、あなたが九条から辱めを受けた現場を見ちゃったの、ごめんなさいね」
虐げられている!
辱め!
今は何時代? 昭和時代じゃよ。時代錯誤が過ぎる! と、腹の中でひとりで会話し、突っ込んでみる。