セクハラをぶっ潰す(上)
学校に着いた時は、一時限目がちょうど終わったところだった。
「うーっす」
ベルの鳴る中、私は教室の引き戸を開けた。
「花村、どうした? 今日は重役出勤か?」
教壇にいた地学の教師、九条がからかうように言った。
クラスメイト何人かが、教師の言葉に笑う。
「ジューヤクシュッキン? ってなんすか?」
私が無表情で返事したので、九条はちょっと驚いた顔をした。
そうだろうな。昔の私なら、「すみません、バスに乗り遅れてしまって」とかナントカ弁解しながら、ヘコヘコ頭を下げて席についていただろうし。
そもそも重役出勤ってなんだよ。古いんだよ、バカか。
重役も早く来るのが今の時代なんだよ。重役の遅い出勤を良しとするような会社はダメなんだよ。
「なんかお前、いつもと違うな。どうした? 体調不良か? 生理か?」
私は耳を疑った。
こいつ、どストレートにセンシティブな話題をぶっ込んできやがった。
こんな酷い時代だったのか? 昭和時代って。
「そんなもん、とっくに上がったわ!」
思わずマジに返してしまった。
「は?」
九条は怪訝な顔をする。
しまった、今の私は女子高生だ。
「みんなの前で、生理の話なんてするか? あ?」
焦りつつも、ぞんざいに返すと、九条はびびってしまったようで、「ま、まあいい」と小声で言い、憮然とした顔で教室から出て行った。
「ちょっと、ミキちゃん。どうしたの? なんかいつもと雰囲気が違うけど、体の調子が良くないの?」
私の席の後ろの森恭子が声をかけてきた。
「いや? むしろ、絶好調なんだけど」
「でも、スカッとしたわ。よく言ってくれたわね。あいつ、失礼すぎる。みんなの前であんなこと言うなんて」
「まじでクソだよね、セクハラ大魔王」
「え? せくはらだいまおう? 何て言ったの?」
「あ! そうか! 今は昭和時代か。セクハラの概念ってないのか!」
「せくはら?」
「別名、性的嫌がらせよ。性的な発言や行動をして、まわりを不快にさせること。さっき九条が私にやったことはそれ!」
「へー! 初めて聞いた。でも、前から九条って、スケベそうで下品で嫌いだったのよー。そういうことか」
恭子は感心している。
面白い。
私のやるべきことのひとつは、どうやらセクシュアルハラスメントを糾すことのようだ。