半世紀ぶりの復讐(下)
「あー、やれやれ」
私はうんざりした調子で、ひとりごちた。
岩切の態度に頭に来て、思わずしばき倒してしまったが、肝心の自白は取れていない。
バスは結構混んでいたから、これ以上客を乗せるのは無理と判断して、この男はバスを出発させたのかもしれない。時間も遅れてたし。
NO NO NO!
半世紀前、こいつが私に嫌がらせした時のことを思い出せ。
あの時は、バスはそこまで混んでいなかったはず。ここ重要。
私は停留所から少し離れたところに停まったバス目指して、人波をかき分けて走ったはず。それも、岩切にアピールするように手を振りながら。これも重要。
しかし、乗ろうとした瞬間、扉が閉められたのだ。
さらに、バスを追いかけて、ちょっと、かなり、結構! 走らされたはず。
YES YES YES!
やっぱ、やっつけておいてよかったのだ。
道路で停車したままのバスを振り返り、私はハンドガンポーズを取って撃つ真似をする。
「ぱん」
次の瞬間、ガシャン! と音がして、バスのリアウインドが割れた。
「ウソ! マジか!」
こんな能力もついてたのか!
遠くで救急車のサイレンが鳴っている。パトカーの音もする。近くで聞くと、けたたましい。いや、うるさい!
「うるせえー!」
サイレンの音が止んで、パトカーが急停止した。
首を振りながら、お巡りさんが二人降りてきたのが見えた。
私の「うるせえ」という声で、パトカーのサイレンを鳴らす機器が故障したのかもしれない。
チートすぎる……!
私はのんびりと歩いて、次の停留所を目指すことにした。
「もう、今日は遅刻だ、遅刻」
昔の私なら血相変えて、なんとか始業時刻に間に合うよう走ってみるとか、色々無駄な足掻きをしただろうけど、今はそんなことする気も起きない。
昔の私。
そう、若かりし頃の私なら、遅刻なんて許されないって焦りまくっていただろう。
しかし、歳を取ったせいか、なんか何もかもどーでもいいんですけど。
人生やり直しの今、次は学校で何が起こるのか、ワクワクするぜ。
なぜなら。
教師どもが、遅刻した私に対してどう出るか?
yeah! めっちゃ楽しみ〜。