半世紀ぶりの復讐(中)
どうやらバスは遅れているらしい。
停留所には溢れんばかりの人、人、人。
やがて、ブロオォという音と共にバスが1台到着した。が、ピッタリくっつくように、後方にもう1台バスがいる。さらに、バスがもう1台、こちらに走って来るのも見えた。
私が乗るのはどれだ。
最初に到着したバスは、バスレーンにデンと停まっている。2台目がそのすぐ横につけた。さらに少し後方で停まる3台目。2台目が私たちが乗るバスだな。
私は小走りでそのバスに向かうが、人多すぎな件!
「すみませーん!」
バスの乗降口にたどり着いた途端、私の鼻先で扉が閉まった。
デジャヴ!
「あーん」
私のすぐ後ろで、サチが困ったような声をあげる。
私は手を伸ばし、ドアを強く叩いたが、その手を弾き返すようにバスは出発した。
「あっ!待て」
私は叫び、バスを追って走り出す。
「危ないぞ! 次のバスを待ちな」
誰か男性の声がする。
いや、それじゃあダメなんだよ。
このバスを止めないと!
私は車道を爆走し、バスを追い抜いた。運転手は少し驚いた顔をしたが、彼は何を思ったのかアクセルを踏んだようで、バスはスピードを上げて私を振り切ろうとする。
バスの警笛音が響く。
うっせえ!
今の私に喧嘩を売るなんて、百年早いんだよ!
『怒髪天を突くぅー!』
私の髪の毛が伸びて、バスの三角窓を突き破る。髪の毛は、意思を持った生き物のようにしなやかにブレーキに巻きついた。
大きな車体が、ガクンと揺れて急停車する。
同時に、髪の毛は運転手の横っ面を思い切りはたく。
運転手はハンドルに突っ伏した。
乗客のひとりが運転席まで来て、運転手が失神しているのに気づくと、あわてて後方の非常扉を開けた。その時には、何事もなかったように私の髪の毛は元通り。誰にも何も気づかれていないようだ。
非常扉から乗客が次々と降りて来る。皆、困った顔をしている。ご迷惑をおかけして申し訳ない。だが、せっかくの仕返し、大袈裟に言えば『復讐』の機会が、半世紀振りに訪れたのだ。そして、私のように、嫌がらせを受けたことがある子はきっと他にもいるはずだ。痛い目に合わせて反省させなければならないのだ。
私は乗客全員が降りてから、バスに乗り込んだ。
バス前方、窓の上に貼り付けられているプレートを確認する。
「運行責任者 岩切正」
ハハッ、笑わせんな。
テメーのどこが正しいんだよ。
私は岩切をつついた。飛び起きた彼の目の上は腫れあがり、鼻血が出ている。ちょっとかわいそうな気もしたが、私は岩切に尋ねた。
「何故、いたいけな女子高生を乗せなかった? 女の子が困ってる姿を見るのが好きなのか?」
「は? ナニ言ってる?」
私の髪の毛は、もう一度岩切の頭を殴りつけた。なにが起きたかわからない岩切は悲鳴を上げ、再び運転台に突っ伏した。