そろそろ疲れてきた
私の発した奇声に反応して、総理が立ち止まってこちらを見た。
マズい! 私はさりげなーく目を逸らす。総理は微笑んで芳に声をかけてきた。
「おはよう。今日は一日中一緒ですね、よろしく」
「はい!」
芳は深々とお辞儀する。総理は頷いて、再び歩き出した。
「じゃ、ここで。今夜は、官房副長官と私と総理で食事する予定だから、またその後ね。菅生くん、花村のこと、よろしくね」
芳は軽く手を振り、総理の後を追うように歩き出した。
菅生くんは、俯いてスマホをいじっている。仕事中にスマホかい!
「他の秘書官の方に先生の到着を連絡しておきました。先生のことは全て秘書官の方々にお任せなんです。じゃ、僕たちは議員会館の方に移動しましょう」
彼はそう言って、議事堂の入り口でお辞儀して階段を降りて行く。業務連絡もスマホなんだね、なるほど。私はどうしたらいいかわからないから、とにかく菅生くんの後について行った。何が何やら、五里霧中。いや、五里夢中である。
「花村さんの次元の総理と、こちらの総理は同じ人物ですか?」
「うん。……っと失礼。はい、同じ人に見えますねー」
「そちらの世界の総理のお名前は?」
「岸田さんです、あだ名は検討使」
「は? なんですか? 遣唐使?」
「検討します、ばっかりで何も決められないって揶揄されて、そんな失礼な呼び名がつけられたんです」
「へえ。我々の次元の総理と真逆ですね。どんな問題でもサクサク決めてしまうんです」
「サクサク?」
「総理就任前から、憲法改正、増税、いろんな課題に意欲的でしたからね、なんでもパパッと決めちゃう」
菅生くんは軽い調子で言うけれど、そんなんでいいの?
「だから、花村さんみたいにストレイチャイルドになってしまった人を研究する機関も、すぐ発足させてます。早く解決したらいいですね」
なんじゃい、そのケーポドルみたいな呼び方。
「はあ……」
「どうしたんですか? 元気ないですね」
「いや、なんかもう無理なんじゃないか、ややこしすぎて、って不安になってます」
ここにきて、急に私は弱気になっていたのだ。フツーのおばちゃんが、休む間もなく異次元に飛んで行くだけでも疲れるのに、この次元では同性婚してたり、政府の要人にお目にかかれたり。目まぐるしく変わる人生に疲れ果ててしまっている。
やばいよ、やばいよです。
政治関係に関わりたくない私ですのに、どんどん深みに……!




