疑問符だらけ
芳に急かされ、大急ぎでスーツに着替える。
私みたいなオバちゃん体型にはカチッとしたスーツは似合わないと思ったが、着てみると案外いい感じだ。
玄関の姿見でほれぼれと自分の姿に見入っていると、
「何してるの、行くわよ」
と、既に外に出ている芳の冷たい声がする。
「ごめんごめん、なんか新鮮で。素敵なスーツね」
「この次元のあなたはセンス抜群なの。骨格診断だの、パーソナルカラー診断だの、私も色々やらされて。でも、おかげで私も洗練されて、有権者の支持層は拡がったと思うのよ」
それにしても、ヒール靴は履きにくい。いつもウォーキングシューズしか履いていない身には中々ツラい。
「こんな靴は女の敵やと思うけどなあ」
私のぼやきに、芳が笑って返事した。
「ヒールの靴は苦痛よね。私も嫌い。でも、あなたは若い頃からハイヒールが好きな人みたい。これはそこまで高いヒールじゃないし、23万円もしたブランドものだから許してあげて」
!!!
この次元の『私』は何もかも私と違いすぎる。
「ホントの異次元だ」
「そう? 見た目が同じだから、正直私は戸惑ってる」
「それなんだけど、今の私っていくつ? 何歳?」
「45歳よ」
「やっぱそうか。謎だわ。本当の私は2023年現在、還暦なの。でも、ここは2024年でしょ、なら、今61歳のはずなのに」
「へえ? それは面白いわね。あとで、あなたの体験したこと全てを、詳しく政策秘書に話しておいてくれる? とても有益な情報だから、研究部会に教えてあげたいの」
芳のタワマン、そして黒塗りの公用車へと移動する間に、そんな話をした。車は、第二秘書の菅生さんという若い男性が迎えに来てくれたものだ。車内では、いつもなら今日一日のスケジュールを確認するとのことで、本来なら私の仕事である。しかし、私は素人オバちゃんであるから使い物にならない。
芳は、全て把握しているから大丈夫、と言い、
「菅生くん、今日は花村の分も、あなたに働いてもらうしかないの」
と付け加えた。
運転席から「え?」という疑問符つきの声が返ってきたが、芳は「あとで詳しくはメールするから、よろしく」ときっぱり言い切り、それ以上は口を挟ませない雰囲気である。
やがて国会議事堂の建物が見えてきた。
「私の次元の国会と同じような建物だわ! 私は入ったことはないのよ。見学もしたことないから。あー緊張する!」




