やばいことになりそう
「なんか、ごめんね。私がここに来ちゃったために、あなたの奥さんを追い出しちゃったのよね?」
「なんであなたが謝るの? あなただって被害者でしょ?」
「被害者?」
それは思ったことなかった。
「あなたも、時空の歪みに巻き込まれた被害者かもよ」
「そこまで研究は進んでるの?」
「さあ? そういうのは研究者に任せてるから、私にはわからないわ」
「じゃあ、なぜ私が選ばれて、あなたは転移しないの?」
芳は「えっ?」とつぶやいて、ちょっと考えるような顔をした。
「選ばれし者、なんじゃない?」
「はぁ? ナニそれ? 私が?」
私は至って平凡なオバ。
容姿は言うに及ばず、学歴・職歴・資格どれも並。もしくはそれ以下。
「選ばれし者って、そんなスペックうんぬんじゃなくて、神のご意志で選ばれた者って考えるのよ。謂わば不可抗力」
「ふーん」
「何にでも意義を求めたり、自分のせいだなんて考えたりするのって正和時代の名残ね」
「せいわ時代って何?」
「ああ、ごめんなさい。令成の二つ前の時代のこと。女が不当に虐げられていた時代よ」
この次元の芳は、やはりフェミ子だったかー!
「不当に虐げられてって、大袈裟じゃない? 確かに、不当に性的搾取されていた部分はあったかもしれないけど」
「やっぱり私の妻とは違うわね。彼女は、私以上にフェミニストなの。男性嫌悪に近いものもあった」
芳はそう言って黙り込んだ。そして、しばらくして彼女は私の手を取って、妖艶に微笑んだ。
「難しい話はやめましょう」
芳は、おもむろに私に飛びつくように抱きついて、そのままベッドに押し倒してくる。
「ち、ちょっと! 芳! 何すんの!」
「さっきの続きよ」
そう言って、私の頬に何度もキスして、最後は唇にスライドしてきた。
「辞めなさい!」
彼女の肩を押して、ようやくキス攻撃から逃れて叫ぶことができた。
「ちょっと! 私はあなたの奥さんとは違うのよ」
「さっきまではそうだったじゃない。つまり、その…… 始めた時は。だから最後までやっちゃおう、ね? 女同士もいいものよ」
「いやです」
芳は、冷たく言う私を無視し、私の膝の内側にツツーっと指をすべらし撫でた。やだ、気持ちいい。
彼女は私の反応を見て、しばらく私の腕を撫でさすっている。
「気持ちいい?」
芳は、今度は私のふくらはぎを撫で始めた。
困った。なんかやばいことになりそう。
突然、芳の手の動きが止まり、
「さ、出かけましょう。仕事よ。今日も集中審議の続きがある」
きっぱり言う姿は、さっきまでの妖艶さが嘘のようだ。
「ごめんね、あなたを試したの。違う次元のあなたの性的指向を知りたくて」
申し訳なさそうに言うと、私の手を引っ張って起こしてくれた。




