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芳と妻妻(ふうふ)⁉︎

「ここは……」

 私はベッドに横たわっていた。真っ白なシーツに、ふかふかのベッド。

 これは。

『パパちゃま』こと、キモ旦那の存在する世界線に戻っちゃったの?


「おはよう」

 快活な女性の声がして、私はその声が聞こえてきたほうを見た。

「芳?」

 少し太ったのか、老けたのか。

 今の芳は、四十歳くらいだろうか。


「ごめん、芳。教えて。今は西暦何年?」

 私は起き上がる。

「どうしたの? 唐突に。今は西暦2024年じゃない。パリ五輪(オリンピック)が来週から始まるわ」

「マジか! 未来に行っちゃってる!」


 どういうことだ。いや、でもタイムリープしてるんだから、どこに行くかわからないわけで。むしろ、今まで縄文だの戦国だのの時代に飛ばされていないだけマシだったのかもしれない。


「西暦2024年、令和六年か」

「令和? 令成六年の間違いよ。何言ってるの」

「れいせい? パスタかよ……ということは、ここはやはり違う次元か。でも、ここもパリ五輪はあるんだな」

「大丈夫? さっきから意味不明なことばかり言ってるけど」


 薄紫のシフォン地のドレスを(まと)った芳は、優雅に微笑んだ。いろんな次元のいろんな年代の芳を見てきたが、どこの彼女も美しいのは一緒。

「実はね、私は時空の旅人なの。ここにいる私は、あなたが知ってる花村美樹じゃないの」

「あら! それで?」

 芳にあっさり言われ、私は戸惑った。


「冗談や作り話じゃないのよ、本当なの」

「だから?」

「驚かないの?」

「だって、あなただけじゃなくて、いろんな人にそういうことが起きてるんだもの。数は少ないけど。昨日の予算委の集中審議も、その事象の研究費について行われたの」


 私はベッドに腰掛けたまま、自分の身に起きていることを話した。

「私の家族にもそんなことが起きるなんて。どうしよう。しばらく、そのことは黙っててくれる?」

「家族? 私と芳は家族なの?」


「何言ってるの、私たち、もう結婚して五年目じゃない」

「結婚‼︎ 私と芳が?」

「あっ、そうか。あなたじゃないわね。あなたは違う時空から来た人だった」

「この次元では、同性婚が既に当たり前のことなのか」

 芳は困ったような顔をした。


「あなたは私の妻であり、国会議員の第一秘書。どうしたらいいのかしら」

「第一秘書?」

「私は官房長官なの。ついでに教えておくと、次期総理候補のひとりよ」

「えーっ! この次元の芳は凄い人なのね!」

「別に凄くないわ。たしかに努力はしたけど、運が良かっただけだし、あなたの助けがあったし」


 芳によると、この世界の私は超有能で、芳が議員になる前から政治活動をしていたらしい。そして、様々な(つて)を頼って彼女を売り込み、高校教師をしていた芳を、『美しすぎる国会議員』という地位に押し上げたのだという。


「暴力教師、セクハラ教師、嫌な奴を見てきた私は、教育界を変えたいと思って教師になった。でも、所詮一介の無力な女教師。そこにあなたが現れて、『教育界を正すには国を動かすしかない。議員、総理大臣になりなさい』って励ましてくれたのよ」


 芳は熱を帯びた調子で語ってから、ニコッとした。

「励ましてくれて、共に闘ってくれているのは、あなたじゃなくて、この次元の『あなた』なんだけどね」

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