浮気はするべきってコト⁉︎
「えっ? それは私の決め台詞では?」
私は母を見て驚く。なぜなら。なぜなら!
母の髪の毛がびよーんと伸びて、父をしばき倒したからである。父は「うっ」と呻いてのけぞった。そしてそのまま仰向けに倒れた。
「おかあちゃん!」
「何?」
母は澄ましている。涼しい顔とはこういう顔を言うのだろうか。まさか、自分がしたことに気づいていないのか?
「困ったおとうちゃんやなあ。大騒ぎしてミキを起こして、自分はいきなり寝てしまうなんて。こんな人、放っといて寝なさい」
父は気を失っている。いや、寝ているのか? すやすや気持ちよさそうに寝息を立てている。
多分、明日は何事もなかったように起きて会社へ行くだろう。私の次元の父はそうだった。
毎晩のように飲み歩き、女と遊び、好き勝手していたが、結局夫婦別れすることもなく、無事定年を迎え、年金いっぱい貰って亡くなった。
(おとうちゃん、アンタはホンマに幸せな人でんな)
私は声に出さず、寝ている父に語りかける。
それにしても、どうして父はあんなに浮気していたのだろう。
父だけじゃない、私の周辺のおっさんは皆、浮気していた。若い頃に勤めていた会社の上司も愛人がいたなあ。単身赴任していた人だったが。その上司によると、男性社員は『現地妻』がいた人が多かったらしい。何だよ、現地妻って。流行語大賞at 昭和なのか?
過去を振り返って、私は思った。
もしかして、昭和人って『浮気しないといけない』って思い込んでいたのじゃないか?『男たるもの、浮気はせねばなるまい』という歪んだ価値観があったとかじゃねーの⁉︎ 馬鹿じゃん。
無論、男たちは反論するだろう。女子供に、男の何がわかるんだって。
しかし、昭和人に聞きたい。女の犠牲の上に男の快楽が成立している部分もあったんじゃねーの? って。
私は、母から聞いた彼女の人生を思う。
幼い頃、米軍の機銃掃射で死にかけた経験があり、戦後はOLの草分けで男たちのセクハラパワハラに耐え、結婚してからは浮気者の夫に泣かされ、意地悪なウトメに仕える生活。
今は認知症になってしまったけれど、それは辛い人生を忘れさせてくれようとする、神様からのプレゼントかもしれないのだ。
「おかあちゃん、おやすみなさい」
私は母の手を握り、精一杯の笑顔を浮かべる。
すうっと、背中から下半身が宙に浮く感覚があった。




