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昭和の悪しき慣行、愛人28号

 その夜、久しぶりに母が作ってくれた夕食を食べた。

 メニューは、『おかあちゃんオムレツ』と呼んでいるオムレツだ。小さく切った玉ねぎ、人参、じゃがいもを合挽肉と炒め、薄焼き卵で包んだもの。


 味付けは味醂と醤油で、ほんのり甘い。私はさらに、それにウスターソースをかけて食べる。子供時代より美味しく感じるのは幸福成分かな。人が作ってくれるご飯は、何故こんなに美味しいのだ。


「おいしいぃぃ! おかあちゃんのオムレツは最高!」

「あらまあ。いつも、またコレ? 言うて嫌々食べてるのに、どうしたの?」

「子供の頃の私は、そんな生意気なコト言うてたん?」

「子供の頃って、今も子供やろ」

「そ、そうだった。おかあちゃん、ご飯お代わり」

「ハイハイ」


 母は笑って立ち上がる。

 若かりし頃の母の姿を懐かしく思って見る。

 今は施設に入っているし、認知症だし、コロナだし。あんまり会いに行ってないな……。

 おかあちゃん、ごめん。元の世界に戻れたらすぐ、施設に様子を見に行こう。


 夕食のあと、居間に布団を敷いて、久しぶりに母と並んで寝た。

「おとうちゃん、今日も遅いな」

「……そうやな。お土産買うて来てくれるかもな」

 母は小さなため息をついた。


 私は知っている。父は愛人28号と遊んでいるに違いない。私が幼い頃から成人するまで、ずっと父は浮気していたのだ、女を取っ替え引っ換え。この次元の父も浮気三昧(うわきざんまい)かーい!


 私が小学生の頃の愛人は誰だ。キャバレーの女だったかな? それとも会社の同僚の女?

 結局、死ぬまでちょくちょく(スケ)を作って、母を泣かせていた。私はそんな父を許せなくて、およそ女に縁のなさそうな旦那と結婚したんだった。だからといって、旦那に満足していたとは言い難い。


「結局、結婚って、男女を幸せにするシステムじゃないのかなあ」

「何? なんか言うた?」

「ううん。なんでもない」

「あんた、今日は一日妙なコト言うてたな。そろそろ寝なさい、おやすみ」

 母は優しく言って目を閉じた。


 どのくらい時間が経っただろう。両親の話し声で目が覚めた。

「また、あの人のところに行ってたん?」

「違うわ。けど、違う言うても信じへんのやろ」

「もうよろし。好きにして下さい。ただし、絶対私はアンタと別れませんからね。ミキが可哀想やし」


 深刻な話になっている。私が小学生の頃、両親はこんな話していたのか? それとも、この次元の話なのか。

 コメディのはずの物語が、とんでもない方へ転がっていってる。

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