暴力教師をぶっ潰す(中)
そのとき、芳が二階から降りてきた。
母が「かおりちゃん、ちょっと見せて」と声をかけると、芳は「うん」と頷いて、母のそばに行った。両足とも、皮膚の盛り上がっている部分が、さっきより広範囲に拡がって赤く見える。
「あら! かわいそうに! ムヒ塗ったら、痒みがマシになるかな。お医者さん行った方がいいけど、そのうち引きそうやしなあ」
そんなことを言いながら、母は軟膏を芳の足に擦り込む。
「おばちゃん、ありがとう。あんなぁ、先週から毎日こんななるんやけど」
「えー? そうなんか。なんでやろなぁ。なんか悪いもん食べたんか? あっ! それか、学校や公園に生えてる木にかぶれたとか?」
「多分なぁ、先生のことが嫌いで、こんななると思う」
「先生?」
二人の会話を聞いていた私の脳裏に、六年の時の担任の顔が浮かんできた。
「タノセン?」
芳が大きく頷いた。
『タノセン』とは、田浦先生の略称である。
「あいつ! この世界にもいるのか!」
「この世界?」
「なんでもない。で、あいつに殴られたの?」
「ううん。けど、ホラ、先週タノセンにマツ子ちゃんが殴られたやん?」
あったなー。あった!
田浦は、女子は殴らない。殴っても頭にゲンコツくらいだ。それでも痛いけど。
しかし、男子には平気で鉄拳制裁を喰らわせるような奴である。
ところが、秋の音楽祭の練習の時だったが、田浦の指揮棒に合わせて演奏の『構え』の姿勢に入った際、マツ子が隣の子と喋っていて、ちょっと遅れたのだ。その瞬間、田浦が彼女の頬に平手打ちをかました。
シーン……となって、緊張感が走る。
その後、二度目は全員ぴたりと指揮棒に合わせ、演奏も完璧にこなすことができた。
しかし、何か許せない思いで、私は生まれて初めて他人に対して『殺意』を覚えた。『理不尽』という言葉も、その時に知った。
芳も同じ気持ちに違いない。
「あの時なぁ、マツ子ちゃんが殴られる直前まで、マツ子ちゃんにちょっかいかけてたん、恵美ちゃんなんよ。それなのに、タノセンは恵美ちゃんのほうを怒らんと、マツ子ちゃんを怒った。おかしくない?」
うむ。わかるよ。芳の怒りは尤もだ。
悪いのは恵美である。しかし、そっちを叱らないで、悪くない子を殴り飛ばすとはなにごとだ! 恵美は田浦のオキニであるが、マツ子のことは、そうでもない。
「その日から毎日じんましんが出るの。遊んだりしてて楽しいときに、明日学校行くのイヤやなぁ、っていう気持ちになるの。そしたら」
「わかった。かおりちゃん、私に任せろ!」
任せろなんて言ったものの、この世界の私は異能力を持っているのだろうか?
試しに、ハンドガンで壁を撃ってみた。
「ぱん!」
ボコッと音がして、土壁に大きな穴が開いた。




